認可外保育園への無償化措置の対象範囲等について検証してみました。

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 おはようございます、ほづみゆうきです。認可外保育サービスへの無償化の議論について、2018年5月31日に政府における検討会の結果が出ました。具体的には内閣官房の「幼稚園、保育所、認定こども園以外の無償化措置の対象範囲等に関する検討会」で、今年の1月から全7回の会合が行われ、様々な関係者からのヒアリングを通して今回の検討報告書が出てくるに至りました。すでに様々なニュースで報道されているところですが、当初は対象とされていなかった認可外保育も補助の対象となることが示されています。今回は、この報告書の内容を整理した上で、現状案の問題点と今後の課題について考えていきます。

今回の検討報告書の概要

 もうすでに様々に報道されているところではありますが、まずは今回の検討報告書の概要について把握しておきます。この報告書が提示されたのは5月31日に開催された「幼稚園、保育所、認定こども園以外の無償化措置の対象範囲等に関する検討会」の第7回で、この検討会での配布資料である「 幼稚園、保育所認定こども園以外の無償化措置の対象範囲等に関する検討会報告書(案)」です。

 

 主要なポイントは以下のとおりです(幼稚園の預かり保育や障害児通園施設に関する記載もありますが、こちらは割愛)。

3-5歳の認可外保育園へ通う子ども
・認可外保育施設も補助の対象とする

・補助の額は認可保育所における月額保育料の全国平均額(月額3.7万円)とする

0-2歳の認可外保育園へ通う子ども(住民税非課税世帯のみ対象)

・認可外保育施設も補助の対象とする

・補助の額は認可保育所における月額保育料の全国平均額(月額4.2万円)とする

 書いているとおりですが、これまでの議論において幼児教育無償化の対象年齢だった3歳から5歳については、これまで対象外とされていた認可外保育園の利用者も対象となることになりました。その支給額は認可保育園の保育料の利用平均額である3.7万円。

認可外保育園の無償化方針の妥当性の検証

 今回の認可外保育園の無償化の議論は、元々の認可保育園のみを対象とするという政府の方針に対して多くの人たちが反対をしたことに始まるのですが、それでは今回の検討結果は当初の批判を解消するものとなっているのでしょうか。

 今回の認可外保育園の無償化の議論について、わたしは過去に本ブログで取り上げていました。

ninofku.hatenablog.com

 この記事の中で、フローレンスの駒崎さんのブログの記事*1を引用しつつ以下の4点の問題点を挙げていました。

1) 認可外保育園の位置付け
 認可外保育園を利用している家庭の大半は(小中高での私立志願のように)率先して選択しているわけではない。あくまで認可保育園に入れなかったから仕方なく選択している。したがって、結果として認可外を選択していることを挙げて無償化の対象外とするのは誤り。

2) 認可と認可外での費用負担格差の広がり
 現時点においても認可保育園は公的な補助が入っているので認可外と比較すると安価。この状況において、認可保育園だけを無償化するということは認可と認可外での費用負担の格差をさらに広げてしまうことになる。

3) 保育事業への参入インセンティブの低下
 「2)」に挙げた費用負担格差の広がりにより、認可保育園以外の保育サービスは相対的に高価なものになってしまうことから、民間企業の保育事業への参入インセンティブが低下する。

4) 所得格差の拡大
 認可外保育園が対象外となる一方で、認可保育園を利用している高所得者層の家庭の費用までもが無償化の対象となっている。認可保育園の保育料は現時点で所得に連動しているため、所得が高いほど無償化のメリットは大きくなる。結果として、無償化は所得格差の拡大させることになる。 

  そして、これらの問題点を解消するためには以下の3点の改善が為されるべきと主張していました。

1) 一定額を上限とした補助を行う

 一律の無償化ではなく、何らかの基準を設けて一定額を上限として補助、それを上回る部分は自己負担とするべき。

2) 所得制限を設ける

 予算の枠は限られている一方で、所得制限なしに無償化を行うと高所得者層ほど恩恵を受けることになるため、無償化の対象を広げるにあたっては所得制限を設けるべき。

3) 補助の対象は制限を設けない

 認可外保育園の中で補助の対象外は設けないようにするべき。

 これらの点について、今回の報告書の内容はどうだったでしょうか。それぞれについて検証してみます。 

「1) 一定額を上限としたの補助を行う」について

 検討報告書では、保育の必要性が認められている認可外保育園の利用者に対して「認可保育所における月額保育料の全国平均額」である月額3.7万円を上限に支給されることになりました。報告書の中には認可外保育園の平均利用負担額は月額4万円であることが示されており、差引での平均的な利用者負担は3000円となっています。

