東京都のベビーシッター代、月28万円補助で待機児童は解消できるか?

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 おはようございます、ほづみゆうきです。明けましておめでとうございます。このブログも1周年です。これまで過去に何度かブログを書いてきましたが、1年間継続的に書き続けられたのは初めてかも知れません。今年もどうぞよろしくお願いいたします。さて、今回はベビーシッターの話題です。最近、待機児童対策の一環として、東京都がベビーシッター代を28万円を上限に補助するという予算を次年度に計上しているというニュースがありました。

 待機児童対策としてのベビーシッターという手法は、東京23区にあって唯一待機児童ゼロを実現している千代田区の最後の手段としてすでに導入されていますが、今回は都全体として取り組むというものです(ちなみに千代田区は全額補助だが、今回の施策は一部補助)。

 世間の評判を見る限り、どちらかというとポジティブに捉えているように思われますが、実際問題として、この対策によって待機児童で困る人たちは救われるのでしょうか。今回はこのニュースについて考えてみます。

施策の概要

 まずは、今回の施策の概要を整理します。東京都の予算に関する資料があれば一番良かったのですが、都の予算のページを見ても数字の羅列しかありませんでしたので、報道の内容から拾うことにします。詳しく書かれていたのはテレ朝ニュースでした。

対象者:育休を1年間取得した後に復職し、次の4月から認可保育所を申請している保護者

対象年齢:0歳から2歳まで

対象人数:1,500人

補助内容:ベビーシッターの利用料金を月額最大28万円補助

予算規模:49億円

目的:1年間の育休を取得する保護者を増やし、人手の掛かる0歳児の保育を減らして待機児童の解消にもつなげる

引用元)育休からの復職支援に約50億円 東京都が予算案で

 

 内容は上記を読めば理解できるかと思います。対象年齢を絞っているものの、3歳からは幼稚園に移行する子どももそれなりにいるため、待機児童はほとんどいませんので特に影響はないはずです。この記事を見る限り、施策の意図としては0歳児での保育園利用をベビーシッターに転換していこうという方針なのかと読めます。

施策の感触:この施策で待機児童は解消されるのか?

 さて、次はこの施策についてのわたしの感触です。待機児童の問題に注目が集まり、対策が行われるということは非常に素晴らしいことです。とはいえ、考えるべきはこの対策で現在及び未来の待機児童は解消できるのかという点です。結論から言うと、この施策で待機児童に対しての恒久的な対策として有効とは思えません。あくまで一次的な対処という位置付けかと思います。 以下、その理由について書いていきます。

理由1:対象人数が待機児童に比べて少ない

 理由の1つ目は単純で、対象としている人数が現状の待機児童数に満たないためです。東京都が毎年4月に出している待機児童数の状況の資料(都内の保育サービスの状況|東京都)によれば、平成29年度4月時点での待機児童数は8,586人であるにもかかわらず、今回の施策の想定人数は1500人であるためです。ニーズの1/6程度であり、まったく足りません。そして、サービスの供給量が足りないということになると、希望する人たちの中で本当に必要な人は誰なのかということを公正に決定するために、現在の保育園入園と同じような熾烈なポイント競争が行われることが容易に想像されます

理由2:ベビーシッターの確保が容易ではない

 理由1では予算の話をしましたが、そもそもの問題としてベビーシッターの供給が今回想定している数(1,500名)に足りるのかという問題もあります。以下の記事は昨年11月の記事で、この時点ですでに人手不足で、争奪戦の状況にあるということです。

www.tokyo-np.co.jp 

 今回の施策による補助があれば、これまでまったく利用をしていなかった人たちが新たに一気に最大1500人も利用者として増えるということで、それだけのベビーシッターが確保できるのか疑問です。予算が足りなくなる前に、ベビーシッターの数が足りなくなるという可能性もあります。こればかりは金だけで何とかできる問題でありません。

 ベビーシッター業界としてはビジネスチャンスということで必死で供給しようとするのでしょうが、そうなるとシッターの質の低下は免れません。数年前にはベビーシッターに預けられていた子どもが亡くなるという痛ましい事故もありました。補助を出す代わりに質の保証のチェック機能を設けることは不可欠でしょう。

理由3:コストパフォーマンスが良いわけではない

 3点目としては、ベビーシッター代を補助するというのは保育サービスとして、決してコストパフォーマンスが良いものではなく、今後の持続可能性に疑問があるという点です。過去に調べたのですが、ベビーシッターサービスの最大手であるポピンズの費用は1時間あたりスタンダードで2,500円。諸費用はとりあえず無視するにしても一般的な9時から17時で利用すると1日で17,500円。単純に月に20日と考えると35万円。フルタイムで働いている家庭であれば、だいたいこの程度の金額が通常は必要です。

引用元)エリアと料金表(首都圏・東海エリア・関西エリア)|ナニーサービス|ポピンズ

 

