今後の中央区の子育て政策はどうなる!?子ども子育て会議に参加してきた

f:id:ninofku:20201205235356p:plain


 ほづみゆうきです。先日、中央区の子ども・子育て会議を傍聴してきました。子ども子育て会議とは、自治体における子育て関係の政策に行政や事業者、子育て当事者などが関わることのできる場です。

 

 行政の会議体というとすべてきっちりかっちりお膳立てがされてて粛々と議案が承認されていく体裁だけのシロモノという印象があるかもですが、この会議が面白いのは公募によるフツーの住民(区民委員)がいるということ。子育て中の当事者が区の行政に対して正式な会議の場で直接物申すことができるわけですね。

 

 この区民委員は2年交代で、その選考が7月頃にありました。かれこれ3年近くあれこれ中央区の子育て政策について発信し続けているので当然わたしもこれはチャンスと申し込んだのですがあえなく落選、とはいえせめて傍聴としてでも関わっていこうと思ってこのたび出席したのでした。

 

 今回は、この会議でのやり取りの中での主要なポイントを挙げて概要を紹介、その上で議論の補足やわたしの考えたことについて書いてみます。もし関心があったらぜひ参加してみてはいかがでしょうか。そんな風に思ってもらえると嬉しいです。

待機児童の数は正しいのか?

議論の概要

 まず話題にのぼったのは待機児童の数。区の発表での待機児童数は202名ですが、実際に落選通知を送っている人たち、つまり認可保育園に入ることができなかった人はもっとたくさんいるではないか、その数え方はどうなっているのかについての質問が区民委員からありました。

 会議では口頭での説明しかありませんでしたが、2020年度4月時点の数字で落選通知を受け取った人は730名もいて、こんな感じの内訳になってます。

f:id:ninofku:20201207220453p:plain
 この実際には入れていないにもかかわらず待機児童としてカウントされない数は「隠れ待機児童」などと言われています。実際はこれだけの数の人が入れていないにもかかわらず「待機児童」としては202名しか表には出てきていない、実態と乖離しているのではないか、という指摘は至極まっとうなものです

 

 区側の見解としては、この202名という数字はあくまで国の基準に則ったものであって、この数字だけを追いかけているわけではないという主張でした。

わたしの意見

「隠れ待機児童」というマジック

 「隠れ待機児童数」の実態との乖離については前々から課題になっているところです*1。わりと最近厚労省が指針を見直しはしたものの各自治体での裁量の範囲は依然としてあって、これが待機児童数を減らすマジックとして使われている雰囲気もあります

 

 そのマジック度合いをどのように評価するかについて議論はありますが、中央区は「まだマシな方」という印象です。たびたびこの待機児童数のカウントで話題になる悪名高き横浜市の場合の同様のグラフはこんな感じ。

f:id:ninofku:20201207220609p:plain



 マジックですね。3400人くらいが落選通知を受け取っているにもかかわらず、待機児童としてカウントされているのはたったの27人だけ。こうなると待機児童が激レア的存在で、どうやったらこの枠に選ばれるのかむしろ関心が湧いてくるレベル。

 

 もうひとつ実例を。毎度の待機児童数ランキングで不動の1位だったものの、2020年度についに待機児童ゼロを達成!ということで注目されていた世田谷区も同様のグラフで比較してみるとこんな感じ。実態としてはゼロではありません*2

f:id:ninofku:20201207220718p:plain


 他のひどい例からするとまだマシではあるのですが、実態と異なる数字が独り歩きするのは問題です。ただ、個々の行政側からすると馬鹿正直にリアルな数字を出すことは自分たちの首を絞めることになるので、そこに期待するのは難しいのではないかというのがわたしの考えです。この問題は、国が待機児童のカウント方法をより厳密に設定することで解消していくべきではないかと思います

保育サービスの定員確保の計画は順調か?

