東京23区における保育士の子どもの保育園入園優遇策の比較をやってみました。

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 おはようございます。ほづみゆうきです。暖かくなったと思ったら寒くなったり、寒くなったら暖かくなったりという春らしい天気になってきました。さて、今回は東京23区における保育士の子どもの保育園入園への優遇策の比較を取り上げます。比較の一覧自体は以前にTwitterで紹介していたのですが(以下ツイート)、せっかくなので一応記事として公開しておこうという位置付けです。

 なお、そもそものきっかけとしては以下のTogetterの記事。保育士として復職しようとした人が保育園の入園に落ちたといういくつかの悲痛な叫び。何らかの対策はやっていたように記憶していて、実際のところどうなっているのだろうかと考えて、とりあえず調べてみるに至りました。

togetter.com

保育士の子どもの保育園入園優遇策とは

 保育士の子どもの保育園入園優遇策とは、言葉のとおり、保育士の方が保育園入園を希望する場合、その他の方よりも何らかの形で優遇して入りやすくするということです。この議論のきっかけとなったのは、内閣府の子ども・子育て本部、文部科学省厚生労働省の3者の通知「保育士等の子どもの優先入所等に係る取扱いについて」です。以下に該当箇所を引用します。

保育士等の子どもの保育園等への入園の可能性が大きく高まるような点数付けを行い、可能な限り速やかに入園を確定させることは、
・当該保育士等の勤務する保育園等が早期に当該保育士等の子どもの入園決定を把握して当該保育士の職場への復帰を確定させ、利用定員を増やすことを可能にし、保育の受け入れ枠の増加に大きく寄与するとともに、
・保育士等が妊娠・出産後、円滑に職場復帰できる環境を整えることにより、高い使命感と希望をもって保育の道を選んだ方々が、仕事と家庭の両立を実現しながら、将来にわたって活躍することが可能となり、保育士の処遇の改善にも大きな効果が見込まれることから、待機児童の解消等のために保育人材の確保が必要な市町村においては、このような取組を行うよう努めること。

 引用元)保育士等の子どもの優先入所等に係る取扱いについて (内閣府Webサイトより)

 上記の赤字部分の記載のとおり、その目的として掲げられているのは以下の2点です。

1) 保育の受け入れ枠の増加

2) 保育士の処遇の改善

  1点目は、保育士の資格を持つ方が保育士として社会復帰できれば、その分新たに保育サービスを提供できるようになるということです。今の日本では様々な分野で人材不足ということが言われていますが、保育業界も同様です。ここ最近のニュースでは、保育士が不足したことから保育園が休園になるという事態まで起こっています(保育士不足で保育園休園に 横浜、37人転園迫られる - 産経ニュース)。

 保育士の子どもを保育園に預ければ当然に定員の枠が1つ減ることになるわけですが、保育士1人が社会復帰できれば社会全体の保育サービスの定員はそれ以上に増えることになります。これが保育士を優遇する意味です。配属されるクラスによって異なりますが、もっとも効果の低い乳児(0歳児)クラスであっても保育士1人で3名の子どもを預かることができるようになります。すなわち、保育士の方が保育サービスを利用して社会復帰することで、社会全体として保育サービスの定員が差し引きで少なくとも2は増えることになるのです。その他の年齢は以下のとおりです(この数字はあくまで最低の水準であり、自治体によって異なる場合がありますが)。

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引用元)保育の現状内閣府Webサイトより)

 

 2点目としては、保育士という仕事に就くことへのインセンティブを設けようという意図が見えます。よく言われているように、保育士の資格を持っている方が誰しも保育士として働いているわけではありません。少々古いデータですが、平成25年度時点で保育士登録者数は119万人である一方で、実際に勤務している方は43万人に過ぎません(潜在保育士は76万人!)。ざっくり言うと資格を持つ人のうち、1/3程度しか保育士として働いていないのです。

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引用元)保育士等に関する関係資料厚生労働省のWebサイトより)

