「保育の無償化」における国と市町村での費用負担は妥当なのか、中央区のデータを用いて比較してみました。
おはようございます。ほづみゆうきです。そろそろ時期的に次年度からの保育園の入園申し込みの結果が届き始める時期ですね。全て落ちたときの落胆、入園が決まったときの喜びはどちらも忘れられません。社会のセーフティネットがこのような宝くじのような状態であるという状況を一刻も早く解消できれば思います。さて、最近の保育園ネタとして報道されていたものとして、以下のようなものがありました。
「保育の無償化」に関する議論の続報です。当ブログでも取り上げましたが、自民党の選挙公約として挙げられていたものの一つとして「幼児教育の無償化」がありまして、保育園での対象が当初案では「認可保育園のみに限定」ということで大きな反発を食らい、最終的に「新しい経済政策パッケージ」(平成29年12月8日閣議決定)では「認可外も一部対象」ということで沈静化しました。具体的にどのように範囲を設定するのかについては有識者検討会を設置し、1月23日に初会合を行うことになっています(この有識者検討会については、早速駒崎さんが子育て世代などの当事者がいないということで噛みついておられますね「子育て当事者「排除」の有識者会議は、幼児教育無償化を語れるのか | 駒崎弘樹公式サイト:病児・障害児・小規模保育のNPOフローレンス代表」)。
上記の記事は有識者検討会での議論を先取りするもので、この記事では保育の無償化に関する負担案を提示しています。以下のような負担割合です。
公立の認可保育所:市町村が全額負担
この記事の反応を見ると、ネガティブな反応の方が多いようです。特に公立の認可保育所は全額負担という点に関して「既に疲弊している市町村に負担を負わせるのではなく、全部国が責任を持って負担せよ」という声が多いように思われます。わたしが何となく釈然としなかったのは、本当にこの措置によって市町村が現状よりも疲弊することになるのかという点です。今回の保育の無償化が含まれる「新しい経済政策パッケージ」は消費税の引き上げによる財源を活用する、ということが前提にあります。そして、消費税の増税は国だけでなく都道府県、市町村の税収も潤うことになります。となれば、現状よりも疲弊するかどうかは8%から10%への消費税増税での税収増と、今回の保育の無償化での負担増との差し引き次第であるはずです。これらについて、過去に手に入れたデータを利用してある程度試算できそうだったので、今回は毎度ながらわたしが在住している中央区を例にして、負担がどの程度であるのか、そして現状よりもより市町村が著しく疲弊することになるのか試算してみることにします。
- 試算の内容
- 最後に
東京都のベビーシッター代、月28万円補助で待機児童は解消できるか?
おはようございます、ほづみゆうきです。明けましておめでとうございます。このブログも1周年です。これまで過去に何度かブログを書いてきましたが、1年間継続的に書き続けられたのは初めてかも知れません。今年もどうぞよろしくお願いいたします。さて、今回はベビーシッターの話題です。最近、待機児童対策の一環として、東京都がベビーシッター代を28万円を上限に補助するという予算を次年度に計上しているというニュースがありました。
待機児童対策としてのベビーシッターという手法は、東京23区にあって唯一待機児童ゼロを実現している千代田区の最後の手段としてすでに導入されていますが、今回は都全体として取り組むというものです(ちなみに千代田区は全額補助だが、今回の施策は一部補助)。
世間の評判を見る限り、どちらかというとポジティブに捉えているように思われますが、実際問題として、この対策によって待機児童で困る人たちは救われるのでしょうか。今回はこのニュースについて考えてみます。
施策の概要
まずは、今回の施策の概要を整理します。東京都の予算に関する資料があれば一番良かったのですが、都の予算のページを見ても数字の羅列しかありませんでしたので、報道の内容から拾うことにします。詳しく書かれていたのはテレ朝ニュースでした。
対象者:育休を1年間取得した後に復職し、次の4月から認可保育所を申請している保護者
対象年齢:0歳から2歳まで
対象人数:1,500人
補助内容:ベビーシッターの利用料金を月額最大28万円補助
予算規模:49億円
目的:1年間の育休を取得する保護者を増やし、人手の掛かる0歳児の保育を減らして待機児童の解消にもつなげる
内容は上記を読めば理解できるかと思います。対象年齢を絞っているものの、3歳からは幼稚園に移行する子どももそれなりにいるため、待機児童はほとんどいませんので特に影響はないはずです。この記事を見る限り、施策の意図としては0歳児での保育園利用をベビーシッターに転換していこうという方針なのかと読めます。
施策の感触:この施策で待機児童は解消されるのか?
