東京23区民として、ふるさと納税の全自治体の収支状況から今後のあり方について考える。

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 年の瀬ですね。昨年は年末も仕事が詰まっていたので正月どころではなかったのですが、今年は落ち着いた年末年始を過ごすことができそうです。年末と言えばふるさと納税、というのはわたしだけでしょうか。おおよその年収が分かるのがこのタイミングという点もありますが、申し込むことのできる最終的な締め切りが年末であるという点もあるのでしょう。数年前から、税金の一部をふるさと納税として他の自治体に納めており、肉や野菜など地方の産物を楽しんでいます。

 このふるさと納税制度、一人の住民としては何に使われるのか分からない税金を他の自治体に支払うことでお得に美味しいものを手に入れることができる仕組みではありますが、社会全体としては必ずしもそうではありません。東京などの都市圏ではふるさと納税により税収が大きく減っているということで、総務省に対して是正の要望が出されています。そして、この要望を受けてか、総務省は大臣の通知として今年の4月には各自治体に対して「返礼品の上限を寄付額の3割以下」にする旨の通知が発出されました。

 このような動きの背景にあるのはふるさと納税の規模の急拡大です。返礼品の金額の割合を下げるにしても、おそらく今後も拡大していくことは間違いないでしょう。そして、そうなった場合には都市圏での税収減は無視できない規模にまで拡大していき、行政サービスにまで影響を及ぼしていく可能性もあります。東京23区に住む者として、このふるさと納税制度とどのように付き合っていくべきかについて今回は考えてみたいと思います。

ふるさと納税の収支についての現状把握

自治体間での収支状況はどうなっているのか

 まずは自治体の中でのふるさと納税における収支状況はどうなっているのでしょうか。以下の記事では自治体間の格差は2015年度で「最大70億」とあります。この記事は「地方自治ジャーナリスト・葉上太郎氏」によって調べられたものとのことで、各自治体の寄付額とその自治体での寄付控除額の差を求めたものです。

www.yomiuri.co.jp

 ここでの計算に用いる2つの数字は、ざっくり言うとそれぞれ以下のとおりです。

寄付額:自治体がふるさと納税で集めた寄付の総額。自治体の税収にとっってはプラスになる。

寄付控除額:住民がふるさと納税を行ったことにより、住んでいる自治体で払われないことになる税金の総額。自治体の税収にとってはマイナスになる。

  この2つを差し引きすることで、ふるさと納税による収支状況(全体として税収がプラスになっているのか、マイナスになっているのか)を知ることができるというわけです。もっとも、厳密にはふるさと納税での返礼品にはコストがかかるので、この収支状況がプラスであるにしてもこのコストを差し引いた額が本当の収支状況ではあるかと思いますが。

 本ブログではできる限りデータに基づいた議論を行いたいと思っており、元データを探してみました。特に明示されていなかったのであれこれ探した結果、おそらく以下のそれぞれのデータと思われます。ダラダラとタテに長いページで異常に見づらいのですが、それぞれ以下のファイルのデータを指しているようです。当時の調査は2015年のデータだったようですが、現時点では2016年のデータもありました。

 

総務省|ふるさと納税ポータルサイト|関連資料

 

寄付額のデータ

→ 上記リンクの「平成29年度ふるさと納税に関する現況調査について」の「集計結果」。 

寄付控除額のデータ

→ 上記リンクの「平成29年度ふるさと納税に関する現況調査(税額控除の実績等)について」の「各自治体のふるさと納税に係る控除額等」。

 

 このデータを用いて整理したのが以下のシートです。考え方は上記の記事の葉上太郎氏のものをそのまま用いています。寄付額の元データは千円単位になっていたので微妙に数字が異なりますが、大きな違いではないので無視しています。

 一番右のセルの「収支」が「寄付額」と「寄付控除額」の差し引きの値です。この値がマイナスの自治体はふるさと納税の収支が赤字、プラスの自治体はふるさと納税の収支が黒字であるということです。

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ふるさと納税の収支状況

収支の上位と下位10位の状況

  収支がプラスの自治体とマイナスの自治体の上位それぞれ10位までを挙げておきましょう。2015年度のデータは上記の記事で確認可能であるので省くとして、2016年度のものです。昨年度との比較が可能ですので、順位の推移は備考に書いています。