 

 一方で周知の通り、特に都市圏における保育サービスの争奪戦は極めて熾烈なものです。産休明けに復職しようとしても、保育サービスを受けられないことによって最悪の場合にはそれまでの職を失うことにもなってしまいます。このような状況の中、子どもを産んだ後にいつでも復帰できる(保育サービスを利用できる)ということになれば、なるほど保育士という仕事に就くことのインセンティブにはなりますワークライフバランスのためにワークの選択肢が狭められるのは甚だおかしいのですがその点はひとまず置いといて)。

 

 このように、政府としては保育サービスの定員数の増加、保育士となることへのインセンティブ付与の2点から、保育士に対する保育サービスの優先的な提供を国が自治体に対して要請しているのです。 

東京23区における保育士優遇策の比較

 それでは、各自治体でどのような優遇策を行っているのでしょうか。わたしは東京の中央区に在住していますので、例のごとく東京23区の保育園入園のご案内(平成30年度4月入園分)を全て眺めて、それぞれの優遇策をリストにしてみました。以下のとおりです。 

 

Googlesスプレッドシートで開く場合はこちらをクリックしてください。

 

東京23区における保育士優遇策の考察

全般について

 まずは全般について簡単に整理します。何らかの優遇策がある区は23区のうち、17区です。一方で、一切何の優遇策も設定していない区は6区です。こっちは晒し上げておきましょう。中央区台東区、品川区、渋谷区、練馬区江戸川区の6区

 優遇策の内容は2つに分かれています。1つは利用調整における調整指数への加点のパターンと、もう1つは調整指数が同点の場合に用いられる優先順位を上げるというパターン。加点を採用している区は8区、優先順位を採用している区は9区。優先順位はあくまで調整指数が同点の場合に意味があるのであって、調整指数への加点の方が圧倒的に価値が高いです。この調整指数の加点を行っている区は、港区、新宿区、江東区大田区、世田谷区、中野区、足立区の9区。

「加点」に関する優遇策について

 加点の優遇を行っているのは8区ですが、区によってその幅は様々です。港区の場合には両親がフルタイムである場合の指数は20点で、保育士として復帰する場合にはプラス6点です。非常に大きなプラス要素であり、これは該当すれば競争で相当に有利になりそうです。一方で、例えば板橋区において加点はプラス1点に過ぎず、これでは他の要素次第では結局待機児童となって社会復帰できないということも十分に考えられます。

 

2018/03/13追記港区の保育を考える親の会さんから指摘がありました。港区の場合には勤務者と勤務内定者を利用調整時に選別しており、この6点は勤務内定者(14点満点)を勤務者(20点満点)と同等にするだけとのことです。また、この優遇策はあくまで「内定」が条件なので、すでに保育士として勤務しているところへの復職では加点されない、さらに、別の区で保育士として働いていても加点されないとのこと。以下、該当のツイートです。情報提供、ありがとうございます。

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「優先順位」に関する優遇策について

 優先順位を上げるという策については、加点よりも選考への影響は低いです。あくまで同点の場合のみに意味があるものであるからです。この中で言うと、千代田区は優先順位の中でも最優先の項目として位置づけられていますので、多少なりとも影響はあるでしょう。一方で、文京区杉並区豊島区などについては優先順位の順番としても微妙な位置に留まっており、実際の利用調整にあたって当落を分けるほどの影響を発揮するケースは少ないと思われます。

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あまり目立たない、致命的な問題点

  上記の通り、23区の中でも優遇策の中身は大きく違いがあります。優れているものもあればイマイチのものもあり、中でも港区の優遇策などは一見優れているように見えます。しかしながら、この港区も含めて、これらの優遇策の大半には極めて致命的な問題点があります。それは、保育サービスを受ける区と同じ区の中で勤務することを条件としていることです。港区の保育園入園の案内には以下の条件が記載されています。

