隠れ待機児童の定義の見直しと今後の課題について整理してみました。

  おはようございます。ninofkuです。今回は、前回の記事「隠れ待機児童(潜在的待機児童)の詳細とその妥当性について調べてみました。」の続きです。前回の記事では、隠れ待機児童の詳細とその妥当性について書いてきました。今回はその後編として、昨年実施された厚生労働省の隠れ待機児童に関する検討会の内容を整理して、これら隠れ待機児童の扱われ方がどのように変わるのか、そして残される課題は何なのかについて整理していきます。

隠れ待機児童に関する検討会とは?

 前回も紹介したとおり、2017年4月時点での「待機児童」は26,081人に対して、「隠れ待機児童(潜在待機児童)」と言われている数は69,224人で、その数は2.6倍です。以下に示すとおり、この傾向は直近3年間でほぼ変わらない状況です。このように待機児童の定義が限定的で、実態を表していないという指摘は子育て世代の方から根強く、この声を受けて厚生労働省に設置されたのが「保育所等利用待機児童数調査に関する検討会」です。2016年9月から2017年3月にかけて、この検討会の中で待機児童の調査方法の実態との乖離を埋めるための検討が行われていました。

隠れ待機児童の定義の見直しの方向性

 検討会での議論の経緯などは議事録などをご覧いただくとして(数十ページにも及ぶ、非常に読み応えのある議事録が公開されています)、最終的な取りまとめ結果の報告書内容について紹介します*1待機児童数の調査に関するものでの改善点として挙げられるのは3点です。

① 「求職活動休止」によるカウント除外の厳格化

② 「特定施設のみ希望」によるカウント除外の厳格化

③ 「育児休業中」によるカウント除外の厳格化

 改善点は、どれもカウント除外の厳格化です。つまり、これまでの数え方では待機児童として扱うべき層が正しく含まれていなかったという反省に立ち、待機児童のカウント除外の対象を明確にしようということです。

 以降では、これらの点についてそれぞれ解説をしていきます。また、この報告書を受けて毎年度の待機児童数の調査要領が変更されていますので、上記の変更点ごとに実際の調査要領がどのように変わるのかについてもあわせて紹介します*2

① 「求職活動休止」によるカウント除外の厳格化

 1点目の改善点は「求職活動休止」によるカウント除外の厳格化で、以下のとおり。

調査日時点において求職活動を行っておらず「保育の必要性」が認められない状況にあることの確認が必要である旨を示すとともに、以下のような具体的な確認方法の例を示すべきである。
※ 求職活動を休止していることの確認方法の例
① 保護者への電話・メール等により、求職活動の状況を聴取。
② 保護者に以下の書類の提出を求める等、求職活動状況の報告により確認。
・ 求職活動状況を確認できる証明書類
・ 求職サイトや派遣会社への登録等の活動を証明できる書類
・ その他、面接等の活動を行っていることが確認できる書類(申込書の写し等)

 これまでの調査要領では保護者が求職活動を行っていないことの確認方法が具体的に示されているわけではありませんでした。そして、その結果として一部の自治体では保護者に確認することなく勝手に「求職活動を休止した」と判別して待機児童から除いているというケースがありました(以下の「2.求職活動を休止していることの確認方法」の③)。

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 この検討結果を受けて、2017年3月に改訂された「保育所当利用待機児童数調査要領」では具体的な確認方法が追記されることになりました。新旧対照は以下のとおり。

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 変更後の文言は以下のとおり。赤字箇所が主として変更されているポイントで、求職活動を休止していると判断するための確認方法を具体的に指示しています

保護者が求職活動中の場合については、待機児童数に含めること。ただし、求職活動中であることを事由とした申込みについては、調査日時点において求職活動を行っておらず、保育の必要性が認められない状況にあることの確認ができる場合には、待機児童数には含めないこと。

※求職活動を休止していることの確認方法については、以下のような例により行うこと。
(1) 保護者への電話・メール等により、求職活動の状況を聴取
(2) 保護者に以下の書類の提出を求めるなど、求職活動状況の報告により確認
・求職活動状況を確認できる証明書類
・求職サイトや派遣会社への登録などの活動を証明できる書類
・その他、面接等の活動を行っていることが確認できる書類(申込書の写し等)

② 「特定施設のみ希望」によるカウント除外の厳格化

 2点目は「特定施設のみ希望」によるカウント除外の厳格化で、以下のとおり。

○ 「特定の」保育所等の判断については、利用申込みの際に一定数以上の希望保育所等を申し込んでいない場合は、特定の保育所等を希望していると判断している市区町村もあれば、他に「利用可能な」具体的な保育所等の情報について紹介することなく、一律的な取扱いを行っている例もある。
○ このため、市区町村は、保護者の意向を丁寧に確認しながら、他に利用可能な保育所等の情報提供を個別に保護者へ行うことを基本とするとともに、その具体的な情報提供の方法の例を示すべきである。

