年度の前半に生まれないと保育園に入れない?認可保育園の利用調整において23区で中央区のみに存在する「不平等」について調べてみました。

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 おはようございます、ほづみゆうきです。今回はタレコミの記事です。保育園の入園にあたっての利用調整の仕組みに関して気付いた問題点を自治体の担当課や区議会議員に指摘したものの、危機感が感じられず改善への具体的な道筋が示されなかったため、当ブログにて是非取り上げてほしいとの要望をいただきました。内容をお伺いして、たしかにおかしな話で改善が求められるものであろうと感じたことから、このブログにて問題提起させていただきます。 なお、ご意見を寄せていただいた方は、以下「依頼者Aさん」と呼びます。

いただいた文書について

 「請願書」という名称でいただいた文章は全10ページにも渡る大作でしたが、それをそのまま掲載しても読むのが大変ですので概要をお示しします。端的に言うと、依頼者Aさんの指摘する問題点とは、「中央区の保育園入園の利用調整においては、年度中の遅い時期に生まれる子どもが過度に入りにくい仕組みとなっている」という点です。

 「年度中の遅い時期に生まれる子ども」が保育園に入園しにくいというのは中央区に限らず全国的に見られる現象です。最初に保育園に入る機会である0歳児クラスは園によって「生後3ヶ月以降」だったり「生後7ヶ月以降」といった制約があるため、翌年4月時点でこれらの月齢に該当しない子ども(たとえば2月、3月に生まれた子ども)はそもそも応募することができないか、応募できる園が減ることになってしまうのです。

 こういったことは他の自治体にも見られる事象ですが、であればなぜ依頼者Aさんは中央区が特別に問題があると考えておられるのでしょうか。それは、利用調整における「優先順位」として以下の項目が存在するためです。一応説明しておきますと、「優先順位」とは利用調整にあたっての各家庭の点数(利用調整指数)が同点であったときに優先度の順位付けを行うためのものです。

優先順位10 区内の認可保育所を利用希望月から6か月以上待機している児童
※ 6か月以上待機している場合には、より長い月数を待機している児童が優先されます。 

 この優先順位の項目は、点数が同点であるならば、待機期間の長い方を優先するというものです。直感的にはそれほど違和感がないかもしれません。しかし、以下に挙げるような問題を孕んでいるのです。

問題点1:生まれた月が早いほど有利な仕組み(遅いほど不利な仕組み)になっている

 保育園の入園の申し込みは生まれてから初めて行えるようになります。当たり前といえば当たり前ですが生まれていなければ入園の申し込みはできません。そして、入園の利用調整の対象となるのは入園可能な月齢になってからですので、4月2日に生まれた赤ちゃんが初めてその対象となるのは6月です。待機児童を現時点においてもすでに多く抱えている中で年度途中に入園申し込みをしてもそのまま入園できるわけではありませんので当然待機扱いとなります。そして、そうすると上記の「優先度順位10」の待機期間がスタートします。この考え方を生まれた日ごとに整理したのが以下の表です(横にスライドできます)。

 当たり前ながら、早く生まれた子どもの方が待機期間は長いため、この優先順位の中でも優先されることになります。そして、9月7日以降に生まれた子どもは翌年4月の利用調整においては、「6ヶ月以上待機」になりようがないのでそもそもこの優先順位の対象とはならなくなってしまいます。つまり、生まれる月が早いほど優先される(遅いほど優先されない)構造になっているのです(もっとも、全ての家庭が最短のタイミングで申込をするわけではありませんが)。Aさんによれば、このような優先順位を設定しているのは東京23区で中央区千代田区のみとのことです。

問題点2:本項目が入園可否の決定要因となっている

 優先順位として位置づけられているにしても、これ以前の優先順位ですでに順位付けがされていれば、この項目が大きな影響力を発揮することはありません。しかし、そうとも思えない、というのがAさんの主張です。中央区の優先順位の項目は以下のとおりです。