さて、次はこの施策についてのわたしの感触です。待機児童の問題に注目が集まり、対策が行われるということは非常に素晴らしいことです。とはいえ、考えるべきはこの対策で現在及び未来の待機児童は解消できるのかという点です。結論から言うと、この施策で待機児童に対しての恒久的な対策として有効とは思えません。あくまで一次的な対処という位置付けかと思います。 以下、その理由について書いていきます。
理由1:対象人数が待機児童に比べて少ない
理由の1つ目は単純で、対象としている人数が現状の待機児童数に満たないためです。東京都が毎年4月に出している待機児童数の状況の資料(都内の保育サービスの状況|東京都)によれば、平成29年度4月時点での待機児童数は8,586人であるにもかかわらず、今回の施策の想定人数は1500人であるためです。ニーズの1/6程度であり、まったく足りません。そして、サービスの供給量が足りないということになると、希望する人たちの中で本当に必要な人は誰なのかということを公正に決定するために、現在の保育園入園と同じような熾烈なポイント競争が行われることが容易に想像されます。
理由2:ベビーシッターの確保が容易ではない
理由1では予算の話をしましたが、そもそもの問題としてベビーシッターの供給が今回想定している数(1,500名)に足りるのかという問題もあります。以下の記事は昨年11月の記事で、この時点ですでに人手不足で、争奪戦の状況にあるということです。
今回の施策による補助があれば、これまでまったく利用をしていなかった人たちが新たに一気に最大1500人も利用者として増えるということで、それだけのベビーシッターが確保できるのか疑問です。予算が足りなくなる前に、ベビーシッターの数が足りなくなるという可能性もあります。こればかりは金だけで何とかできる問題でありません。
ベビーシッター業界としてはビジネスチャンスということで必死で供給しようとするのでしょうが、そうなるとシッターの質の低下は免れません。数年前にはベビーシッターに預けられていた子どもが亡くなるという痛ましい事故もありました。補助を出す代わりに質の保証のチェック機能を設けることは不可欠でしょう。
理由3:コストパフォーマンスが良いわけではない
3点目としては、ベビーシッター代を補助するというのは保育サービスとして、決してコストパフォーマンスが良いものではなく、今後の持続可能性に疑問があるという点です。過去に調べたのですが、ベビーシッターサービスの最大手であるポピンズの費用は1時間あたりスタンダードで2,500円。諸費用はとりあえず無視するにしても一般的な9時から17時で利用すると1日で17,500円。単純に月に20日と考えると35万円。フルタイムで働いている家庭であれば、だいたいこの程度の金額が通常は必要です。
引用元)エリアと料金表(首都圏・東海エリア・関西エリア)|ナニーサービス|ポピンズ
この金額に対して、最大月額28万円(年額336万円)を補助するというのが今回の施策です。それでは、限られた予算の中で効率的に希望者に対して保育サービスを提供していくという観点から、今回の施策が望ましいのでしょうか。
都市圏において保育園を新たに作るコストは高いので、これと比較すればベビーシッターの方が合理的であるという意見はあります。特に、0歳児は保育園で預かる費用が上の年齢よりも高いという話はそれなりに有名な話かと思います。以下の表は杉並区の平成28年度の行政コスト計算書で、この表では0歳児にかかるコストは年間374万円で突出して高い金額となっています(5歳児では189万円、0歳から5歳の平均では236万円)。
この2つの数字だけを見れば、0歳児であれば、ベビーシッター代を補助した方がむしろ安上がりということになります。
しかし、忘れてならないのは保育サービスは何も保育園だけではない点です。たとえば、上の表にも「保育園」の他に「保育室」という覧があります。これは杉並区が待機児童解消のために整備した認可外の保育施設で、保育園よりも小規模な施設における保育サービスであるようです(詳細は以下リンクをご覧ください)。
この場合の費用は0歳児でも179万円で、保育園のコストの半額以下です。これはあくまで一例で、保育サービスには保育園以外にも小規模保育事業(フローレンスの「おうち保育園」が有名ですね)や保育ママなどいくつかの選択肢があります。これらのコストがどの程度かについての情報は見つかりませんでしたが、小規模保育事業は杉並区の保育室事業と仕組みが似ているので同等程度と思われます。保育ママは(中央区の事例が全国でも同じであると仮定すると)保育者1人に対して3人の子どもまで預かってもらうので、1対1であるベビーシッターに比べればコストパフォーマンスが優れるのはおそらく確実です。行政コストの観点だけでなく、実質負担額が7万円程度ということを考えると実質的に利用者が支払う額としてもこれらのサービスの方が低コストです*1。
これまで何度も保育園関係のネタを書いてきているわたしではありますが、とはいえこの分野に対しては採算度外視で何でもかんでも予算を増やすべきとは思いません。重要性は十分に理解するにしても、その支出が無制限に肯定されるわけではありません。同じことをやるのであればより安価に、同じ予算を支出するのであればより効果的なことを行うことを行うというのは当然です。この意味で、今回のベビーシッターに補助を行うというのは決してコストパフォーマンスが良い選択肢であるとは思えず、上記に挙げた保育サービスが充実するまでの繋ぎとして位置付けられるべきものと考えます。
まとめ:保育サービスは今後どうあるべきか?
