隠れ待機児童(潜在的待機児童)の詳細とその妥当性について調べてみました。

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 大変ご無沙汰しておりました、ninofkuです。4月はついに1度も更新できませんでした。1ヶ月の内に1度も更新できなかったのは初めてです。さて、今回は隠れ待機児童について取り上げます。世間一般に言われている「待機児童」とは別に、実質的な待機児童であるとされる「隠れ待機児童(潜在的待機児童)」という数があります。具体的に言うと、2017年4月時点での「待機児童」は26,081人に対して、「隠れ待機児童(潜在的待機児童)」と言われている数は69,224人*1。割合で言うと待機児童のおよそ2.6倍で、一般的に言われている待機児童よりも隠れ待機児童の方が圧倒的に数は多いのです。

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 2018年4月時点での待機児童数の情報は例年9月アタマに公表されているので現時点では分かりませんが、劇的に解消しているとはとても思えない状況です。したがって、今後も待機児童解消のために保育サービスの拡充が必要となるわけですが、その際に必要となるのが保育ニーズの適切な把握です。そして、この適切な把握のためには実際にどの程度の人たちが待機しているのかを正しくカウントしてあげる必要があります。

 一方で、この隠れ待機児童については一部で以下のような厳しい声もあります*2

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 待機児童問題でメシを食っている人たちが、この問題を終わらせないために、対象をより拡大させようとしているのではないかという捉え方です。

 隠れ待機児童は本来待機児童として扱うべき対象なのでしょうか。それとも、待機児童問題で活動する団体のでっち上げなのでしょうか。この隠れ待機児童についてはこれまであまり理解できておらず、Web上には数がどの程度という情報はあってもその詳細や妥当性にまで触れているものはありませんでしたので、今回整理しておこうと思うに至りました。

 なお、隠れ待機児童の考え方については厚生労働省の「保育所等利用待機児童数調査に関する検討会」で議論が行われ、2017年3月に改定があったところなのですが、この点まで含めると随分と長文になってしまいますので、前編として現状での考え方とその評価、そして後編として今後の改定の方向性について書くことにします。

待機児童と隠れ待機児童の定義

「待機児童」とは何を指すのか?

 まずは待機児童とは何を指すのかについて先に整理します。

保育所への入所・利用資格があるにも関わらず,保育所が不足していたり定員が一杯のために入所出来ずに,入所を待っている児童のこと*3

 要するに、保育園への入園を希望しているにも関わらず定員の不足により入園できていない人たちということで、この定義は一見すると明確であり、実態と乖離することなどないように思われます。しかし、実際にはそうではないのです。なぜならば、厚生労働省が各自治体に対して待機児童数の調査を依頼する際の要領に、一部の対象はこの数字に含めなくても良いと記載されているためです。この一部の対象こそが、冒頭に挙げた「隠れ待機児童(潜在的待機児童)」なのです(以下、一般的な呼称である「隠れ待機児童」で統一します)。

「隠れ待機児童」とは何を指すのか?

 それでは一方で、隠れ待機児童として扱われているのはどういった状態の人たちなのでしょうか。一般に言われている隠れ待機児童には以下の4つの分類があります(名称は内容を踏まえてわたしが命名)。元となる資料は厚生労働省の「保育所等利用待機児童数調査に関する検討会」の資料「保育所等利用待機児童の定義*4です。

① 求職活動休止

② 自治体補助サービス利用

③ 特定施設のみ希望

④ 育児休業

 直近3年間におけるそれぞれの内訳は以下のグラフのとおりです。全体としては毎年増えていること、全体の多くを「③ 特定施設のみ希望」が多くを占めていることなどが分かります。

  このそれぞれについて簡単に説明した上で、上記の検討会の資料を踏まえつつその妥当性について検証していきます。

隠れ待機児童の4分類とその妥当性の検証

① 求職活動休止

 保護者が求職活動を休止している場合。資料の注1(以下)に該当(下線は引用者)。

(注1)保護者が求職活動中の場合については、待機児童に含めることとするが、 調査日時点において、求職活動を休止していることの確認ができる場合に は、本調査の待機児童数には含めないこと

 保護者が求職していないのであれば保育サービスの必要性はないのだから、待機児童には含める必要はないのでないかという考えられるかもしれません。本当に休止していればその通りなのですが、問題は求職しているかどうかを自治体が正しく把握しているかどうかです。というのも、一部の自治体は個別に連絡を取ることなく、市区町村が「求職活動を休止している」と判断して待機児童のカウントから除外しているという実態が明らかになったためです(以下の「2.求職活動を休止していることの確認方法」の③*5)。

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 したがって、「求職活動休止」として待機児童のカウントから除外された人の中にはまだ求職活動を続けている人、つまり本来は待機児童として扱われるべき人も含まれており、この意味で「求職活動休止」に該当する人を隠れ待機児童として扱うことには妥当性があります。今後の方向性としては、確認方法を本人の自己申告、もしくは自治体の担当者による電話等での確認が徹底することとし、これらの手段で確認ができないのであれば待機児童として含めるべきでしょう

② 自治体補助サービス利用

(2018/05/26修正:認定こども園は「自治体補助サービス」には該当しないとのコメントをいただきました。ご指摘のとおりですので、訂正させていただきます。)

認定こども園認証保育園などの保育サービスを利用できている場合。資料の注3(以下)に該当。

(注3) 付近に特定教育・保育施設又は特定地域型保育事業がない等やむを得ない事由により、特定教育・保育施設又は特定地域型保育事業以外の場で適切な保育を行うために実施している、
国庫補助事業による認可化移行運営費支援事業及び幼稚園における長時間預かり保育運営費支援事業で保育されている児童
地方公共団体における単独保育施策 (いわゆる保育室・家庭的保育事業に類するもの) において保育されている児童
③ 特定教育 ・保育施設と して確認を受けた幼稚園又は確認を受けていないが私学助成、就園奨励費補助の対象となる幼稚園であって一時預かり事業(幼稚園型) 又は預かり保育の補助を受けている幼稚園を利用している児童
④ 企業主導型保育事業で保育されている児童
については、 本調査の待機児童数には含めないこと。