1 利用者負担額の階層が生活保護費受給世帯と同程度の世帯(階層区分A・B・C・D1・D2までの順)
2 ひとり親世帯
3 父又は母が会社命令による単身赴任となった世帯
4 保護者が、1か月以上の入院・常時病臥の場合
5 保護者が、身体障害者手帳1〜4級、療育手帳精神障害者保護福祉手帳を所持する場合
6 子どもが、身体障害者手帳1〜4級、療育手帳精神障害者保護福祉手帳を所持する場合
7 区内の認可保育所に兄弟姉妹が在籍している場合
8 兄弟姉妹同時入所申込み(未入所児が3人以上又は双子の世帯で低年齢児優先)の場合
9 保護者が認可保育所認定こども園・地域型保育事業所・認証保育所・企業主導型保育事業所で、児童の保育に従事又は従事する予定がある場合
10 区内の認可保育所を利用希望月から6か月以上待機している児童
11 養育している子ども(小学生以下)の人数の多い世帯
12 中央区に継続して在住している期間が長い世帯(保護者の在住期間が異なる場合は長いほうを基準とする)
13 当該年度分(当該年度の4月から8月までの利用調整にあっては前年度分)の所得割課税額が低い世帯

 1から9までの項目を見ると、ある程度多くの家庭に当てはまりそうなのは「7 区内の認可保育所に兄弟姉妹が在籍している場合」程度で、その他の項目は一部の該当者が優先されるというものでしかありません。つまり、応募者全体の優先順位を決定づけるような項目はありません。そして、10に来て初めて待機期間の長さによってすべての応募者が序列化されることになります。つまり、本項目に該当するか否かが少なくない数の入園可否を決定づけている可能性があるのです

 Aさんによれば、千代田区にも待機期間を優先順位の一つの項目とする仕組みはあるものの、順番は「区の在住期間」の方が優先度として上位であり、こちらの方で先に序列化されるため、中央区ほど待機期間は決定要因にならないとのことです。千代田区の次年度4月の入園案内を調べてみたところ、たしかに千代田区では在住期間の優先順位の4番目であるのに対して待機期間は14番目で、在住期間の方が上位となっています*1。 

「優先順位10」の修正案

 このような問題を抱えている「優先順位10」をどうするべきでしょうか。Aさんはその解決策についても提案されています。その修正案は以下です。

優先順位10:区内の認可保育所を利用希望月から6か月以上待機している児童
※ 但し、0歳児クラスを除く。 

 修正点のポイントは2点です。 

修正点1:待機期間の長さによる順位付けをなくす

 1つは、待機期間の長さによる順位付けをなくすことです。6ヶ月以上待機している家庭は優先順位に該当しますが、さらにその中でたとえば10ヶ月の待機期間の方と7ヶ月の方がいる場合には10ヶ月の方がさらに優先されることになります。この差異をなくそうということです。図示すると以下のようになります。

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修正点1の概要図

修正点2:0歳児クラスは対象外とする

 もう1点は、0歳児クラスへの応募の場合にこの優先順位の対象外とすることです。入園の利用調整の対象となるのは入園可能な月齢になってからなので、早く生まれた子どもの入園申し込みを速やかに行えば待機期間を伸ばすことができるという点はすでに述べました。このような生まれた時期による優先順位を、その影響の大きい0歳児クラスにおいては排除しようということです。産後間もない時期にこのような事務手続きを慌ただしく入園の手続きを行わせることへのインセンティブを減らすという意味合いもあります。

わたしの考え

 以上、Aさんの作成された資料を元に指摘された問題点について紹介してきました。中央区の保育園事情ウォッチャーとして、そして中央区に住む父親としても当然今回の優先順位10については把握していましたが、今回Aさんが指摘されたようなところまでの問題意識は持っていませんでした。また、他の自治体には同等の仕組みがないということは今回初めて知りました。