平成28年度(2016年度)のふるさと納税の収支がプラスの自治体上位10位
No. 都道府県 市町村 収支(円) 備考
1位 宮崎県 都城市 7,285,827,742 H27:1位
2位 長野県 伊那市 7,181,596,362 H27:8位
3位 静岡県 焼津市 5,058,377,271 H27:2位
4位 宮崎県 都農町 5,007,230,214 H27:圏外
5位 佐賀県 上峰町 4,568,894,665 H27:9位
6位 山形県 米沢市 3,507,647,460 H27:圏外
7位 大阪府 泉佐野 3,400,508,833 H27:圏外
8位 熊本県 熊本市 3,362,763,778 H27:圏外
9位 山形県 天童市 3,338,152,884 H27:3位
10位 北海道 根室市 3,302,625,978 H27:圏外

 

平成28年度(2016年度)のふるさと納税の収支がマイナスの自治体上位10位
No. 都道府県 市町村 収支(円) 備考
1位 神奈川県 横浜市 -5,553,314,608 H27:1位
2位 愛知県 名古屋市 -3,188,255,679 H27:2位
3位 東京都 世田谷区 -3,077,890,058 H27:3位
4位 大阪府 大阪市 -2,406,520,985 H27:5位
5位 東京都 港区 -2,354,787,673 H27:4位
6位 神奈川県 川崎市 -2,352,588,802 H27:6位
7位 兵庫県 神戸市 -1,676,170,425 H27:1位
8位 埼玉県 さいたま市 -1,594,795,237 H27:9位
9位 京都府 京都市 -1,473,176,321 H27:8位
10位 福岡県 福岡市 -1,462,043,425 H27:10位

 

 収支プラスの方の上位はそれなりに入れ替わりがあります。これは何らかの魅力的な返礼品を新たに用意して人気を集めたものと推測されます。一方で、収支マイナスの方の上位は多少の順位の変動があるものの、昨年と上位10位の自治体は一切変わらないということが明らかになりました。

 もう1点指摘しておくべきことは、ふるさと納税の仕組みが金額規模が大きくなるにつれて、この収支のプラス、マイナスが拡大しているという点です。以下のグラフは、2015年度の収支プラスとマイナスの自治体の収支の金額を2016年度の数字と比較したものです。見てのとおりで、プラスの自治体の金額が大きく増加している一方でマイナスの自治体のマイナス額もまた大きく増加しています。都城市伊那市の増加、横浜市の減少が特に顕著であることが分かります。

 

歳入全体のうちでの割合はどの程度なのか

 次に、上記で求めた収支状況でのプラス、マイナスが自治体の予算全体の中でどの程度の割合を示すのかについて調べてみます。これまでは金額の多寡のみを見てきましたが、税収の減少について単純に金額だけで影響度を測ることはあまり意味がありません。税収全体でどの程度の割合を減っているのかという観点でのチェックを行って初めて影響度を把握できるのです。

 ということで、自治体の歳入額、つまり税収の総額のデータと組み合わせてみることにします。自治体の歳入のデータはe-Statにありましたので、そこから引っ張ってきました。いつの間にか、便利な世の中になったものです。なお、2016年度の歳入額の情報はまだ反映されていませんでしたので、対象としているのは2015年度のものです。

統計表一覧 政府統計の総合窓口 GL08020103

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ふるさと納税の歳入における割合

 データの羅列だけ出されても分かりにくいので、こちらも上位と下位10位までをリスト化します(なぜか表を貼ろうとすると以降の文字が表示されないという不具合がでているので、画像化しています)。

平成27年度(2015年度)のふるさと納税の歳入総額に占める割合がプラスの自治体上位10位

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平成27年度(2015年度)のふるさと納税の歳入総額に占める割合がマイナスの自治体上位10位

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 プラスの自治体の上位におけるふるさと納税の歳入に占める割合はトップの鹿児島県大崎町で29%。トップ10で見ると10位でも10%を越えています。大崎町はふるさと納税による歳入が全体の1/3にも達しようというレベルであり、重要な財源となっていることが見て取れます(それだけに、今回の是正措置の影響を受けて歳入のバランスが大きく崩れる可能性が高いということでもあります)。

