待機児童解消のためにも、男性保育士の活用を。
はじめに
どうも、ほづみゆうきです。男性保育士に関する議論がここ最近広がっていますので、このブログでも取り上げたいと思います。議論のきっかけとなったのは熊谷千葉市長による、千葉市の「男性保育士活躍推進プラン」の報告とその経緯に関するツイートでした。
最初のツイートはこちら。
女性なら社会問題になる事案です。保護者とのトラブル回避から性差による不当な対応をしないよう各保育所に指示、4月からの入所申込みにあたっては「市立保育所は性別に関わらない保育を実施する」ことを明記しました。
— 熊谷俊人(千葉市長) (@kumagai_chiba) 2017年1月19日
質の高い保育、職場環境、両面から見て男性の役割を高めていくことは重要です。
そして、話題の元となった千葉市立保育所男性保育士活躍推進プランがこちら。
熊谷市長の挙げているこのプランの目的は「保育の分野における男性活躍の推進」のようです。プランの冒頭の文言には以下の文言があります(強調は引用者)。
保育士においては、長い間女性の職業と認識されていました。しかし近年、男女 雇用機会均等法の施行や職名が「保母」から「保育士」に改正されたことなどにより、 男性保育士の人数も徐々に増えてきています。
本市では男性保育士が活躍することで、男性も積極的に子育てをしていく環境が醸成され、保育の質の向上や子供の健全な成長にもつながると考え、男性保育士活躍推進計画を策定し、各種施策に取り組んでまいります。
近年徐々に男性の保育士も増えてきていることから、男性保育士が活躍できるすることによって「男性も子育てをする環境の醸成」や「保育の質の向上」を目指すという理屈のようです。この上で、5年後、10年後の保育所長、総括主任保育士の登用についての具体的な数値目標、具体的な取組内容が記載されています。
正直言って、このプラン単体ではそれほど面白いものではありませんし、ここまで話題になることもなかったでしょう。ネット上で盛り上がりを見せたのは、このプランの発端として熊谷市長が「女児の保護者の『うちの子を着替えさせないで』要望が通ってきた等の課題」を挙げたためです。これに対し、一部の女性からは性犯罪の9割が男性であることを理由にそれを「仕方ない」という意見が出る一方、市長は「社会が考慮するに足る理由なしに性による区別をすることは差別」と切り返します。これらの流れからネット上でのトピックとなり、賛否両論分かれて議論が今も続けられています。
男性保育士に関する議論への意見
まだ自分の子どもを保育園に預けることができていないわたしの意見としては、男性保育士は増やすべきで、そのための環境整備が必要であればできる限り速やかに進めるべきと考えています。すべての職員が働きやすい環境を用意する、保育全体の質の向上という面ももちろんですが、何よりそれは保育分野の人材不足解消に役立つだろうと考えるためです。ざっと眺めた限り、この点について触れている記事は少なかったので、この点について多少掘り下げてみたいと思います。
保育分野における人材不足
まずは保育士の不足の現状把握について確認しておきます。ベースとするのは厚生労働省の資料です。以下の資料がダウンロード可能です。
具体的に見ていきましょう。まず、以下のグラフのとおり保育士の有効求人倍率は年間を通してほぼ常に1倍を超えています。都道府県別の状況を見ると東京が突出して酷い状況であり、平成25年度の数値では新規求人倍率が4.63倍となっています。
これは求職者1名に対して4.6倍の求人があるということで、雇いたい側は例えば460人採用したいにもかかわらず求職者は100人しかいないということを意味します。この保育士不足が待機児童の原因の一つとなっています。せっかく保育園を作ろうとしても、保育士がいなければ当然ながら開園できないためです。クローズアップ現代の記事がありましたのでリンクを貼っておきます。
保育士不足の原因
なぜ保育士が不足するかと言えば、まずなり手が少ないためです。保育士資格を有する求職者における保育士を希望する人は半数程度しかいません。以下のグラフの左側がそのグラフで、資格を持っている人が保育所に就職する割合は51.7%でしかありません。