 この金額に対して、最大月額28万円(年額336万円)を補助するというのが今回の施策です。それでは、限られた予算の中で効率的に希望者に対して保育サービスを提供していくという観点から、今回の施策が望ましいのでしょうか。

 都市圏において保育園を新たに作るコストは高いので、これと比較すればベビーシッターの方が合理的であるという意見はあります。特に、0歳児は保育園で預かる費用が上の年齢よりも高いという話はそれなりに有名な話かと思います。以下の表は杉並区の平成28年度の行政コスト計算書で、この表では0歳児にかかるコストは年間374万円で突出して高い金額となっています(5歳児では189万円、0歳から5歳の平均では236万円)。

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引用元)事業別行政コスト計算書 平成28年度

 

 この2つの数字だけを見れば、0歳児であれば、ベビーシッター代を補助した方がむしろ安上がりということになります。

 しかし、忘れてならないのは保育サービスは何も保育園だけではない点です。たとえば、上の表にも「保育園」の他に「保育室」という覧があります。これは杉並区が待機児童解消のために整備した認可外の保育施設で、保育園よりも小規模な施設における保育サービスであるようです(詳細は以下リンクをご覧ください)。 

杉並区保育室|杉並区公式ホームページ

 

 この場合の費用は0歳児でも179万円で、保育園のコストの半額以下です。これはあくまで一例で、保育サービスには保育園以外にも小規模保育事業(フローレンスの「おうち保育園」が有名ですね)や保育ママなどいくつかの選択肢があります。これらのコストがどの程度かについての情報は見つかりませんでしたが、小規模保育事業は杉並区の保育室事業と仕組みが似ているので同等程度と思われます。保育ママは(中央区の事例が全国でも同じであると仮定すると)保育者1人に対して3人の子どもまで預かってもらうので、1対1であるベビーシッターに比べればコストパフォーマンスが優れるのはおそらく確実です。行政コストの観点だけでなく、実質負担額が7万円程度ということを考えると実質的に利用者が支払う額としてもこれらのサービスの方が低コストです*1

 これまで何度も保育園関係のネタを書いてきているわたしではありますが、とはいえこの分野に対しては採算度外視で何でもかんでも予算を増やすべきとは思いません。重要性は十分に理解するにしても、その支出が無制限に肯定されるわけではありません。同じことをやるのであればより安価に、同じ予算を支出するのであればより効果的なことを行うことを行うというのは当然です。この意味で、今回のベビーシッターに補助を行うというのは決してコストパフォーマンスが良い選択肢であるとは思えず、上記に挙げた保育サービスが充実するまでの繋ぎとして位置付けられるべきものと考えます。

まとめ:保育サービスは今後どうあるべきか?

 上記に書いたとおり、今回の施策はこれまで何の手当もされなかった待機児童たちへの措置で、それ自体は望ましいことであると思います。しかし、サービスの供給量が需要を確実に下回ることが想定されるため、この施策によって待機児童の問題が解消するということはありません。足りなければ単純に増やせば良いという話になりますが、、ベビーシッターの供給量が潤沢とは思えないため、こちらがボトルネックとなって想定していた1,500の家庭が救われるとも思えないというのがわたしの感触です。

 さらに、決してコストパフォーマンスに優れる施策ではないので、今後の持続可能性にも疑念が残ります。あくまで一時対処として位置付け、この間に低コストで十分な質を保った保育サービスを充実させていくべきではないかとわたしは考えます。 

最後に

 今回は東京都のベビーシッター代の補助について、調べてみました。決して完璧な施策であるとは思えないというのが感想ですが、着実に待機児童の問題に世間の注目が集まっているというのは良いことであると思います。近い将来、このような問題があったことを過去のこととして笑える日が来ることを期待しています。

 

みえるとか  みえないとか

みえるとか みえないとか

 

 

*1:

 以下のグラフは中央区の認可保育園、認証保育園、認可外保育園のそれぞれの1人あたりの保育料を比較したものです。中央区の場合、認可保育園であれば保護者が支払っている保育料は1.8万円程度。他の自治体の扱いは調べていませんが、中央区では保育ママも小規模保育事業も保育料はこの認可保育園と同じなので、7万円からすれば圧倒的に低コストです。

 引用元)「保育の無償化」に必要な予算と、その予算で他に何ができるのか中央区のデータで試算してみました。 - 東京の中央区で、子育てしながら行政について考えるブログ

 ちなみに余談ですが、認可外保育園の平均は10万を超えており、この金額を考えれば自己負担額が月額7万円でベビーシッターを利用できるというのは破格です。むしろ、今まで認可外に通わせざるを得なかった層が今回の施策によってベビーシッターになだれ込むことすら考えられます。このようなモラルハザードが起こらないよう、全ての保育園を希望したにもかかわらずどこにも入れなかった人限定にする、自己負担額は認可外保育園での保育料以上程度に設定する、といった対策が必要でしょう。 

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