 一方で、マイナスの自治体での割合を見ると、ほとんどが東京23区が占めています。トップ10の内、実に9の自治体が23区。ちなみに収支の金額マイナスの自治体としてはトップだった横浜市は「-0.18%」とトップ10にも入っていません。割合を見ると、トップの港区でも1%程度と極端に歳入全体に占める割合が現時点で大きいわけではありません。とはいえ、1%弱と言っても港区で失われている税金は約15億円。これだけの税金が失われるということは、この分の行政サービスが行えなくなるのだということです。また、今後もふるさと納税の利用者が拡大していくことを考えると、この数字も上がっていく一方と想定されます。首都圏の自治体が危機感を持つことも理解できます。

中央区での状況はどうか

 わたしが在住している中央区の状況はどうでしょうか。上記のリストにあるとおり、ふるさと納税の歳入総額に占める割合がマイナスの自治体の9位にランクインしています。マイナスの割合は「-0.4%」。金額で言うと3.9億円程度です。この予算規模で何が行えるのか。当ブログではこれまでも保育園関係のネタを何度も取り上げていますので、これを例に挙げてみましょう。

 以下のグラフは過去の記事「「保育の無償化」に必要な予算と、その予算で他に何ができるのか中央区のデータで試算してみました。」で用いたものです。少し前に話題になった保育の無償化について、中央区であれば実現にどの程度の予算が必要なのか。それだけの予算があれば他のどういったことができるのかについて試算したものです。

 このグラフの横軸はぱっと見てわかりづらいですが、「200000000」は「2億」を意味しています。たとえば、グラフの1番上の「3-5歳認可のみ無償化」というのはだいたい5億程度の費用が掛かるということです。

 それでは、ふるさと納税で失われた3.9億円があれば何ができるでしょうか。上から4つめのアイディア「3-5歳認可同等の補助」は十分実現可能です。これは、3-5歳の中央区の認証保育園、認可外保育園に通う子どもの費用を認可保育園同等にまで引き下げるというものです(詳細は上記の記事をご覧ください)。わたしの試算では、この措置に掛かる費用は2.1億円なので、この予算があれば容易に実現可能です。数字だけでは分かりにくいですが、それなりに大きいことができるということが理解できるかと思います。

ふるさと納税による税収減への都市圏自治体の対応

 これまではふるさと納税に関する自治体間での収支の状況やその影響の度合いについて整理してきました。都市圏の自治体の多くは収支がマイナスで、かつそのマイナス額はふるさと納税の制度が普及していくに連れて拡大の傾向にあります。このような状況に対して、都市圏の自治体はどのような対応を行っているのでしょうか。主要なものでは以下の3つに整理できそうですので、それぞれ対策の内容とその評価について書いていきます。

① 税収減についての広報活動を行う

 1つめはふるさと納税による税収減についての広報活動です。杉並区がふるさと納税によって保育園の整備に深刻な影響があるというキャンペーンを行ったのは多少話題になりました。杉並区によればふるさと納税によって「13.9億円」の住民税が失われたとし、その額は「認可保育所4か所程度の整備費用に相当」するということです。

www.sankei.com

 上記中央区の例で書いたように、税収減によって本来できるはずの行政サービスを行えなくなるというのは厳然たる事実です。しかし、世間の評判はイマイチでした。

   チラシに批判的な声としては、「制度がある以上こういう事言うの変でしょ」「納税者に『お願い』するのはお門違い」「ふるさと納税を頑張らない自治体が悪い」「地方で生まれた子供が、地方の福祉と教育によって成長し、上京して東京で納税してるという構図がある。その税金を地方に還流させる施策自体は悪ではないよ」などと書き込まれている。

引用元) | 杉並区の「ふるさと納税批判」にネット冷ややか 「努力しない自治体が悪い」「杉並のラーメンを出すとか...」 : J-CASTニュース

 「税収が減るのが嫌ならばふるさと納税に参加して魅力的な返礼品を用意しろ」というのは現実としてそうであるにしても、釈然としないものがあります。

ふるさと納税制度を導入する

 2つめは、ふるさと納税の仕組みを都市圏の自治体でも導入することです。ざっと眺めた限り、東京23区で率先して行っている自治体は墨田区ではないかと思います。江戸切り子や東京スカイツリーのディナーチケットなど、区に由来する返礼品を多く取り揃えています。

www.furusato-tax.jp

 これらの返礼品のおかげで、墨田区は23区の中での収支状況ではもっともマイナスの額が少ない自治体です。他の区と比較して流出する金額(ふるさと納税で他の自治体に支払われる税金)が少ないわけではないのですが、墨田区流入してくる金額(ふるさと納税墨田区に入ってくる税金)がマイナスを相殺しているのです。