 こちらについて、正直言ってわたしとしては「隠れ待機児童」として扱うべきとは思いません。希望している場所でないにしても何らかの保育サービスを利用することはできている状態であり、「子どもの預け先が見つからないので復職できない(退職を余儀なくされる)」といった深刻なケースではないためです。

 この点から「隠れ待機児童」を解消するということは、認定こども園認証保育園などを利用している子どもを認可保育園へ移すことを意味します。費用面でも設備面でも認可保育園が望ましいというのは一般的な傾向ではありますが、ここまで含めて待機児童の問題の俎上にあげると問題の深刻さの焦点がぼやけることになり世間的な共感も受けにくくなると思われます。

③ 特定施設のみ希望

 利用可能な施設があるにもかかわらず利用していない場合。資料の注7(以下)に該当(下線は引用者)。

(注7) 他に利用可能な特定教育・保育施設又は特定地域型保育事業等があるにも関わらず、特定の保育所等を希望し、保護者の私的な理由により待機している場合には待機児童数には含めないこと

 利用可能な施設があるにもかかわらず利用していないのであれば待機児童に含めなくて良いだろうというのはその通りです。しかし、全てのケースがそうであるわけではありません。というのも、「他に利用可能な保育園」という条件は自治体が判断しており、個々の保護者の事情を踏まえているものでは必ずしもないためです。具体的な判断理由は以下の「2.「他に利用可能な特定教育・保育施設又は特定地域型保育事業等」として取り扱っているケース」の①から④。立地条件ばかりで、保育園の開所時間の希望や登園にあたっての個別の事情などは考慮されていないことが分かります。

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  したがって、「特定施設のみ希望」として待機児童のカウントから除外された人の中には、本当に利用可能な保育園がない人、つまり本来は待機児童として扱われるべき人も含まれており、この意味で「特定施設のみ希望」に該当する人を隠れ待機児童として扱うことには妥当性があります。今後の方向性としては①と同様で、確認方法を本人の自己申告、もしくは自治体の担当者による電話等での確認が徹底することとし、これらの手段で確認ができないのであれば待機児童として含めるべきでしょう

育児休業

 保護者が育児休業中である場合。資料の注8(以下)に該当(下線は引用者)。

 (注8) 保護者が育児休業中の場合については、待機児童数に含めないことができること。 その場合においても、市町村が育児休業を延長した者及び育児休業を切り上げて復職したい者等のニーズを適切に把握し、引き続き利用調整を行うこと。 

 育児休業中であれば育児のための休業なのであって保育サービスを利用する必要性はないので、待機児童に含めないというのはそれほどおかしな話ではありません。しかし、これまでと同様に、この中にも本来は含めるべき対象が含まれています。現状で除外の対象となっていたのは以下の「2.「育児休業中の者」を待機児童数に含めないこととしているケース」の①から③。例えば育児休業中を延長している人の中には保育園の入園が決まらなかったことを理由に延長している人もいるわけで、このケースを待機児童に含めないのは明確におかしな話です。 

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  したがって、「育児休業中」として待機児童のカウントから除外された人の中には、本当は復職したいけれども預け先がなくて延長せざるを得なかった人も含まれており、この意味で「育児休業中」に該当する人を隠れ待機児童として扱うことには妥当性があります。今後の方向性としてはこれまた①と同様で、確認方法を本人の自己申告、もしくは自治体の担当者による電話等での確認が徹底することとし、これらの手段で確認ができないのであれば待機児童として含めるべきでしょう

 隠れ待機児童の分類別の検証結果まとめ

 これまで書いてきた妥当性の検証結果についてまとめると以下のとおりで、②以外については本来待機児童として扱うべき対象が含まれています。各自治体はこれらの数を正しく把握できるように確認方法を厳格化するべきです。一方で、②を同じ議論の俎上にあげるには無理があるというのがわたしの感触です。批判的な立場からすれば、格好の的でしょう。

① 求職活動休止

→ 待機児童として見なすべき対象あり。確認方法を厳格化すべき。

② 自治体補助サービス利用

→ 待機児童として見なすべきか微妙。

③ 特定施設のみ希望

→ 待機児童として見なすべき対象あり。確認方法を厳格化すべき。

④ 育児休業

→ 待機児童として見なすべき対象あり。確認方法を厳格化すべき。

最後に

 今回は隠れ待機児童の詳細とその妥当性について書いてきました。冒頭に書いたとおり、待機児童の問題はまだ解決の見込みがありません。その解消のためには保育サービスの拡充が必要で、その際に不可欠なのは保育ニーズの適切な把握です。そして、この適切な把握のためには今回紹介してきた隠れ待機児童のような、本来待機児童としてカウントするべき対象も含めて考える必要があります

 ただし、他方で問題を殊更に大きく見せることについては慎重にならなければなりません。今回説明してきたとおり、本来待機児童として扱うべき対象は全体のうちの一部です。隠れ待機児童として扱われている数の全て、つまり2017年4月で言えば69,224人の全てを待機児童として扱うべきかというと議論が分かれるところでしょう。限られた予算の中で何をどこまでやるのか、その内容が他の施策と比較して優先順位が高いのかという観点を忘れてはいけません

 次回は後編として、厚生労働省の検討会の結果を整理して、待機児童の調査が今後どのように変わるのか、そして残された課題は何なのかについて書いていきます。

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