港区内の保育施設に保育士及び看護師の有資格者として就労内定(1年以上勤務が決定して いること)している者

 あくまで点数アップに該当するのは港区内の保育施設に採用される予定の人のみです。つまり、港区の保育園に自分の子どもを預けたいと考える方は、港区の保育施設のどこかに就職しなければならないのです。裏返せば、港区以外の就職する場合には一切の加点がないということです。

 地方都市であればまだしも、東京23区内で仕事と自宅が同じ区内である方は果たしてどの程度いるのでしょうか。これから産休明けで就職活動をするにせよ、都合良く条件やタイミングの合う求人が同一区内という狭い範囲にあるとは限りません。このように考えると、この条件に合致する人は極めて少ないのではないかと思われます。

 このような条件設定は他の区も大半も同じです。詳細については上記のリストの「条件」列をご覧ください。入園案内を見る限りにおいて、同区内での勤労を条件としていないのは千代田区と豊島区のみ。そして、このどちらの区も上記のとおり優遇策としては優先順位の設定のみで、大幅に選考において有利になるわけではありません。これらを総合的に考えると、保育士の入園優遇策は東京23区内においてはほとんど機能していないのではないかとわたしは考えます。

終わりに(この制度を機能させるためにはどうすれば良いか?)

 待機児童の問題を解消するためには保育サービスの定員を増やしていく必要があり、そのために保育士の資格を持つ方がこの業界に就職・復職しやすくする環境づくりは急務です。この点において「保育士が保育サービスを利用しやすくする」という方針は極めて合理的でまっとうな方向性であると考えます。しかしながら、現実問題としては十分に機能しているとはとても言えない状況です。 

 ちなみに最後に紹介した致命的な問題点、すなわち優遇策の大半が保育サービスを受ける自治体と同じところでの勤務を条件としている点については、冒頭の内閣府の通知でも以下のように留意する旨の記載があります。

(2)保育士等の子どもの優先利用の実施に当たっては、
・市町村の圏域を超えた利用調整の実施を行っていない市町村や
・市町村の圏域を超えた利用調整は実施しているものの、当該保育士等の市町村内の保育園等への勤務を条件としている市町村
が相当数存在するが、保育士等の中には、その居住する市町村以外の市町村に所在する保育園等に勤務する者も多数存在しており、当該保育士等について、その居住する市町村内の保育園等への勤務を条件とせずに市町村の圏域を超えた利用調整を行うことで、より多くの保育士等の職場への復帰が可能となり、当該市町村における待機児童の解消にも、広域的な待機児童の解消にも大きな効果が見込まれることから、こうした利用調整が行われるよう、積極的に各市町村間で協定を結ぶ等の連携・調整を行うこと

 引用元)保育士等の子どもの優先入所等に係る取扱いについて (内閣府Webサイトより)

 要するに日本全体としての保育サービスの定員増(そして待機児童の解消)のためには同一の自治体内であることを条件としないことを求めているわけですが、実際問題としては直近の応募においてはほとんどまともな対策は取られていないというのがこれまで紹介したとおりの現状です(通知が出たのは9月末で、募集開始が10月あたりであることを考えると、単に今回は間に合わなかったということも考えられますが、)。

 それでは対策としてどうあるべきかという点については、国や都道府県といった上位のレベルで自治体間での相互連携に向けた調整が不可欠なのではないかと考えます。あくまで各自治体の業務の枠の話ではあるかと思いますので強権的に行うことは国も都道府県もできない(自治の原則に反する)のでしょうからあくまで音頭取りという形に留まるかと思いますが、少数の自治体間での連携で効果があるものでもなければ、大きな連携ができるのを悠長に待っていて良いような問題でもありません。

 はっきり言ってなかなかすぐに解決のできそうな問題とは思いませんが、まずはこのような現状を多くの方に理解していただくことによって、議論のきっかけが生まれればと考えております。そして、まずは東京都内での相互連携を実現し、それが近いうちに首都圏に枠を広げていけたら素晴らしいですね。

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