「立ちすくむ国家ワークショップ」に参加します。

人脈・コネのイラスト

 どうも、ほづみゆうきです。Twitterには書いていたのですが、最近話題になった経済産業省事務次官と若手職員によって作られた資料「不安な個人、立ちすくむ国家 〜モデル無き時代をどう前向きに生き抜くか〜」をきっかけとしてCode for Japanの主催するワークショップ(立ちすくむ国家ワークショップ)に参加登録してみました。

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  会場の都合上定員は80名であるにもかかわらず300名以上の参加希望があったようですが、幸いにして参加できる旨の連絡をいただきました。この会合を前に、この資料の感想と、当日にどのようなことを他の参加者に伝えたいのかを事前に整理しておこうと思います。

今回のWSのテーマ資料について 

資料の位置づけ

 資料は経済産業省で開催している審議会の一つである産業構造審議会で提出されたものです。この審議会の目的としては、「産業構造の改善に関する重要事項その他の民間の経済活力の向上及び対外経済関係の円滑な発展を中心とする経済及び産業の発展に関する重要事項を調査審議」とのことです。正直、経産省でのこの審議会の位置付けはよく知りませんが、審議会の一覧で一番トップに来ていることから経産省の中では重要なものなのでしょう。

産業構造審議会 - 概要(METI/経済産業省)

 

 今回話題になったのは、このようなレポートをコンサル業者ではなく、組織のトップである事務次官と若手の職員が作ったという点かと思います。このプロジェクトの参加者は、省内で公募された20代、30代の若手職員たち30人の有志であるとされています。

 昨年8月、本プロジェクトに参画する者を省内公募。20代、30代の若手30人で構成。 メンバーは担当業務を行いつつ、本プロジェクトに参画。

 国内外の社会構造の変化を把握するとともに、中長期的な政策の軸となる考え方を検討し、 世の中に広く問いかけることを目指すプロジェクト。

 国内外の有識者ヒア、文献調査に加え、2つの定期的な意見交換の場を設定。

資料の概要

 次に、具体的な中身について簡単に整理します。ざっとまとめると以下のような感じかと思います。わたしの頭の整理用の意味合いが強いので、詳しくは実際の資料を見ていただいた方が良いです。

不安な個人、立ちすくむ国家 〜モデル無き時代をどう前向きに生き抜くか〜

問題意識と問題の所在

 かつてはある程度明確な目指すべきモデルがあったが、現代はそのモデルが失われ、誰もが不安や不満を感じている。自由の中にも秩序があり、個人が安心して挑戦できる新たな社会システムを創る必要がある

 上記の必要性があるにもかかわらず、日本の社会システムは変化できていない。その原因は昭和の標準モデルを前提に作られた制度とそれを当然とする価値観であり、これが多様な生き方を歪めている。その弊害は以下のようなもの。
・高齢者は一方的に弱者として扱われ、働く場所はないし、人生の終末期を過ごす場所も選べない。その結果、手厚い年金や医療が必ずしも高齢者を幸せにしていない
・昭和の標準モデルではあまり想定されていなかった母子家庭や非正規労働者などへの所得の再分配機能が不十分。その結果、貧困の連鎖・固定化する構造が生まれている。
・自国のために役立つことをしたいと考える若者は多いが、自己の参加によって社会が変わるという思いを持てていない。その結果、社会貢献を諦めて自己中心的になっている

 政府として目指していたのはGDPを指標とする豊かさであるが、GDPを増やしたところでかつてほど個人の幸せには繋がらない。幸せの尺度は多様化しているので、モデルを押しつけるのではなく個人の選択を尊重し、その不安を軽減するための柔軟な制度設計が必要。 

問題解決の方向性

 過去に最適であったシステムは現在に適応していないので、このままでは社会が立ちゆかないことは明らかである。したがって、従来の延長線上で個別制度を手直しするのではなく、社会の仕組みを新しい価値観に基づいて抜本的に組み替える時期に来ている。具体的には以下の3点。
① 一律に年齢で「高齢者=弱者」とみなす社会保障をやめ、 働ける限り貢献する社会へ
高齢者は一律に弱者扱いされることで、それが高齢者の選択肢を狭めている。
社会保障制度を個人の意欲や健康状態、経済状況などに応じた負担と給付を行う制度に改めるべき。これにより、個人の生きがいや社会の繋がりを増やすことにも繋がる。

② 子どもや教育への投資を財政における最優先課題に
シルバー民主主義の下で教育の充実は後回しにされている。
子どもへのケアや教育を社会に対する投資と捉え、必要な予算を確保するよう財政のあり方を見直すべき。単に現状の予算を増やすのではなく、民間サービス、最先端テクノロジー、金融手法なども活用し、 何をどう教育するかも含め、非連続な転換を図るべき。
③ 「公」の課題を全て官が担うのではなく、意欲と能力ある個人が担い手に (公共事業・サイバー空間対策など)
行政は役所が行うことという捉え方により、公的な支出は増え続けている一方で、多様なニーズに応えられなくなっている。
新しい技術を活用することによって、意欲と能力のある個人が行政に参画するような仕組みを作るべき

 日本は他のアジア各国がいずれ経験する高齢化を20年早く経験する。この課題を解決していくのが日本に課せられた歴史的使命であり、この解決はアジア、ひいては国際社会への貢献にも繋がる。 

 

わたしの感想

観測気球?