 元々ふるさと納税という制度が「都市部から地方に税を還元できる仕組み」として産まれたことを考えると、この対応についても疑問符が付きます。

③ 特定テーマへの支援を募る

 3つめは、ふるさと納税制度に参加するものの、返礼品ではなく特定のテーマへの支援を募る形式で行うというものです。脚光を浴びたのは文京区の「こども宅食」ではないでしょうか。文京区が認定NPO法人「フローレンス」(駒崎弘樹代表理事)などの民間団体とともに行うもので、ふるさと納税で集まった寄付金を使いひとり親世帯や就学援助を受ける世帯に食料を届けるという取り組みです。寄付金は全額事業に使うため返礼品はありません。

mainichi.jp

 この他、税収減の金額が高額になっている世田谷区の取り組みもニュースになりました。 世田谷区はテーマ型のふるさと納税として東急電鉄世田谷線を選び、集めた資金は展示車両の塗装費用に使われるほか、写真展やイベント開催費用といった沿線活性化に充てるとしています。

thepage.jp

都市圏のふるさと納税のあり方は

 わたしとしては、これら3つの選択肢のうち、3つめの方向性こそは都市圏のふるさと納税のあり方として望ましいのではないかと考えます。つまり、税金の使い道を住民に対して提示して、選択してもらうということです。この方策は①ほど露骨にふるさと納税自体を否定するものではなく、②ほどリアリズムに徹して他の自治体と返礼品競争をするわけでもありません。住民それぞれがふるさと納税の使い道を考える過程の中で、税金の使い道がどうあるべきかを考えるというきっかけを与えてくれるものです。

 ふるさと納税が気軽に行えてしまうということは、住民の中に税金が適切に使われているか分からない、そもそも何に使われているのかが分からないという点が挙げられるかと思います(であるからこそ、「やらなければ損」という考え方が生まれます)。 そこに対して、分かりやすい代替案、すなわち他の自治体ではなく自分の自治体に納税すれば、こんな良いことが実現できるという提案が出されれば、住民は初めてその分の税金の使い道を具体的に意識できるようになります。その上で肉などの返礼品を選ぶのか、自治体の何らかの行政サービスへの支援を選択するかはその人次第です。しかし、このような考え方が徐々にではあっても定着していくことによって、日本に寄付の文化を根付かせるきっかけにもなるかもしれません。 

中央区ふるさと納税の現状と要望(というオチ)

 中央区でも今年ふるさと納税の制度が産まれました。幸いながら上記の③のパターンで、資金支援したい区内団体を指定し、区に寄付できるようにするというもの。寄付金の交付対象となる団体は区が今後設置する審査会で認定し、寄付金の7割を上限に交付する。寄付に対する返礼品はありません。

www.nikkei.com

 全国の自治体をくまなくチェックしたわけではないですが、それなりに先進的な制度ではないかと思います。したがって、わたしとしては今年は肉や魚の物欲に負けず世のため人のために寄付をしようと思っていたのですが予想外の注意書きが。 

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 何と、中央区民は対象外。。何じゃそりゃ。区民にも参加させてくださいよ。

最後に

 今回の記事は最後に書いた「中央区ふるさと納税は区民が対象外」ということだけをさらっと書こうとして始まったのですが、基礎的なデータを集めている中で楽しくなってきて、いつもどおりの分量になってしまいました。

 今年は本当に物欲に負けず中央区に全額ふるさと納税する気満々だったのですが、結局は上限額の半分程度は以前に関わりのあった自治体に税金を納めることにしました(過去にお世話になった土地を選ぶというのはわたしの中での最低限のポリシーです)。また、わずかばかりではありますが、文京区の「こども宅食」も支援させてもらいました。このような成功事例が全国的に増えて、対象は何であれ、もっとより良い世の中になることを期待してのことです。

 改めて最後に書きますが、テーマ型支援の場合に在住の住民を対象外にするのはまったく理解不能です。よほど知名度の高いテーマでなければ他の自治体からの寄付を集めることは困難ですし、それでは住民が他の自治体にふるさと納税を行うことを抑制する効果を期待することができません。その結果として想定したほどの支援が集まらず、テーマ型支援という取り組みが尻すぼみになってしまうことが危惧されます。中央区及び同等の設計になっている自治体については、在住する住民も含めて参加ができるような仕組みへの修正を是非ともお願いしたいところです。

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