多胎児家庭への支援について考える勉強会に参加してきました。

双子の赤ちゃんのイラスト

 おはようございます、ほづみゆうきです。先日、「多胎児家庭への支援を考える議員勉強会」なるイベントに参加してきました。双子や三つ子など多胎児の育児は極めて大変と言われるものの行政のサポートは十分ではなく、多くの親がこれまで苦しんできていました。2018年には三つ子の母親が子どもを床に叩きつけて死なせてしまうという痛ましい事件も起きています*1。今回の勉強会は、これらの家庭の現状がどうであるのかについて把握した上で、行政としてどのようなサポートが必要になるのか、そして議員として行政に対してどのようなことができるのかについてを学ぶ場でした*2

 今回はその概要と、この勉強会を受けての自分のこれからのアクションについて書いていこうと思います。

多胎児家庭の大変さの「発見」とその実態

 言うまでもなく、これまでも双子や三つ子の家庭はたくさんあったわけですが、その実態はこれまで当事者以外にそれほど知られているものではなかったように思います。わたし自身としても、子どもが授かってそれなりに育児に参加している今であるからこそ同じ月齢の子を2人や3人も常に相手するというのがどれほどの無理ゲーなのかということは感覚として分かりますが、子育ての経験のない方にとってそれを理解するのは困難でしょう。自分の感覚にしても、あくまで想像の範囲でしかありません。

 

 この、これまで隠されてきた多胎児家庭の実態をあらわにしたのが今回の勉強会を開催した「多胎育児のサポートを考える会」(以下、考える会)代表のいっちーさんこと市倉加寿代さんが実施した「多胎児家庭の育児の困りごとに関するアンケート調査」でした。公開するや否やものすごい勢いで拡散され、結果的に全国の多胎家庭1591世帯もの回答を集めることになりました。

 

 その内容は壮絶そのもの。多胎育児当事者の実に93.2%が「気持ちがふさぎ込んだり、落ち込んだり、子どもに対してネガティブな感情を持ったことがある(あった)」と回答*3

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 フリーコメントを見ると、読んでいるだけでつらくなるような言葉が多々あります。

「気が狂うし死にたくなる。虐待する気持ちも分かってしまう。」

 

「初めての育児しかも2人分の命を守らなければという重圧がのしかかり、気が狂うかと思いました。」

 

「何度、子どもを殺してしまうかも…と思ったことかわかりません。」

 

 育児の大変さから来るネガティブな感情によって子どもを傷つけてしまうかもしれないということは当事者の思いだけではなく、調査結果としても示されています。一般社団法人日本多胎支援協会の「多胎育児家庭虐待リスクと家庭訪問型支援の効果等に関する調査研究」によれば、多胎児家庭の虐待死リスクは単胎児に比べ2.5~4倍という記載があります。*4

アンケートから見えた現状の課題

 当事者の方がこれほど苦しんでいるのは、もちろん純粋に複数の同月齢の子どもを育てていくことが大変という要素もありつつ、行政による支援が十分に受けられてないという点もあると考える会では分析されています。資料では以下の4点を挙げられていました(補足部分は、ほづみによるざっくり解釈)。

①必要な情報が届いていない問題

産前に提供される情報が単胎児向けのものなので、産後のイメージを持てない

②外出困難問題

準備が大変だったりバスなどの交通機関が使いにくいことにより外出しづらくなる
③保育園・一時保育入れない問題

多胎児であることで優遇されるわけでもないので片方だけだったりバラバラの園になったり
④既存制度がすべて単胎児向けに設計されている問題

妊婦健診の補助が足りなかったり、外出自体が大変なのでファミサポの登録にも行けなかったり

 

 全てに共通する課題は「子育てに関する制度やサービスが多胎児を想定した設計になっていない」ということです。これは多くの社会問題に共通することでありますが、多胎児が全体からするとマイノリティであることに起因するものでしょう。

 

 しかしながら、マイノリティだから我慢しろ、というのはあまりに旧世代的な考え方です。苦しいのであれば苦しいと声を上げることができる、その要望のすべては実現できないにしても当事者の必要性と社会の中でのキャパシティと優先順位とで議論していくというのがこれからのあり方ではないでしょうか。

 

 また、数的な面では徐々に増えつつあるという点も忘れてはいけません。NHKの報道では、多胎児の出産割合は1989年から2017年にかけて1.5倍になっているとのことです*5

 この他、少々古いデータではあるのですが厚労省のサイトには以下のような記述がありました。どちらにせよ、不妊治療の拡大などを背景に多胎児の割合は増え続けているのです。