 この資料に関しては賛否両論様々な意見が交わされています。主眼とするのは完璧な処方箋の提示ではなく問題提起なのでしょうから、このような大きな反応を引き出したという点だけでも、十分に価値はあったと言えるのではないでしょうか。
 多くの人から指摘されているとおり、多少威勢の良い言葉を選んではいるものの、それほど新規性のある内容ではありません。高齢者の扱いを変えようという点は政府のスローガンである「一億総活躍社会」というキーワードと中身は変わりません(より具体的かつ直接的な表現ではありますが)。したがって、注目するべきは内容そのものというよりは、今までよりも若干直接的な表現で役所のクレジットの付いた資料として提示されたことにあるのではないかと思います。
 これは、ある種の観測気球という意味合いもあるのでしょう。というのも、この資料としても、そして実際問題としても、今後の最大の課題は高齢者への社会保障費の是正であろうからです。とはいえ、高齢者の投票率が高い以上、政治としては高齢者に迎合せざるを得ません。この是正のためには他の世代からそれを上回るだけの支持がなければ実現は困難です。この点についてはまずは政府の大方針としてではなく若手の意見として多少踏み込んだ問題提起を行い、世間の反応を見てみるというのは適切なアプローチであろうと思います(以下のインタビュー記事には「シルバー民主主義を民主的に乗り越える」という表現をされています)。

www.businessinsider.jp

 

特に共感したポイント

 わたしとしては、おそらくメインで作成された方々と年代的に近いというのもあるのでしょうが、これらの問題意識や改善の方向性については全般的に賛成です。特に強く共感するのは3点目のポイントです。

行政は役所が行うことという捉え方により、公的な支出は増え続けている一方で、多様なニーズに応えられなくなっている。新しい技術を活用することによって、意欲と能力のある個人が行政に参画するような仕組みを作るべき。 

 ある程度明確な目指すべきモデルがあるのであれば、そして財政的な余裕があるのであれば、中央政府が大方針を示して多少の無駄は承知の上でサービスの提供を行うことで、量的なニーズを満たすことは不可能ではありません。これがまさにこれまで行われてきた行政そのものでした。しかし、今回の資料でも書かれているとおり、社会のニーズは多様化しており分かりやすい目指すべきモデルは失われてしまっています。また、1,000兆円に及ぶ政府債務残高や増え続ける社会保障費に示されるように財政的に余裕がある状況でもありません。さらに、このブログで何度か書いてきているように、役所による行政の問題点は、施策やその手法について改善の循環が機能しない点です*1。これらが相まって、「公的支出が増え続ける一方で、多様なニーズに応えられない」という状況が生み出されてしまっています。

 この一つの解決策が、行政を役所任せにするのではなく、意欲ある個人がそこに積極的に参画していくことです。インターネット等の技術を活用することでこれらの人たちを繋ぎ、コミュニティを形成していくことにより新しい行政のあり方を作っていくことです。 自治体行政で言えば、住民が自分の街の行政に関心を持ち、身の回りの課題を自治体の職員とともに考え、改善していくようなあり方です。

 これまでと大きく異なるのは、地域ごとの課題やニーズを掘り下げることで、それぞれ個別の最適化を目指している点です。全ての地域に当てはまる完璧なモデルは存在しませんし、無駄を承知で放漫なバラマキを行うだけの余裕もないのであれば、それぞれの自治体が住民とともに最適なあり方を模索していくべきというアプローチです(もっとも、良い成果が出れば、その内容を事例化して他へと展開していくという方向性はあるのでしょうが)。

このブログやCode for Chuoについて

 このブログ、そして最近立ち上げたCode for Chuoも、上記のような問題意識に根ざして生まれたものです。現在住んでいる中央区を住民にとってより住みやすい場所にするためには積極的に行政に関わる住民(資料で言うところの「意欲ある個人」)が不可欠で、見渡す限りそのような活動を行っている人はいないようだったので、まずその一人として活動しようと考えたのがきっかけです*2

  一人でほそぼそとやっていることなので、社会に大きなインパクトを与えるには至っていませんが、いくつかの成果を出すことはできました(とりあえず参考までに、雑然と過去の活動実績の記事を並べてみます。)。「Code for」の看板を掲げられるようにもなりましたので、メンバも増やしてより多くの活動を行っていきたいと考えています。 

ninofku.hatenablog.com 
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ninofku.hatenablog.com
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最後に

 今回のワークショップでは、「人生100年、スキルを磨き続けて健康な限り社会参画」、「子どもや教育に最優先で成長投資」、「意欲と能力ある人が公を担う」のグループに分けた上でアクションプランを作り、その上でチームに分かれてそれぞれのプランをさらに深掘りする、ということをやるようです。わたしとしては、3つ目のグループに参加して、自身のこれまでの活動を紹介し、類似の問題意識を持っている方々と意見を交わすことによって、これからの活動にフィードバックしていきたいと思います。 中身の報告は、また後日行います。 

*1:行政が改善の仕組みへの批判については以下の記事をご覧ください。 

ninofku.hatenablog.com

ninofku.hatenablog.com

*2:

直接的なきっかけは、保育園の問題でした。決して貧しくない(むしろ相当に恵まれている)自治体においてもこのような状況が生まれているという点から、現在の自治体行政のあり方、各種施策の優先順位について興味を持つようになりました。詳しくは以下の記事をご覧ください。 

ninofku.hatenablog.com

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