 したがって、一律に無償化ではなく、一定額を上限とした補助となっています。こちらはある程度想定通りではあるものの、補助の上限の設定には改善の余地があるのではないかと考えます。「認可外保育園の平均利用負担額」は月額4万円であるにしても、相当の地域間格差があると思われるためです。全国平均では4万円であるにしても、都心部での負担額は高額です。認可外の場合には各園での料金設定になっていますので一概には言えませんが、たとえばわたしが過去に調べた中央区の認可外保育園で言えば、10万円を超える保育園も珍しくありません*2

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 3歳児と4歳児の場合には平均での負担額は10万円を超えています。10万円であるとすれば、補助が出るにしても6.3万円の持ち出しがあります。認可保育園や幼稚園であれば無償で通える一方で、認可外保育園の場合には6.3万円を払わなければならないというのは公平であると言えるでしょうか?英語や習い事など特殊な何かを学ぶために認可保育園を選択せずにあえて認可外保育園に行く人たちもいるかもしれませんが、都心部の認可外保育園は認可保育園から溢れた需要の受け皿になっていることも忘れてはなりません。

 さらに、この点については幼稚園の無償化との考え方のズレも気になるところです。幼稚園の場合の補助額は25,700円が上限となっています。これは「国の定める利用者負担額の上限額」です。一方で、今回の認可外保育園の補助額は、37,000円が上限です。この数字は、「認可保育所における月額保育料の全国平均額」です。一見すると保育園の方が優遇されているようにも思えますが、幼稚園の方が「上限額」、保育園の方は「平均額」であることが大きく違います。幼稚園の考え方を適用するとすれば、すなわち補助額の上限を「国の定める利用者負担額の上限額」とするのであれば、これは101,000円です。上限額がこの程度まであれば、都心部で認可保育園に入れないことによりやむなく認可外保育園を利用している家庭の負担は大きく軽減できることになります。

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 幼稚園と保育園での補助額をある程度平等にするように「3.7万円」という数字が出てきたのかもしれないですが、「平等」と「公平」は違います。以下は両者の違いを示す有名な画像です(Equalityが平等、Equityが公平)。補助する金額ではなく、家庭の負担を平準化することを目指すべきでしょう。したがって、認可外保育園の補助額の上限を国が定める利用者負担の上限額の10.1万円まで引き上げるか、幼稚園の補助額の上限を公立幼稚園の保育料の全国平均額まで引き下げるべきと考えます。

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「2) 所得制限を設ける」について

 今回の報告書の中で所得制限の話は特にありませんでした。 元々の無償化の議論にも所得制限の話はなかったので、世間からの批判により追加された認可外保育園への補助だけ所得制限があるということになれば新たな火種になるのは明白なので当然と言えば当然です。しかし、補助の対象をこれまでよりも広げるということで当然に新たな財源が必要となること、そして1点目に挙げたとおり認可外保育園への補助の上限は不十分であることから幼児教育の無償化の全体の枠の中で所得制限の話が出てきても良かったのではないかと思います

 この他、当初から指摘しているように所得制限を設けないということはどんな高所得者層であれ無償化の対象となるということで、認可保育園の保育料は所得と連動しているので高所得者層ほど得をする構造になっているという点も見直しを行うべき重要な理由です。こちらについては「保育園に入りたい!」さんが分かりやすい資料を作成されています。

 低所得者層への再分配は弱いことがよく分かります。内閣府が公開している資料では幼児教育の無償化にどの程度公費がかかるのかについての試算を行っていますが、こちらでも結果はほぼ同じです。680万円未満までの家庭の子どもを無償化した場合の公費は3898億円であるのに対して、680万円以上まで対象にした場合には7445億円。ほぼ倍増しています((幼児教育無償化に関する関係閣僚・与党実務者連絡会議(第3回)議事次第

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「3) 補助の対象は制限を設けない」について

 今回の報告書で補助の対象は「一般的にいう認可外保育施設、自治体独自の認証保育施設、ベビーホテル、 ベビーシッター及び認可外の事業所内保育等のうち、指導監督の基準を満たすもの」とされました。これでは基準を満たさないものは対象外となってしまいますが、一方で「利用者の公平性の確保及び質の向上を促進する観点から、5年間の経過措置として、指導監督の基準を満たしていない場合でも無償化の対象」となっており、実質的には現状の認可外保育園は全て対象になるのではないかと思われます。

 通っている認可外保育園によって補助を受けられたり受けられなくなるということがないという点は良いことでしょう。しかしながら、一方で5年間は劣悪な環境であったとしても国の補助が受けられるということの裏返しでもあります。この経過措置を利用して劣悪な環境の保育施設が設置されて、経過措置終了とともに廃業して預けられた子どもが路頭に迷うなどということが起こらないことを祈るばかりです。