議論の概要

 次のトピックは今後の整備計画について。資料の中で保育園などのサービスの定員の確保量の実態が計画から大きくズレていることから、なぜズレているのか、その要因は何なのかについての質問がありました。

 

 前提の話として、「中央区の子ども・子育て支援事業計画」という5年モノの計画がありまして、そのなかで毎年の保育園や幼稚園、学童保育などの必要となる定員の見込みとその見込みに対する定員の枠(確保方策)を定められています*3

 

 今回はその2019年度の実績の報告があって、これが計画の内容と大きく乖離しているわけです。以下は資料にあった内容をわたしが作り直したものです。

f:id:ninofku:20201204063834p:plain

 2019年度時点で5,959人分の定員を確保しようとしていたところ、実際に確保できたのは5,411人分。このズレは548人、実に全体の10%近くもの大きなズレが生じているのです

 

 中央区の見解としては、「この数字は計画期間中に待機児童数をゼロにするために設定した高めの努力目標」という、身も蓋もない、無計画っぷりを露呈する凄まじい回答がありました。要するに、実現するための方策をあれこれ想定した上での数字ではないんですね。できるかどうか分からないけど、とりあえず計画期間中にゼロになるように書いておこうぜ!、くらいのかるーいノリだったわけです。おいおい。

わたしの意見 

 上記の中央区の回答のとおり、この数字は正直言って実態を踏まえた現実的な計画であるとは到底言えないものです。保育サービスの需要量(どれくらいの定員が必要になるか)と供給量(どれくらいの定員を準備できるか)、その差し引きである待機児童数の3点から計画と実績のズレについて見ていきましょう。

需要量について

 まずは需要量。どの程度保育サービスを利用したい人たちが増えるかどうか

f:id:ninofku:20201206180159p:plain

 当初の計画(青の線)実際の需要量(緑の線)と大きくズレているのはひと目で分かります(外れすぎてて、どうすればこんなにズレるのか気になるレベル)。2017年からの見直し後(赤の線)と比較すると、2017年と2018年では実績の方が多くなっているものの、2019年ではほぼ同じになっています。この時点での需要の読みは計画どおり。

供給量について

 需要の読みで分かるのは、どの程度定員が必要になるのかということだけです。問題はその次のステップで、この需要の読みに対して必要十分な定員を準備できるかどうか。そのグラフがこんな感じ。

f:id:ninofku:20201206180221p:plain



 2015年から一貫して言えるのは、当初の計画(青の線)の数字よりも実際の確保料(緑の線)が多くなっています。計画よりは頑張って定員を確保しているようです(そもそもの計画がそんな厳密なものでないの努力のほども分かりませんが)。

 一方で2017年からの見直し後(赤の線)と比較すると、実績は大きく劣っています。まさに「高めの努力目標」ですね

待機児童数について

 これまで需要と供給について見てきました。一番大事なのはこれらの差し引きで、入りたいと希望する人がちゃんと入ることができているかどうかという点です。それではこの待機児童の数についてどうなっているかというと、これも計画とは大きく異なる推移をしているというのが実態です

 

 以下のグラフは当初の計画、2017年に見直された計画、そして2020年からの5年計画での待機児童数の見込み*4と、実際の数を比較したもの。

f:id:ninofku:20201205230045p:plain

 当初計画(青の線)では2017年にはゼロ達成の予定になっていたものの、実際の数(緑の線)としては324名(過去最多)。2017年からの見直し後(赤の線)の計画ではもう少し現実的な数字を出してきましたが、これも実態と比較すると過小な見積もりになっています。

 

 それではこれらを踏まえての、今回の計画(紫の線)はどうでしょうか。見てのとおり計画の3年目、2022年にはゼロになるような計画になっています。しかし、これまでの経緯と実態、そしてこれまでの計画の数字のいい加減さを見た上で、果たしてこれを本当に実現できるのでしょうか。個人的には相当に難しいのではないかと思います。次に述べるような小規模保育の積極導入など、これまでのスタンスから抜本的に考えを変えなければ計画を実現することは不可能でしょう

なぜ小規模保育園を作らないのか?