平成8年度厚生省心身障害研究「多胎妊娠の疫学」(今泉洋子)によると、平成7年の多胎児の出産率を昭和43年と比較すると、双子は1.3倍、三つ子は4.7倍、四つ子は26.3倍と上昇している。*6

世間の注目と支援制度の広がり

 上記のアンケート結果は幸いにして多くのマスコミに大きく取り上げられてもらえることになり、世間的なトピックとなることに成功しました(以下は記者会見の様子)。

tataiikujikishakaiken

 

 その勢いを生かして国や東京都に対してロビイングを仕掛けていき、ついには国会での質疑に取り上げられるまでになりました(切り出したのは公明党の山本かなえ議員)。

スクリーンショット (6)

 

 こうした動きを背景に、続々と多胎児家庭向けのサービス向上が施策として出てくるようになりました。国で言うと、以下のようなもの(説明会の資料より引用)。

① 多胎ピアサポート事業 
多胎育児経験者との交流会/多胎育児経験者による相談支援
② 多胎妊産婦サポーター事業
外出補助・日常の育児補助・相談支援。サポーターには多胎に関する研修を行う
③ 一時預かりの多胎児特別支援加算
多胎児を預かる場合に事業者へ加算

 また、東京都は以下のような施策を打ち出しています。

① とうきょうママパパ応援事業
・0歳児で240時間、1歳児で180時間、2歳児では120時間までベビーシッター費用を補助(2700円/h)
・タクシー移動などを想定して、1世帯あたり年2万4千円を上限に乳幼児健診、予防接種などの移動にかかる経費を補助。
② ベビーシッター利用支援事業
東京都の認定を受けた認可外のベビーシッター事業者を利用する場合の利用料の一部(1700円/h)を助成(待機児童向け制度を多胎児向けに拡充)

自治体レベルで求められていることは何か?

 これまで挙げてきたのは国や都道府県レベルでの施策の話題でした。これらのレベルで予算がついて、多くの支援事業が生まれることは望ましいことです。ただし、実際の家庭にとって肝となるのは住んでいる自治体での行政サービスがどうなるのかという点です。ポイントは2点です。

制度が導入されるとは限らない

 まずは、自治体レベルでちゃんと制度が導入されるとは限らないという点です。いかに国や都道府県のレベルで魅力的な支援策を提示されたとしても、自治体の方でそれらを利用したサービスの導入が為されない限り、それを利用することはできません。

 

 その格好の例が東京都のベビーシッター補助事業です。「0~2歳児が保育所などに入れず、待機児童になった場合などを想定し、都が補助額の8分の7、区市町村が8分の1を負担するという制度。2018年度に待機児童対策の最終手段とばかりに鳴り物入りで導入された施策ですが、想定した1500人に対して利用者はたったの8人*7。その原因は導入した自治体がごくわずかであったことが挙げられています。

 

 この報道があったのは1月で、その後にそこそこ利用人数は増えたらしいですが、一方で今年度の時点でもまだ導入していない自治体もあるようで、議員の方にお願いして制度を導入してもらうというエピソードを公開している方もおられました*8

事情は自治体によって大きく異なる

 もう1点は、必要な支援はそれぞれの自治体の様々な環境(人口、設備、立地、交通機関などなど)によって大きく異なるという点です。国レベルの政策で1700以上ある自治体にとって最適なものが作るのはまず不可能です。

 

 東京都というレベルでは可能かもと思われるかもしれないですが、小笠原諸島だって立派な東京都です(東京都小笠原村)。言うまでもなく、千代田区小笠原村では必要な支援は異なるでしょう。どういう行政サービスが求められているのかについては個々の自治体によって異なるのです。

今後のアクション、多胎世帯向けアンケートやります!

 それでは、どうすれば自治体の実情に沿った支援が行えるのか。今回の勉強会で提案されていたのは、王道ながら自治体での当事者のニーズを把握すること。

 

 今回の勉強会では、実際に双子の子育てをされている方のリアルな体験談もあり、受けたかった支援としては、産後ケアや多胎児サークルの案内などの情報提供、タクシーの利用料補助などを挙げられていました。そこで感じたのは、話を聞くと「絶対必要だろ!」と思われるようなサービスが提供されていないこと。要するに当事者の声が十分に行政に届いていないわけです。こういう声を拾い上げていくことによって、より地域のニーズに沿ったサービスの提供ができるようになります。

 

