これからの自治体オープンデータに求められるものは何か?

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 どうも、ほづみゆうきです。随分と間が空いてしまいましたが、オープンデータに関する記事の続きです。過去の記事で、日本の自治体におけるオープンデータの現状分析と評価を行いまして、多くの問題点があることを指摘しました。主たるポイントは以下の2点です。

・本来の趣旨に沿った価値のあるデータが公開されていない
・行政の効率化のための手段として位置づけられていない 

ninofku.hatenablog.com

  結局のところ、行政の透明性の向上なり効率化なりといった「目的」があった上での「手段」としてオープンデータの公開があるはずですが、その公開そのものが「目的」になっているのではないかということです。そして、こういった扱われ方により、本来価値があるはずのオープンデータという取り組みが中途半端な形で行われ、オープンデータそのものへの期待を失わせてしまいかねないことを危険視しています。それでは、このオープンデータをどのように扱っていくべきなのでしょうか。これが今回の記事のテーマです。

 わたしの考える解決策

 最初に結論です。わたしの考える解決策は、価値のあるデータをより多く、より使いやすい形で公開することに集中するべきという点です。「価値のあるデータ」とは、「透明性・信頼性の向上」「国民参加・官民協働の推進」「経済の活性化・行政の効率化」といったオープンデータの目的に合致するようなデータを指します。行政の職員が取捨選別した、彼らにとって都合の悪くないデータ公開したところで、二次利用される見込みなどあるわけがありません。価値のあるデータを公開することによってこそ、これらの目的が果たされることが期待できます。

 また、「公開することに集中するべき」とは文字通りデータの公開に注力して、そのデータを用いた具体的なアプリの構築などの部分にはできる限り行政が立ち入るべきでないということです。価値のあるデータが公開されれば、それを利用したサービスが自然発生的に立ち上がるはずでしょう。そうならないということであれば、データの中身や広報のあり方を改めるべきで、自治体の予算で手っ取り早くアプリなどを作ってしまうというのはオープンデータの趣旨をはき違えた極めて愚かな行為です。

「価値のあるデータ」とは何なのか?

 「公開に集中するべき」という点は特段追加の説明は不要かと思いますが、「価値あるデータ」に補足の説明が必要でしょう。日本においてオープンデータに関する取り組みをより活性化させようとしたときに、もっとも「価値のあるデータ」とは具体的には何でしょうか。それは予算とその執行状況に関するデータであるとわたしは考えます。というのも、一般的なオープンデータの文脈の中で重要視されているにもかかわらず、日本の自治体においては十分に公開されていないためです。

予算や執行状況のオープンデータ憲章における位置付け

 まず、これらのデータは行政の扱う情報の中でも重要な位置づけを占めていることを示します。オープンデータに関する国際的な取り決めとしては2013年6月に英国で開催されたG8サミットでの「G8首脳合意文書」に基づく「オープンデータ憲章」があります。これはG8の国々の中で「オープンデータを進めていきましょう」という合意文書です。この憲章別添の「共同アクション」には、価値が高いデータのカテゴリとして「キー・データセット」と「ハイバリュー・データセット」が示されており、要するにオープンデータとしてどのようなデータを公開するべきなのかを示しています。これは以下のとおりです。

「キー・データセット

国の統計地図、選挙、予算

 

「ハイバリュー・データセット

企業、犯罪と司法、地球観測、教育、エネルギーと環境、財政と契約地理空間、国際開発、政府の説明責任と民主主義、健康、 科学と研究、統計、社会的流動性と福祉、交通とインフラ

 引用元) オープンデータに関する 政府の主な取組

 

 上記の青文字が多くの自治体で公開されている統計情報や位置情報に値すると思われるもので、赤文字がわたしの主張する予算や執行状況に関するものです。 

オープンデータの意義・目的から見る、予算や執行状況の重要性

 次に、オープンデータの意義・目的からから、なぜ予算や執行状況に関するデータに価値があるのかについて説明していきます。 

1) 透明性・信頼性の向上

→ 自治体が何をやろうとしているのかを明らかにできる

 何にどれだけ予算を使うかということは、自治体がどういった施策を行うのかということとほぼ同義です。何らかの施策を実施するためには多かれ少なかれお金が必要であるためで、そのお金の情報を知るということにより、自治体が具体的にどういったことをやろうとしているのか、何をやったのかについて知ることができるのです。したがって、これらのデータを公開することにより行政の透明性を飛躍的に向上させることができます。また、透明性を向上させることにより、当然に職員や議員などの関係者は不適切なお金の使い方をしにくくなる(させにくくなる)ことになりますので、結果的に行政の信頼性向上にも繋がってきます。