議論の概要

 定員確保、そして待機児童の解消のための話として具体的なトピックとして上がったのが小規模保育園。小規模保育園は待機児童解消のための救世主として2015年に新たに導入されたタイプの保育園で、定員が19名以下で0-2歳の子どもを預かってもらえる、その名の通り小規模な保育園です。

 区民委員の方からは、単刀直入に「なぜ小規模保育園を作らないのか?」という質問が投げ掛けられました。というのも、小規模保育園であれば大規模な土地が不要であることから(フルサイズの保育園と比較して)土地確保の難易度が下がるであろうこと、また、他の自治体に比べて中央区は圧倒的に小規模園が少ないことからです。

 

 これに対して中央区の見解は明確で、小規模保育には後ろ向き。その理由は大きく2点。

理由1:3歳以降の行き場確保の点

 小規模園の場合だと0-2歳までしか預かることができないために、3歳児クラス以降の連携先の確保しておく必要があります。しかし、この確保が困難であるというのが1つめの理由です。既存の園には3歳以降の定員枠がない、一般には小規模園の受け皿となっているのが私立の幼稚園なのだが中央区では私立の幼稚園がそもそも1つもない、さらに、預かり保育を行っている区立幼稚園も3つしかない、などと次々とできない理由が述べられました。 

理由2:保育の質の観点

 もう一つは保育の質の確保の観点。区の方針としては、子どもの成長のためには0-5歳まで一体的に同じ場所で保育することが良いというスタンスとのこと。

 区の見解への反論

 これらの主張に対して区民委員からは、仕事を辞めたり高額な認可外施設に預けたりといった今本当に困っている人たちが目の前にいるのだから(3歳児点で困るかもしれないにしても)まずは実施するべきではないかという意見がありました。

 これに対して中央区側は「行政としては将来のことも踏まえて考える必要がある」と回答、しかしながら具体的な定員を増やすための他の策は出てこず結局何もやらないような雰囲気しかなく区民委員の方はイライラ、最後は委員長から「今回が最初の会議、双方の意見が出たのでこういった点について今後の会議ですり合わせをしていきましょう」といった仲裁?によって一旦議論は幕切れとなりました。

わたしの意見

 この小規模保育園への指摘はスタンディングオベーションしたいくらいでした(傍聴人は静かにしてないとつまみ出されかねないのでダメです)。中央区の待機児童の問題とを取り上げているたびに、ずっとそうするべきだという主張をしてきていたからです。理由は2点あります。

理由1:中央区は小規模保育の定員が圧倒的に少ない

 1つめの理由は会議での議論にも出てきたとおりですが中央区は小規模保育が多くないのです。まず、現時点で中央区にある小規模保育園は2つだけです。キャリー保育園八丁堀とキッズラボ水天宮前園。ただ、キッズラボの方は2021年4月に認可保育園へ移行予定であることから1園だけになる見込みです。

 

 他の区との比較も見てみます。以下のグラフは東京23区の保育サービス定員における「地域型保育事業」の割合。小規模保育園はこの分類の一つに過ぎないのですが、おそらく政府の出しているデータではまとまってしか出てないので取り急ぎ。

f:id:ninofku:20201204233322p:plain
 こうやって見ると、中央区が小規模保育園を含む「地域型保育事業」が非常に少ないことがよく分かります。23区平均は3.32%に対して1.21%。なかにはもっと低い自治体もありますが、全体で見ると低い部類に入ります。

理由2:待機児童の大半は小規模保育園がカバーする0-2歳

 次に、中央区の待機児童の大半は0-2歳です。したがって、この0-2歳の定員枠を増やすことが中央区での待機児童解消のための重要なカギなのです。この点でも0-2歳をターゲットとする小規模保育が求められていることは分かるでしょう。

f:id:ninofku:20201204234434p:plain

3歳以降の受け皿はどうするか

 小規模保育を導入しようとする際、懸念事項として挙げられるのは中央区からも指摘されているとおり連携園の確保です。この行き先としては他の保育園か幼稚園のいずれか。これらの定員は確保できるのでしょうか。

 

 まず、保育園について3歳児クラス以降のクラスの定員に空きがないというのは誤りです。十分かどうかという議論はあるにせよ、3歳以降の定員は常に空いています。これは中央区のWebサイトの空き状況の合計数を月ごとに見たグラフ。0-2歳ではほぼ空きがないのに対して、3歳以上になるとほぼ常に50人以上の空きがあることが分かります。

f:id:ninofku:20201205002415p:plain

3歳児以降の受け皿確保への疑念と光明

 幼稚園の方はどうでしょうか。私立幼稚園はないにしても、区立幼稚園での預かり保育の拡充という形で受け皿となることは可能でしょうか。今回の会議でのやり取りを聞いた感触としては、十分に可能性がありそうでした。