まとめ

 これまでの内容をまとめると、認可外保育園を一切対象外とするというところからは改善したものの、いくつか課題が残っているという認識です。わたしがさらに改善すべきと考えるのは、利用負担額の公平性の向上と、所得制限の導入です。これらはどちらも支出する公費を抑えつつも、利用する全ての人たちの負担をできる限り平準化していくことを目指すものです。ちなみに言うまでもなく、この無償化で公費を抑えるというのはこれよりも喫緊の課題である待機児童対策に予算を振り向けるべきと考えるためです。

他の「無償化」によるモデルケース

 この幼児教育の無償化については一旦区切りが着いたものの、実際の導入までには今後も色々と議論があるかと思います。そこで、上記に挙げた課題が他の「無償化」の制度の中ではどうなっているのかについて簡単に調べてみました。結論から言うと、様々な方策があり、それらを導入することでもっと仕組みは改善できるのではないかと考えます。

高等学校の無償化

 国内の先行事例として挙げられるのが高等学校の無償化です。これは教育機会の均等を目的として平成26年4月からスタートしたものです。公立学校の授業料に相当する金額を「高等学校等就学支援金」として配ることにより無償化を実現するものです。幼児教育の無償化と比較すると、いくつも優れていると感じる点がありますので紹介します。

1) 所得制限がある 

 1点は、単純に所得制限があるということです。世帯の年収が910万円以上である場合には補助の対象となりません。補助の対象に所得制限を設けることによって、公費の支出を抑えつつも、負担の大きい家庭に対して以下に挙げるような手厚い補助を行っています。

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2) 公平性への考慮がある

 次に、公平性への配慮が為されているという点です。支給額は公立と私立の場合で異なっており、私立の場合には支給額が積み増しされることになっています。公立の場合には11.8万円ですが、私立の場合には最大29.7万円。私立の方が授業料が高額であるためです。

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 これは先ほど挙げた画像の「公平」の考え方に沿った設計であると言えるでしょう。

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3) 段階的な補助を行っている

 私立高校に通う場合の積み増しの補助額についても、年収に応じて段階的な設定となっているのも面白い点です。もらえるかもらえないかの2択しかないのであれば一定の年収を境に格差が広がってしまいます。たとえば保育の無償化の議論では0歳から2歳も住民税非課税世帯であれば3歳から5歳と同様に無償化の対象となっていますが、一方でそれ以外は対象外です。わずかばかりでも住民税を納めている場合、無償化の対象とならなくなってしまいます。認可保育園に入っているのであれば保育料は所得と連動なので微々たるものですが、認可外保育園の場合には(自治体の補助が無い限り)最大年間で44.4万円(3.7万円 X 12ヶ月)の格差が生まれてしまいます。

 一方で、この高等学校等就学支援金の仕組みでは年収が上がるに従って4段階で徐々に補助金の額が減っていきます(減るのは私立の場合の積み増し額部分で、公立の場合の支給額は変わらず)。

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まとめ

 まとめると以下のとおりです。これらの考え方は、幼児教育の無償化にもそのまま利用できるものです。これらを点を改善することで公費の支出を抑えつつも、利用者の負担を平準化できるようになります。

1) 所得制限を設ける

2) 公立と私立で補助額の上限を変える

3) 補助額は年収によって段階的な設計とする

大学の無償化

 幼児教育の無償化と同じく2兆円の新しい経済政策パッケージの中に含まれている大学の無償化はどうでしょうか。細かい制度設計まではまだ出ていないですが、こちらについても報道されている情報を見る限り、所得制限を設けて低所得者層に限って無償化を行うことになっています。

安倍政権が人づくり革命の目玉施策の一つとして掲げる大学など高等教育の無償化について、政府が年収380万円未満の世帯を対象に、授業料免除や給付型奨学金の支給などを実施する方針を固めたことが26日、関係者への取材で分かった。完全に無償化する年収270万円未満が目安の住民税非課税世帯に準じる世帯についても、課税所得額に応じて段階的に一部を支援する。

最後に 

 今回は認可外保育園への無償化措置に関する検討報告書の内容を整理した上で、現状案の問題点と今後の課題について考えてきました。利用者の声に応えて認可外保育園までを対象とされるようになったことは素直に素晴らしいことです。しかし、現状案にはいくつもの課題があり、まだまだ改善の余地があります。例として挙げた高校無償化の「高等学校等就学支援金」の仕組みと比べると、現状案は制度設計が甘いと言わざるを得ないのではないかと思います。今後の議論でより問題点が精査され、利用者の負担ができる限り平準化されるようになるようこれからもウォッチしていきます。

 

ころべばいいのに

ころべばいいのに

 

 

*1:元々の参照はYahooニュースの記事だったのですが、消えてしまったようなので個人のブログのリンクを貼っておきます。

www.komazaki.net

*2:調べたときのリストのリンクを貼り付けておきます。

東京中央区の保育園情報(無認可)Googleスプレッドシートが開きます)

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