2) 国民参加・官民協働の推進

→ 国民の行政への参加を促すことができる

 予算や執行状況は自治体が何をやるか(やらないか)を示す情報であることを指摘しましたが、これらを公開することによりもたらされるのは透明性や信頼性の向上だけではありません。これは行政への住民の関心をもたせ、参加を促すという可能性も秘めています。なぜならば、住民が自治体の行っていることを理解することにより、もっとあするべき、こうするべきといった意見が生まれてくるであろうためです。たとえばほとんど利用されないような施設が建設される一方で、保育園などのニーズの非常に強い施設の建設に予算が配分されていないということがあれば、このような判断に対して住民の不満が噴出することになるでしょう。

 現状においては日本に住む大多数の方は行政に関心を持っておりません。そして、このような状況に乗じて、自治体は必要最低限の情報しか公開しようとはしていません。世の中には批判のための批判を繰り返す人もいて、余計な情報を公開することで思わぬ批判に遭いかねないため、公開する情報を絞るというのはある種合理的ではあります。また、行政として何をやるべきかが明確であった時代には、それほど住民のニーズを聞く必要はなかったのかもしれません。とはいえ、住民のニーズは多様化している上に、予算は限られている今、適切な行政運営を行うために住民に行政に関心を持ってもらうことは不可欠です(以下、同じようなことを主張している記事です)。 

 

住民と自治体行政による 政策の企画・立案 牛山 久仁彦

 

3) 経済の活性化・行政の効率化

 最後に、これらのデータを公開するということは経済の活性化、行政の効率化のきっかけともなり得るものです。アメリカにはOpenGovというスタートアップ企業がカリフォルニア州のパロアルト市と協同で予算や支出に関するデータをWeb上で分かりやすく見られるクラウドサービスをを開発しました。このサービスは他の自治体も比較的安価(年間1,100〜4,500ドル程度、2013年の情報)に利用可能であり、現在では全世界の1400もの自治体で利用されているとのことです。

Government Financial Intelligence & Transparency | OpenGov

 

日本語で読むことのできる紹介記事はこちらです。

thebridge.jp

  データの公開によりOpenGovのようなスタートアップ企業が生み出され、全世界で顧客を持つようになっているというのはまさに「経済の活性化」です。また、自治体ごとに同じようなサービスを持つわけではなく協同で利用していることにより、安価に質の高いサービスを導入できる上、行政の職員の労力もありません。さらにあらかじめ情報を公開していることにより、開示請求の事務手続きの手間を省くこともできます。この点で「行政の効率化」にも役立っています。  

日本の自治体における予算や執行状況に関するデータの公開状況

 予算や執行状況に関するデータがなぜ重要であるのかについてこれまで述べてきました。次に、これらのデータが日本の自治体においてどの程度公開されているのかについて見ていきます。以前の記事で紹介したIT戦略本部のデータ流通環境整備検討会の資料における「自治体アンケート調査結果」にはオープンデータの種類のグラフもあり、その中には「予算・決算・調達に関する情報」という項目もありました。以下の囲った部分であり、この結果を見る限りは全体の32%という値となっています。これは、オープンデータを公開している自治体のうちで32%の自治体が予算・決算・調達に関する情報を公開しているということと思われます。

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引用元) データ流通環境整備検討会 オープンデータワーキンググループ(第2回) 議事次第 

 

 しかし、わたしはこの情報を量的な面でも質的な面でも信用しておりません。その理由は以下のとおりです。

量的な面からの疑問

 まずは量的な面からの疑問です。本当に32%もの自治体がこれらに係るデータを公開しているとは思えないのです。「日本のオープンデータ都市マップ」というWebサイトでは日本でオープンデータを公開している自治体を一覧で見ることができ、さらに大まかな公開内容まで知ることができます(IT戦略本部のアンケートでは具体的にどの自治体が「予算・決算・調達に関する情報」に回答したのか分かりませんので、こちらを利用せざるを得ないのです)。 

日本のオープンデータ都市マップ

 

 このサイトに掲載されているリストを見る限り、オープンデータの内容として「予算」を挙げているのは9自治体のみ、「決算」を挙げているのは2つのみというのが実態です(「調達」というキーワードは1件もヒットせず)。これらを足すと11で、このリスト上における自治体の総数は281ですので、11÷281でおよそ4%という数字になります。一方のIT戦略本部によるアンケート結果では32%という値であり、極めて大きな乖離があります。ちなみに、具体的には以下の自治体です。