 これまでの調査要領では「他に利用可能な保育園」という条件は自治体が判断しており、個々の保護者の事情を踏まえているものでは必ずしもありませんでした。具体的な判断理由は以下の「2.「他に利用可能な特定教育・保育施設又は特定地域型保育事業等」として取り扱っているケース」の①から④。立地条件ばかりで、保育園の開所時間の希望や登園にあたっての個別の事情などは考慮されていないことが分かります

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 この検討結果を受けて、改訂後の「保育所当利用待機児童数調査要領」では具体的な確認方法が追記されることになりました。新旧対照は以下のとおり。

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 変更後の文言は以下のとおり。赤字箇所が主として変更されているポイントで、利用可能な保育園がない場合には待機児童として扱うことが明記されるとともに、利用可能な保育園があるかどうかを判断するための確認方法を具体的に指示されるようになりました

 子ども・子育て支援法(平成 24 年法律第 65 号)第 42 条第 1 項及び第 54 条第 1 項の規定により、市区町村は保育所等に関し必要な情報提供を行うこととされているが、保護者の意向を丁寧に確認しながら、他に利用可能な保育所等の情報の提供を行ったにも関わらず、特定の保育所等を希望し、待機している場合には待機児童数には含めないこと。
ただし、特定の保育所等を希望することに、特別な支援が必要な子どもの受入れ体制が整っていないなどやむを得ない理由がある場合には、待機児童数に含めること
※ 「他に利用可能な保育所等」とは、以下に該当するもの(3.の(1)から(4)までに掲げる事業又は施設を含む。)とすること。
(1) 開所時間が保護者の需要に応えている。(例えば、希望の保育所等と開所時間に差異がないなど。)
(2) 立地条件が登園するのに無理がない。(例えば、通常の交通手段により、自宅から20~30分未満で登園が可能など、地域における地理的な要因や通常の交通手段の違い等を考慮した上で、通勤時間、通勤経路
等を踏まえて判断する。)

③ 「育児休業中」によるカウント除外の厳格化

 最後に3点目は「育児休業中」によるカウント除外の厳格化で、以下のとおり。

保育所等に入所できたときに復職することを、保育所入所保留通知書発出後等において継続的に確認し、復職に関する確認ができる場合には待機児童数に含める旨を示すとともに、保護者の復職に関する具体的な確認方法の例を示すべきである。

 これまでの調査要領では、育児休業中であれば待機児童のカウントから除外されていました。したがって、保育園の入園が決まらなかったことを理由に育休を延長している人であるにもかかわらず待機児童に含められないというケースがありました(以下の「2.「育児休業中の者」を待機児童数に含めないこととしているケース」の①から③)。

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 この検討結果を受けて、この点についても改訂後の「保育所当利用待機児童数調査要領」で具体的な確認方法が追記されることになりました。新旧対照は以下のとおり。

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 変更後の文言は以下のとおり。復職を希望する場合には待機児童に含めることの明確化、そして確認方法について具体的に示されるようになりました

育児休業中の保護者については、保育所等に入所できたときに復職することを、保育所入所保留通知書発出後や調査日時点などにおいて継続的に確認し、復職に関する確認ができる場合には、待機児童数に含めること。ただし、それが確認できない場合には、待機児童数に含めないこと。市区町村は育児休業を延長した者及び育児休業を切り上げて復職したい者等のニーズを適切に把握し、引き続き利用調整を行うこと。
※ 保護者の復職に関する確認方法については、以下のような例により、利用申込み時点に限らず、継続的に確認を行うこと。
(1) 申込みの際に、保護者の復職に関して、確認するためのチェック欄等を設けて確認
(2) 保護者への電話・メール等により、意向を聴取
(3) 保護者に入所に関する確約書の提出を求めて確認

まとめ

 これまでの内容をまとめると以下のとおりです。

① 「求職活動休止」によるカウント除外の厳格化

 → 求職活動中の保護者への休止しているかどうかの確認方法の具体的な提示

② 「特定施設のみ希望」によるカウント除外の厳格化

 → 利用可能な保育園がない場合には待機児童に含めることの明確化。また、「他に利用可能な保育所等」の条件の具体的な提示

③ 「育児休業中」によるカウント除外の厳格化

 → 復職希望である場合には待機児童に含めることの明確化。また、育児休業中の保護者への復職希望かどうかの確認方法の具体的な提示

 3点のどれを取っても、これまでは待機児童としてカウントされていなかったケースに対して確認方法をより具体的に示し、今後は正確にカウントしていこうという方向性にあることが分かります。これは前回のわたしの以下の指摘と符合するものです(ちなみに、以下の「② 自治体補助サービス利用」は今回の定義見直しの議論の対象外)。

① 求職活動休止

→ 待機児童として見なすべき対象あり。確認方法を厳格化すべき。

② 自治体補助サービス利用

→ 待機児童として見なすべきか微妙。

③ 特定施設のみ希望

→ 待機児童として見なすべき対象あり。確認方法を厳格化すべき。

④ 育児休業

→ 待機児童として見なすべき対象あり。確認方法を厳格化すべき。

隠れ待機児童についての今後の課題 

 今回の厚生労働省の検討によって待機児童の調査における待機児童の定義は現状よりも明確になりました。したがって、今後の調査からは今までよりも正確な待機児童数が出てくることが期待できます。それでは、これで万事問題なしとなるのでしょうか。残念ながらそうではありません。結局のところ、この調査は何らかの拘束力を持つものではなく、どのように回答するかについては各自治体に委ねられているためです。