 まず、預かり保育の拡充について、区立区立幼稚園の担当の方から「ニーズがないわけではないものの、諸々の調整が必要なので現時点でその予定はない」といったような回答がありました。

 これはあくまで既存の利用者からの「ニーズ」の話で、小規模保育導入にあたってのニーズ増加の話ではありません。このやり取りのズレから透けて見えたのは、中央区は真剣に小規模保育園の導入を検討してないんだなという点。小規模保育園を卒園した3歳児たちの受け入れ先は既存の保育園か区立幼稚園しかありません。であれば、幼稚園の側でどの程度まで受け入れ可能なのかというシミュレーションがあった上で小規模保育の導入の可否の議論があるはずです。しかし、今回の会議での受け答えでは過去にそのような議論があったようには到底思われなかったためです。

 これは推測ですが、保育園の担当部署としては小規模保育園は検討に足る選択肢ではないと鼻から決めつけており、幼稚園の担当部署との協議をやったようには思われませんでした。

  

 中央区の待機児童を劇的に解消できる可能性のある選択肢が検討されていなかった(であろう)ことはとても残念ではあるものの、一方でこれは一つの光明のようにも思えました。これまで検討していなかったということは、検討する余地はあるためです。今回の議論をきっかけにして区立幼稚園を含め3歳児以降の受け皿をどの程度用意できるのかという検証が行われ、その枠に無理のない範囲で小規模保育事業を導入していくということができればと考えています。

最後に

 今回は中央区の子ども・子育て会議での議論のやり取りと、そこから考えたことについて整理してきました。振り返ってみると、会議中に議論が起こったのは待機児童の話ばかりでした。この会議としてはもちろん子育て政策の全般について議論する場なのでたとえば延長保育や病児保育、もう少し上の年代の学童保育、さらにはもっと上の年代までカバーするものではあるのですが、やはり最も課題意識が強いのはこの問題なのでしょう。何と言っても中央区は東京都23区の中で保育園に最も入りにくい区であり、全国でもトップクラスなわけです。

 

 正直言って具体策に乏しい区の対応には失望しました。区民委員の皆さんも同じような思いなのではないかと推察します。ただ、後半に書いたように小規模保育についてこれまでほぼ未検討の状態であるというのは一つの光だと思っています。これはもちろんひとつの手段ですから、これに限らず中央区の待機児童問題をどうやれば解決することができるのかについては引き続き考えていきたいです。

 

 また、今回の会議を機会に何かしらアクションを起こすためのイベントなり会議体なりを住民の側から立ち上げることもアイディアとして考えています。自治体任せにしていてはこの問題の解消は困難で、住民の側から盛り上げていく必要があると感じたためです。モデルとして考えているのは、世田谷区の「区民版子ども・子育て会議」や杉並区の「保育園ふやし隊@杉並」、中野区の「子育て環境向上委員会@中野」など。この問題にご関心があれば、ぜひお声掛けください。ともにこの問題を解消して、子育てにやさしい中央区を作っていきましょう!!  

*1:そのカラクリと妥当性については以下の記事で過去に書きました。

ninofku.hatenablog.com

*2:余談ながら、世田谷区の各カテゴリの内訳を見ると2020年の「育児休業中」数が2019年までと比較して極端に増えていることが分かります。いわゆる落選狙いの申込者がいるという報道もありますが、2019年の数字で190人程度で、これまでの待機児童全員が落選狙いというわけではありません。何かまっとうな理由があるのかもしれませんが、数字上のゼロを実現するための「工作」とも取られかねないものです。

f:id:ninofku:20201205225301p:plain

*3:計画の実物はこちら。章ごとにちまちま分割されているので見づらいです。

中央区子ども・子育て支援事業計画 中央区ホームページ

*4:厳密に言うと、「保育の量の見込みと確保方策」での量の見込みと確保方策を比較してマイナスの箇所を合計したもの。区の資料だとたとえば0,1,2歳で確保量がマイナスになっている場合も、3,4,5歳で確保量がプラスの場合にはその差し引きの数字を表示しています。しかし、3-5歳の定員が空いているからといって0-2歳がその枠にそのまま入ることができるわけではないことからこのような計算をしています。

Copyright © 2016-2018 東京の中央区で、子育てしながら行政について行政について考える行政について考えるブログ All rights reserved.