上記に書いたとおり、今回の施策はこれまで何の手当もされなかった待機児童たちへの措置で、それ自体は望ましいことであると思います。しかし、サービスの供給量が需要を確実に下回ることが想定されるため、この施策によって待機児童の問題が解消するということはありません。足りなければ単純に増やせば良いという話になりますが、、ベビーシッターの供給量が潤沢とは思えないため、こちらがボトルネックとなって想定していた1,500の家庭が救われるとも思えないというのがわたしの感触です。
さらに、決してコストパフォーマンスに優れる施策ではないので、今後の持続可能性にも疑念が残ります。あくまで一時対処として位置付け、この間に低コストで十分な質を保った保育サービスを充実させていくべきではないかとわたしは考えます。
最後に
今回は東京都のベビーシッター代の補助について、調べてみました。決して完璧な施策であるとは思えないというのが感想ですが、着実に待機児童の問題に世間の注目が集まっているというのは良いことであると思います。近い将来、このような問題があったことを過去のこととして笑える日が来ることを期待しています。
*1:
以下のグラフは中央区の認可保育園、認証保育園、認可外保育園のそれぞれの1人あたりの保育料を比較したものです。中央区の場合、認可保育園であれば保護者が支払っている保育料は1.8万円程度。他の自治体の扱いは調べていませんが、中央区では保育ママも小規模保育事業も保育料はこの認可保育園と同じなので、7万円からすれば圧倒的に低コストです。
引用元)「保育の無償化」に必要な予算と、その予算で他に何ができるのか中央区のデータで試算してみました。 - 東京の中央区で、子育てしながら行政について考えるブログ
ちなみに余談ですが、認可外保育園の平均は10万を超えており、この金額を考えれば自己負担額が月額7万円でベビーシッターを利用できるというのは破格です。むしろ、今まで認可外に通わせざるを得なかった層が今回の施策によってベビーシッターになだれ込むことすら考えられます。このようなモラルハザードが起こらないよう、全ての保育園を希望したにもかかわらずどこにも入れなかった人限定にする、自己負担額は認可外保育園での保育料以上程度に設定する、といった対策が必要でしょう。
東京23区民として、ふるさと納税の全自治体の収支状況から今後のあり方について考える。
年の瀬ですね。ほづみゆうきです。昨年は年末も仕事が詰まっていたので正月どころではなかったのですが、今年は落ち着いた年末年始を過ごすことができそうです。年末と言えばふるさと納税、というのはわたしだけでしょうか。おおよその年収が分かるのがこのタイミングという点もありますが、申し込むことのできる最終的な締め切りが年末であるという点もあるのでしょう。数年前から、税金の一部をふるさと納税として他の自治体に納めており、肉や野菜など地方の産物を楽しんでいます。
このふるさと納税制度、一人の住民としては何に使われるのか分からない税金を他の自治体に支払うことでお得に美味しいものを手に入れることができる仕組みではありますが、社会全体としては必ずしもそうではありません。東京などの都市圏ではふるさと納税により税収が大きく減っているということで、総務省に対して是正の要望が出されています。そして、この要望を受けてか、総務省は大臣の通知として今年の4月には各自治体に対して「返礼品の上限を寄付額の3割以下」にする旨の通知が発出されました。
このような動きの背景にあるのはふるさと納税の規模の急拡大です。返礼品の金額の割合を下げるにしても、おそらく今後も拡大していくことは間違いないでしょう。そして、そうなった場合には都市圏での税収減は無視できない規模にまで拡大していき、行政サービスにまで影響を及ぼしていく可能性もあります。東京23区に住む者として、このふるさと納税制度とどのように付き合っていくべきかについて今回は考えてみたいと思います。
続きを読む東京23区の行政に関する主要なデータを決算カードから抜き出してみました