 いっちーさんはすでに八王子で既存の行政サービスについての評価アンケートを実施し、その結果を地元の政治家に渡すというアクションを行っているとのことでした。 

 このノウハウを教えていただいたので、わたしも中央区で同様のアンケートを実施してみることにしました。近日中に公開いたします。集めた結果については中央区の担当部署に加え、区議会議員の方々にお送りして実現できるようにします。

最後に

 今回は、「多胎児家庭への支援を考える議員勉強会」の概要と、そこからのアクションについて書いてきました。ちなみに勉強会としては台東区議会議員の本目さよさんから政治家として議会で多胎児支援についてどのように働きかけていくかというような話もあったのですが、議員向けの内容でしたので割愛(すいません)。

 今回取り上げた多胎児に限らず、これまでマイノリティに位置づけられる人たちは十分なサービスを受けられないというのが当たり前になっていました。このブログで延々と書き続けている待機児童も社会全体からすればマイノリティです。しかしながら、何度も言いますが少数派だから我慢せよというのはおかしな話です。行政とは、誰もが安心して日々の生活を送れることをサポートするためのものです。文中にも書きましたが、苦しいのであれば苦しいと声を上げることができる、その要望のすべては実現できないにしても当事者の必要性と社会の中でのキャパシティと優先順位とで議論していくというのがこれからの社会のあり方ではないかとわたしは考えます。

 この行政の本来の目的が果たされるよう、様々な声に耳を傾けたり、客観的なデータに基づいて分析を行ったりすることにより、区民の方々の思いが正確に行政のプロセスの中に反映されるようにしたい、というのは昨年の出馬のときに書いた思いであり、その思いは今も変わりません。本業としてガッツリ取り組めるわけではないので十分に動けないかもしれないですが、その実現に少しでも貢献できたらと考えています。

*1:詳細は以下の記事から。

三つ子次男の「虐待死」に映る多胎児家庭の辛労 | 最新の週刊東洋経済 | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準

*2:余談ながら、そもそも議員じゃないのになんで参加してんの?というと、主として勉強会を準備されていた方が同僚で、かつ会場が勤務先である認定NPO法人フローレンスだったため。さらに言うと自分は組織のシステム担当なのでWeb配信の中継の手伝いという格好な言い訳もあり、実際の業務もやりつつオブザーバー的に参加していたのでした。

*3:アンケートの結果についてはこちらの記事をご覧ください。

【11月児童虐待防止月間】#助けて多胎育児 全国多胎家庭1,591世帯の実態アンケート調査報告 壮絶な多胎育児の実態が明らかに | 認定NPO法人フローレンス | 新しいあたりまえを、すべての親子に。

*4:以下のような記述があります。ソースのファイルは以下URLから。

欠損値を含めた分析の結果では、多胎児は単胎児に比べて 1.3倍虐待死の発生頻度が高まると推定された。 これを「家庭」当たりで計算すると、多胎育児家庭は単胎育児家庭に比べて、2.5 倍虐待死の発生頻度が高まる と推定された。この相対危険は 10 代妊娠(20 歳以上妊娠に比べて、13.9 倍虐待死の発生頻度が高い)よりはか なり低いものの、低出生体重児(非低出生体重児と比べて、1.6 倍虐待死の発生頻度が高い)と比較すると、家 庭当たりでは高い値となる。 欠損値を除いた分析の結果(第 2 次から第 9 次:2004 年 1 月~2012 年 3 月)では、多胎児は単胎児に比べ て 2.2 倍虐待死の発生頻度が高まると推定された。これを「家庭」当たりで計算すると、多胎育児家庭は単胎育 児家庭に比べて、4.0 倍虐待死の発生頻度が高まると推定された。この相対危険は 10 代妊娠(20 歳以上妊娠 に比べて、22.4 倍虐待死の発生頻度が高い)よりはかなり低いものの、低出生体重児(非低出生体重児と比べ て、2.8 倍虐待死の発生頻度が高い)と比較すると、家庭当たりでは高い値となる。

https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000520465.pdf

*5:以下記事より引用。なお、調査の前提条件などを調べたものの、元となっている論文は発見できず。

増える“多胎児” 育児の現場|けさのクローズアップ|NHKニュース おはよう日本

*6:引用元はこちら。

多胎・減数手術について

*7:詳細は以下記事から。

都のシッター補助 利用わずか8人 予算50億円、1500人見込んだが… | 子育て世代がつながる | 東京すくすく ― 東京新聞

*8:詳細は以下記事から。

居住地にベビーシッター利用支援事業を導入してもらうまでの話|ムラキ|note

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