 それでは改めてAさんの指摘を受けてこの仕組みの是非についてどう考えるかというと、基本的にAさんの主張に同意です。この仕組みが存在する必然性は感じられず、むしろ、生まれる時期による格差を助長し、さらには子どもが生まれて忙しい家庭に余計な手続きを急いで行わせることをインセンティブを与えているように思われます

 ただし、Aさんの掲げる問題点のうち、1点目の早く生まれた方が有利という点は自明的ですが、2点目、つまりこの優先順位が多くのケースで入園可否の決定要因となっているという点については真実かどうかは分かりません。これを明らかにするためには、過去の利用調整のデータを用いて実際のところを確かめてみる他ありません。したがって、「現状を調査してみて、実際にこの優先順位の存在が多くのケースで決定要因になっているのであれば変更すべき」というのがわたしの考えです(とはいえ、現状では多くの応募者に気付かれていなくて生まれた月による差異が顕在化してないというのもありうるのですが)。

 なお、現状がどうなっているかについてAさんは中央区の担当課に尋ねてもみたそうです。その回答は、「以前に同様の指摘があり、課内で分析したところ、入園者に誕生月の偏りはみられなかった」だったとのことです。本当に調べているのか、どの程度価値のある分析を行ったのか疑わしい限りですね。ということで、この件について久々に開示請求を行って、その分析が一体どういうものだったのか、優先順位10の影響の実際のところがどうなのかなどについて調べてみたいと思います。

終わりに

 今回は読者の方から寄せられた中央区の利用調整に関する問題点について書いてきました。今回のご意見をお聞きして感じたのは、区議会議員という存在に対する疑念です。区の担当部署が現状の問題点に対して適当な言い回しで現状維持を図ろうとするのは(当然本来あるべきではないですが)まだ理解できます。一方で、行政の業務のチェック機能を果たすべき区議会議員に区民が請願という形で案件が持ち込まれたのであれば、具体的に改善に取り組んでほしいものです。来年の区議会議員選挙を控えて街頭演説を行う姿を見ることも増えてきましたが、そんなことをやっているよりもやることがあるのではないでしょうか。

 とはいえ、意見があればほいほい変えればそれで良いというわけでもありません。上に書いた通り、本当にこの優先順位が利用調整に影響を与えているのかどうかという検証のプロセスは必要です。というのも、不利益が解消される人がいる一方では今まで利益を受けている人もいるわけで、それを改めるためには客観的な事実認識が不可欠であるためです。これなしの議論は水掛け論の域を出ず、無用な軋轢を残しかねません。詳細を明らかにするためには開示請求を行う必要があり、今までの経験からすると素直に開示されることはないのできっとまた時間はかかってしまいますが、じっくりと取り組んでいきたいと思います。

 最後に、今回のように中央区の行政に関する問題点があればぜひコメントなどで声をお寄せください。というのも、このブログの目的が「自治体のサービスがどうあるべきかという議論を住民の側で盛り上げ、行政に対して具体的に発信していくこと」であるためです。一定程度の行政サービスは整備された現代の行政において、そのサービスをより洗練させていくためのアプローチはボトムアップ、つまり当事者が自身の問題意識を元に声をあげていくことだと考えています。とはいえ、全ての方が発信の手段を持っているわけでもありません。中央区の行政サービスが向上し、より良い街になるために、微力ながら役に立ちたいと思っていますので何かあればお気軽にどうぞ(関心を持った方は以下の記事もご覧ください)。

ninofku.hatenablog.com

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  最後の最後に、依頼者Aさんよりこの記事を見てこの優先度問題について関心を持たれた方には請願書の本体を見てほしいとのことでしたので、資料をアップロードしておきます。全10ページに渡る内容ですので理解するのは大変ですが、この問題に対する強い思いが伝わってくる文章です。なお、当初相談した中央区の区議会議員へ送付したものと基本的に内容は変わらないものの、肉付けはしているとのことです。

 

請願書(東京都中央区の保育園の入園選考における 他区には見られない誕生時期による機会の不平等

 

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