児童虐待に関する基礎的な情報についてデータ化してみました。
おはようございます。ほづみゆうきです。すでに様々なところで話題になっているところですが、非常に痛ましい事件が起きました。東京都目黒区のアパートで両親に虐待された後に5歳の女の子が亡くなりました。両親を批判する声はもちろんのこと、児童相談所の対応が甘かったなどとする声もあります。一方で、これらの個々の人たちの問題とするのではなく、構造的な問題であるとして抜本的な改善を求めるような声もあります。おそらくもっとも拡散されているのはフローレンスの駒崎さんの記事では、これらの対策を早急に進めるべく東京都に対する署名活動も始まっています。
子どもを持つ一人の親として、わたしとしてもこの問題には心を痛めておりました。これまでも類似の事例は多々あったのでしょうが、何よりも心を揺さぶられたのは彼女の書いた「反省文」です。遊びたい盛りの子どもが「遊ぶのを辞める」といった文章を書かされるという気持ちを考えると心底陰鬱な気分になります。
今回の事件は最悪の形で終わってしまいました。しかし、それを悲しんで消費するだけでは、新たな事件を防ぐことはできません。このような事態をまた招くことのないようにするためにはどうすれば良いのかについて、一人一人考えていくことが必要でしょう。わたしとしてもこれからこの問題について考えていこうと思ったところですが、正直言ってこの分野についてほとんど知識がありません。したがって、とりあえずは現状の児童虐待に関する基礎的な情報をとりあえず整理するというところから始めてみようと考えるに至りました。
情報の引用元について
まずは情報の引用元について示しておきます。情報の引用元は、2017年2月に開催された「第5回子ども家庭福祉人材の専門性確保ワーキンググループ」での「資料4 児童相談所の現状」*1です。また、この資料で用いられている元のデータは「福祉行政報告例」*2という調査によるものです。
すでに厚生労働省の資料があるのであればそれを見れば良いのではないかと思われるかもしれませんが、多くはただの数字の羅列だったり、グラフがあるにしても単年度の内訳のものだったり、明らかに不適切な表現方法だったりと色々ツッコみどころがあること、また、今後この問題に関心を持たれた方がスムーズに分析等行えるよう、ネチネチとデータ化した上でグラフを作ってみました。データは毎度ながらGoogleスプレッドシートに掲載しておりますので自由にダウンロード可能です。
児童虐待に関する基礎資料(Googleスプレッドシートが開きます)
児童虐待に関する基礎資料.xlsx - Google ドライブ(ダウンロードはこちら)
児童虐待に関する基礎的な情報
児童相談所での相談対応件数の推移
まずは児童相談所への相談対応件数の推移です。児童相談所の役割は児童虐待への対応ばかりではないようで、以下のような役割があります。このそれぞれの推移が以下のグラフです。児童虐待に関する相談は「① 養護相談」の一部という整理です。
① 養護相談・・・保護者の家出、失踪、死亡、入院等による養育困難、虐待、養子縁組等に関する相談
② 保健相談・・・未熟児、疾患等に関する相談
③ 障害相談・・・肢体不自由、視聴覚・言語発達・重症心身・知的障害、自閉症等に関する相談
④ 非行相談・・・ぐ犯行為、触法行為、問題行動のある子どもに等に関する相談
⑤ 育成相談・・・家庭内のしつけ、不登校、進学適性等に関する相談
件数としては障害相談が常に上位に位置していますが、見てのとおり、養護相談の件数が直近10年で猛烈な勢いで伸びていることが分かります。この養護相談の内数である虐待に関する相談もグラフには掲載しており、こちらも同様に猛烈に増加しています。一方で、他の相談については平行線であるか、むしろ減少しています。
虐待相談の内容別件数の推移
虐待相談の内訳はどうなっているのでしょうか。こちらの内訳のデータもあります。児童虐待には4つの種類があり、この定義は厚生労働省によれば以下のとおりです*3。
身体的虐待:殴る、蹴る、投げ落とす、激しく揺さぶる、やけどを負わせる、溺れさせる、首を絞める、縄などにより一室に拘束する など
性的虐待 :子どもへの性的行為、性的行為を見せる、性器を触る又は触らせる、ポルノグラフィの被写体にする など
ネグレクト:家に閉じ込める、食事を与えない、ひどく不潔にする、自動車の中に放置する、重い病気になっても病院に連れて行かない など
心理的虐待:言葉による脅し、無視、きょうだい間での差別的扱い、子どもの目の前で家族に対して暴力をふるう(ドメスティック・バイオレンス:DV) など
全体の数が増えていることからそれぞれの種類で件数は増えているものの、心理的虐待が極端に増えていることが分かります。2006年時点では多かった身体的虐待、ネグレクトは件数としては増え続けていますが、2012年には心理的虐待がもっとも件数の多い相談内容となっています。なお、他の種類に比べると性的虐待の相談件数は非常に少ないです。
虐待相談の経路別件数の推移
今度は、虐待相談がどこから寄せられているのかです。定義の詳細は見つけられませんでしたが、それぞれを読めば何となくイメージは掴めるのではないかと思います。