 以下は、検討会の議事録の中での厚生労働省の担当者の方の発言です*3

巽保育課長
通知に基づく単なる調査でございます。通知というのは全く権力的な行為でも何でもございませんので、実際は強制力を持つものではございません。ただ、当然、自治体は、この示した定義をもとに判断しているということはありますので、そこはできるだけそれを規則的にすることによって、本来、正確に待機児童数を把握するべきところが、正確なものが出てくるというのは間違いないと思っております。

 調査における定義を具体的に示すことでより正確な値が出てくるであろうことは主張しつつも、強制力を持つものではないことについてはっきり述べています。調査という形式自体は今後も変わるわけではないため、今回改定された新しい調査要領に従って回答するかどうかというのは各自治体の判断次第なのです。

 この自治体ごとに考え方が統一されていないという点が、この隠れ待機児童についての今後の課題です。まったく同じ状況にある人であっても、ある自治体では待機児童にカウントされ、別の自治体ではカウントされない場合があるという事態は現状と変わりません。言うまでもなく自治体からすれば待機児童が増えたということになればマイナスの印象を持たれるので、それをできる限り過小に見せようというインセンティブが働いてしまうと思われ、その余地を与えてしまっています。

さらなる改善の方向性

 それでは、この課題に対してどのような対処方法が考えられるでしょうか。いくつかアイディアを考えてみました。

案1) 調査方法をより具体的にする

 1つは、どういう場合にはカウントするのか、どういう場合にはカウントしないのかといったQ&Aを充実させることでしょう。できる限り回答を平準化させるために、判断の軸をより具体的に、より多く示すということです。調査を行うのは各自治体の担当者であり、人が変われば考え方も変わるのは当然で、あいまいな表現であれば恣意的な解釈の余地が生まれてしまいます。他方、具体的に「この場合にはこうカウントすべき」とあるにもかかわらず、別のカウントを行うというのはリスクが伴うので都合の良い解釈を抑止することができます。

案2) 調査方法をよりシンプルにする

 逆にシンプルにするという考えもあるでしょう。例えば、求職活動中となっている保護者の中には実際には求職活動を休止している人も含まれているかもしれませんが、特に例外なくその場合でも待機児童としてカウントするとしてしまえば、自治体ごとの計測方法の裁量の余地が狭まりますので、調査の基準をより平準化させることができます。ただし、この場合には実態よりも多く数字が出てくることになりますので、それ社会として許容するかという問題を伴います。一部には、隠れ待機児童を活動家による待機児童問題の延命策として捉える方々もいるので、このような方は真っ先に反対することになるでしょう。また、地域によって交通手段は異なりますので、「利用可能な保育園」の考え方を統一するのはかなり困難です。

案3) 調査にあたっての考え方を明示する

 これは決して望ましい案ではないですが、各自治体でバラバラな考え方で調査を行うにしても、その考え方は調査結果とあわせて公表するという考え方もあります。今回の検討会におけるアンケートによって、個々の隠れ待機児童の分類に対する計測方法はある程度カテゴリ分けできるようになっています。そのどれを選択しているかを知ることができるようになっていれば、その値の確からしさを検証することが可能になります。また、計測方法を公開することによって、都合の良い計測方法を採用することへの抑止効果も生まれます。

最後に

 今回は、前回の続きとして厚生労働省での待機児童の定義に関する検討会における結果と今後の課題について書いてきました。待機児童の定義の捉え方には自治体ごとに大きなばらつきがあるという問題に焦点が当たって、それが検討を踏まえて改善されたということは素晴らしい話です。しかし、課題として述べたように、結局は最終的にどのようにカウントするかについては自治体次第であることは変わらないため、今後も正確な数字をカウントできるとは思えません。案に示したような、さらなる改善が必要ではないかと考えています。

 なお、この新たな調査要領に基づく待機児童調査の結果が出てくるのは今年の9月です。より厳密にカウントするという方向性であるため、課題はあるにしても待機児童数が大幅に増えることはほぼ間違いないでしょう。それが実態として増えているのか、単純にカウント方法の変更によるものなのかは非常に分かりにくいかと思いますが、その際にはまた紹介いたします。

 

*1:報告書本体は、保育所等利用待機児童数調査に関する検討会審議会答申・報告書 |厚生労働省の「保育所等利用待機児童数調査に関する検討のとりまとめ」にあります。

*2:調査要領の新旧対照表は都内の保育サービスの状況|東京都の「【参考3】保育所等利用待機児童数調査要領(新旧対照表)」にあります。

*3:議事録は第2回保育所等利用待機児童数調査に関する検討会の開催について(2016年11月29日) |厚生労働省の「第2回保育所等利用待機児童数調査に関する検討会議事録.pdf」です。ちなみに名字は「たつみ」と読むらしいです。

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