 <予算情報を公開している自治体>  9自治

神奈川県鎌倉市
静岡県
岡山県倉敷市
岡山県里庄町
岡山県井原市
岡山県新見市
岡山県笠岡市
岡山県総社市
愛媛県松山市

<決算情報を公開している自治体> 2自治
東京都福生市
石川県

引用元) 日本のオープンデータ都市マップ

 

 補足です。量的な面からの疑問については一覧上の記載が一様ではないため、実態としてはもっと多くの自治体で公開されているのかもしれません。また、IT戦略本部のアンケートによればオープンデータを既に公開している自治体は333であり、このリストと50ほどの乖離があります。この差異となっている自治体ではこれらに関するデータを公開しているという可能性もあります。

質的な面からの疑問

 それでは質的な面ではどうでしょうか。予算や決算に関する情報と言っても種類は様々であり、関係していればそのまま価値のある情報となるわけではありません。上記に挙げた自治体は、オープンデータの意義・目的に沿ったデータを公開できているでしょうか。ということでそれぞれ調べてみたのですが、非常に残念な結果に終わりました。現時点で確認できる上記のリスト上にある自治体の各サイトの関係する情報をすべて確認しましたが、合格水準にあるのは神奈川県鎌倉市のみでした。以下のリストはわたしが上記の11自治体の公開情報を分析した結果です。

  

  なお、CSVの形式の善し悪しについては、オープンデータ流通推進コンソーシアムによる「オープンデータ化のためのデータ作成に関する技術ガイド」の規定する「レベル1表形式データ」への準拠度を見ています。

表全体に対する要件
(1) 1 つのデータセットには,1 つの表のみを含むべきである.(複数個の表を含めるべきではない)
(2) セルに,整形のためのスペース・改行,および位取りのためのカンマを含むべきではない.
(3) 年の値には,西暦表記を備えるべきである.
(4) 数値やタイトル・単位以外の情報を,セルに含めるべきではない.

セルに関する条件
(5) すべてのセルが,他のセルと結合されているべきではない.
(6) 値が存在しない場合を除き,データセルを空白にするべきではない(データ表記を省略すべきではない).

タイトルに関する条件
(7) データセルの内容を示すタイトルは,1 行で構成すべきである.
(8) データの単位を明記すべきである.
(9) データセルの内容,単位,記数単位を示すタイトルを,それぞれ別の行に記載すべきである.

最後に 

今後のオープンデータのあるべき姿

 今回は、以前に記事の日本のオープンデータの現状を踏まえ、どういったデータを公開するべきかについて書いてきました。わたしの考えるもっとも重要なオープンデータは予算や執行状況に係るもので、このデータはG8のオープンデータ憲章においても重要な位置を占めており、オープンデータの意義・目的の実現にも大きく寄与するものです。にもかかわらず、日本の自治体においてほとんどの自治体はこれらの情報を公開しておらず、公開している一部の自治体においてもまともに公開されているとはとても言えない状況です。

 オープンデータの意義・目的を達成していくためには、これら予算等の情報を積極的に公開していくべきとわたしは考えます。とはいえ、ほぼ全ての自治体で公開されていない情報であり、自主的に公開されることはあまり期待できません。自治体任せの授かり物としてのオープンデータでは自ずと限界があり、住民の側から主体的に関わりデータの開示を求めていかなければ、状況は改善しないでしょう

 もう1点は、良い事例を作ることと考えます。どこかしらの自治体においてこれらの情報が公開されることにより何かしらポジティブな効果があれば、その効果を見込んで他の自治体にも自然発生的に広がることになるでしょう。

わたしのこれからの行動

 予算等に係る情報を住民の手で公開していくこと、そしてこれらの情報を公開することによる良い事例を作ること。上記に挙げたこの2点が今後わたしが主としてやろうとしていることです。その第一歩が、過去の記事で取り上げた開示請求です。 保育園への申し込み状況の情報に加えて、予算、決算に関する情報もあわせて開示請求をしていました。

ninofku.hatenablog.com

 

 1度目のトライでは不開示という扱いでしたが、その後に紆余曲折はありつつも最近になってようやく予算に関するCSVデータを取得することができました。これからはこのデータを元に、効果的な見せ方を考えていきたいと考えています。こういった情報が見たいなどのご意見がありましたら、ぜひお寄せいただければと思います。

 

 

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