おはようございます。ほづみゆうきです。久々の更新です。来年度の保育園関係の申し込みは12/1の締切を迎え一段落したところなので、今回は前々から何度か取り上げている行政に関するオープンデータの内容を取り上げます。扱うデータは各自治体が作成した「決算カード」です。決算カードとは、「各都道府県・市町村の普通会計歳入・歳出決算額、各種財政指標等の状況について、団体ごとに1枚にまとめたもの」です。総務省のWebサイトを見ていたところ、この決算カードがExcel形式でも公開されており、「力業にはなりそうだがデータとして抜き出せそうだ」と思ったことからやってみました。今回はとりあえず東京23区の基礎的な情報を拾い上げることにして、歳入や歳出への切り込みはまた次に回そうと思います。
なお、以下のデータのビジュアル化にはTableauを使ってみています。結果的には、通常通りのGoogleスプレッドシートでも出来そうなグラフばっかりなのではありますが、練習も兼ねているので今後にご期待いただければと。
- 決算カードとは
- データの抽出方法と対象
- 主要なデータの公開
- 東京23区の人口
- 東京23区の面積
- 東京23区の区の職員数(一般職員)
- 東京23区の区議会議員数
- 東京23区の歳出総額
- 最後に
「保育の無償化」に必要な予算と、その予算で他に何ができるのか中央区のデータで試算してみました。
おはようございます、ほづみゆうきです。今回は、先日ブログの記事として取り上げた保育の無償化に関する議論の続きです。与党批判ありきではなく現実的な議論をするべきだということを書いたところですが、さっそく残念な方向に話が流れていてげんなりしている今日この頃です。
元々無償化を掲げていたにもかかわらず、選挙後にはその無償化の対象に認可外を含めないという方針を示したところまでは先日の記事で書きました。これに対して、最新の動向では認可外にも補助金を支給、しかし月額2.57万円で調整しようとしていることになっています。
認可外も対象になるということでこれは悪くないじゃないかと思っていたのですが、これに対して「これでは無償化ではない」「認可外も無償化するべき」といった意見が出てきています。わたしが「残念な方向」と感じたのは、政府案ではなくこれらの流れについてです。今回はこの点について説明した後に、実際問題としてどの程度保育の無償化をやろうとしたときに予算がかかるのか、そしてその予算で他に何ができるのかについて、他に取ることのできる選択肢としてどのようなものがあるのかについて、中央区のデータを用いて具体的に検討していきます。結果的に随分と長い記事になってしまいましたが、ぜひ読んでいただけると嬉しいです。
- 月額2.57万円への批判に対する疑問
- 「無償化」は二の次ではなかったか?
- 目指すべきは無償化よりも全入化
- 現実的な議論の道筋は?
- 中央区のデータによる予算の規模の試算
- 最後に
「保育の無償化」に関する議論の現実的な落としどころはどこなのか?
おはようございます、ほづみゆうきです。ここのところ、保育の無償化をどのように実現するべきかという議論が盛り上がっています。発端は、保育の無償化に関して「認可外保育施設の一部を対象としない」という制度設計を検討していることが分かったことから。
この記事に端を発し、様々な方面から今後の無償化のあり方について意見が出てきています。今回はこちらの問題についての整理と、わたしの考えについて書いてみたいと思います。
- 保育の無償化に関する議論について
- 今回の議論の経緯
- 保育の無償化の問題点
- 1) 認可外保育園の位置付け
- 2) 認可と認可外での費用負担格差の広がり
- 3) 保育事業への参入インセンティブの低下
- 4) 所得格差の拡大
- 現状の展開
- 保育の無償化はどのようにあるべきか?
- 1. 所得制限を設けるか
- 2. 無償化とするか、一定額を上限として補助するか
- 3. 対象を全ての認可外に広げるか、一部のみに留めるか
- 最後に