明らかに異常な増加傾向にある経路は「警察等」です。「等」に何が含まれるのか分かりませんでしたが、主として警察なのでしょう。2006年時点では他の相談経路の真ん中くらいに位置していたにもかかわらず、それ以降は一貫して伸び続けています。全体の相談件数における割合は2006年時点では7%に過ぎませんでしたが、2015年時点では全体の37%を占めるまでになっています。「警察等」の伸びほどではないものの、「近隣知人」からの相談も増えています。
この数字は意外でした。というのも、この児童虐待に関して積極的に発言されている駒崎氏の記事で、「児童虐待の6%しか警察に知らされていない」とあったためです。
どうやらこの数字は東京都児童相談所事業概要からの数字で、児童相談所から警察への情報共有を指しているようです。このデータによれば、東京都における2016年度の虐待に関する相談件数12,494件に対して警察から児童相談徐への相談は4713件で、割合は38%。ほぼ上記に挙げた全国のデータと同じでした。
主たる虐待者の推移
次は、誰が虐待を行っているのかです。
相談件数が増えていることから全体的に増加傾向ですが、実父による虐待の相談件数の増加が顕著です。この傾向は、1999年時点を100とした場合の推移を示した以下のグラフにするとさらによく分かります。1999年から2015年からの増加の伸びは13倍近くにもなっています。
虐待を受けた子どもの年齢構成の推移
一方で、虐待を受けた子どもの側のデータです。
0歳から小学生までの低年齢層の割合が高く、中学生以上になるとかなり数は減ることが分かります。グラフ上は小学生の割合が大きく見えますが、「0歳〜3歳未満」「3歳〜学齢前児童」の年齢の範囲が3、「小学校」の年齢の範囲は6であることを考えるとだいたい同じくらいなのかもしれません。
絶対数は少ないものの、推移という点ではむしろ中学生以上の方が伸びは大きいようです。1999年からの伸びは中学生以下では7〜9倍程度であるのに対して、「中学生」ではおよそ12倍、「高校生・その他」ではおよそ15倍程度にまでになっています。
児童相談所数・児童福祉司数と相談件数の推移
次は児童相談所の側のデータです。虐待等の相談を受ける窓口となる児童相談所、そしてその相談にあたる児童福祉司の推移はどのようになっているのでしょうか。以下のグラフは、2000年を起点としてそれ以降の推移を示したものです。
児童相談所の数はグラフ上ではあまり分かりませんが若干ながら増えています。2000年には174箇所でしたが、2015年には208箇所となっています(およそ1.2倍増)。児童福祉司はそれ以上に増えていて、2000年の1313名から2015年には2934人となっています(およそ2.2倍増)。
しかしながら、それ以上に増えているのが児童虐待に関する相談件数です。2015年の件数は103286件となり、2000年時点の数字から6倍にもなっています。
児童相談の対応状況の推移
相談を受けた児童相談所での対応はどういったものでしょうか。こちらについても件数についてのデータが存在します。
「面接指導」が大半を占めており、さらに伸び続けているように見えます。とはいえ数字が極端に離れていて分かりにくいので、こちらも起点を100として推移を見てみることにします。
やはり「面接指導」が増えており、5年でほぼ倍増しています。一方で「里親等委託」は若干増えていますが、「施設入所等」はほぼ変わらず推移しています。
死亡事件の推移
最後に、死亡事件の推移です。
2007年から2009年に飛び抜けて増えていますが、それ以降は100件以下で推移しています。直近10年の数字を見ると、減少傾向にあるようにも見えます。
まとめ
これまでに整理してきた情報をまとめると以下のとおりです。
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虐待相談の内訳としては、心理的虐待の相談件数が増えている
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虐待に関する相談の経路としては、警察経由での相談が大幅に増えている
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主たる虐待者としては、実父が増加傾向にある
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虐待を受けた子どもの年齢構成は中学生以下が多いものの、中学生以上が増えている
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児童虐待に関する対応として、施設入所や里親等への委託はあまり増えていないが、面接指導は増えている
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児童虐待による死亡事件は若干ながら減少傾向にある
最後に
今回はできる限り主観を排して、児童虐待に関するデータを整理して、そのグラフを公開してみました。 あれこれと主張できそうな内容ではありますが、まずは淡々とデータを並べてみることにしました。個別の選択肢で何を意味するのかよく分からないところもあったので、それらについてはもう少し調べてみようと思います。