また、保育士としての勤務年数は短く、半数以上が5年未満であるというデータがあります。(ただし、このデータは「保育資格を有しながら保育士としての就職を希望しない求職者のうち、保育士として勤務経験があるもの」を対象とした数字なので、あまり実態を表した数字とは思われません)。
なぜこのように保育士への就職を希望しないのかについてのアンケートもあります。「賃金が希望と合わない」「休暇が少ない・とりにくい」といった待遇面での問題がある上に、「責任の重さ・事故への不安」への回答が多いことから分かるようにハードな業務内容であることが原因であるようです。
なぜ男性保育士の増加が離職率低下をもたらすのか
ざっと現在の保育士不足に関して、厚生労働省の資料を元に概要を紹介してきました。保育士は需要が多いものの、待遇面が決して良くないためにそもそもの就職者が少ない上に平均の勤続年数も低く、常に人材不足の状態に陥っています。
それでは、なぜ男性保育士が保育士不足の改善に役立つのでしょうか。それは身も蓋もない話で、現在の保育士の割合は女性の方が圧倒的に多く、一般的に男性の方が離職率が低いためです。となれば、言うまでもなく男性の割合が増えればその分離職率は下がる、そして保育士不足は多少なりとも緩和されるだろうと推測できます。それぞれデータを示して説明していきます。
現在の保育士は圧倒的に女性が多い
最初に挙げるのは、現在の保育士は圧倒的に女性が多い点です。近年、男性の保育士も増えてきているようですが、それでもその割合は全体の2.5%程度であるようです。以下のグラフはそれを示したものです。これは保育士が100人いたら97人は女性ということであり、極端に女性に偏っていることが分かります。そもそも「保育士」という名称ができたのは1999年というかなり最近のことであり、それまでは資格の正式名称が「保母」であり、その時点でも少数いた男性は呼び名こそ「保父」だったものの資格としては「保母」という珍妙な状態にあったようです。
引用元) 需要の高まる男性保育士 1 | 保育士になった男性が教えるやさしい保育士入門
一般的に男性の方が離職率が低い
次に男女で見ると、男性の方が離職率が低い点です。以下のグラフは「平成27年度雇用動向調査結果」における年齢階層別の入職率・離職率に関するものです。上が男性、下が女性で、下線部が離職率の数値を示しています(下線は引用者)。
男性と女性の離職率を比較すると、19歳以下と60歳以上という例外を除き、ほぼすべての期間において男性の方が離職率が低いことが分かります。この乖離についてはこれまでの社会的な観点によるものもありますが、出産という女性にしかできないイベントがある以上、この差異が解消することはないのだろうと思われます。
看護師の事例
元々は女性の仕事とされていたものの、近年男性にも門戸が開かれてきている業種として、看護師が挙げられます。こちらは保育士よりも男性の割合が多く、2014年度時点で全体の6.8%が男性です。特筆すべきは2004年の調査時点との比較で、元々3万人程度だったにもかかわらず、その10年後には7万人を超えています。ここ10年で男性の看護師は2.3倍にもなっているのです。
引用元)
この男性の看護師の増加との相関関係を示したデータはありませんでしたが、ここ最近では看護師の離職率が下げ止まっているというのは事実であるようです。待遇の改善等の要因もあるために単純に原因帰属できるわけではありませんが。
終わりに
男性看護師を巡る議論から、今後も増え続けるであろう保育園の需要へ対応していくためには男性保育士の増加が不可欠である点について書いてきました。乱暴な議論をしていることは承知しています。本来的には待遇面を改善し、男性か女性かに限らず離職率の低い職場にしていくことが目指すべき方向性でしょう。とはいえ、賃金の向上といった改善のためには財源が必要であり一朝一夕にできることではありません。待機児童を持つ親の身勝手な意見と取られても仕方ないですが、当面の対策として保育士の男性の割合を増やすということは、(あまり表だっては言えないものの)有効な対策と思われ、ぜひ推進していただきたいと考えています。