「保育の無償化」に関する議論の現実的な落としどころはどこなのか?

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 おはようございます、ほづみゆうきです。ここのところ、保育の無償化をどのように実現するべきかという議論が盛り上がっています。発端は、保育の無償化に関して「認可外保育施設の一部を対象としない」という制度設計を検討していることが分かったことから。

 この記事に端を発し、様々な方面から今後の無償化のあり方について意見が出てきています。今回はこちらの問題についての整理と、わたしの考えについて書いてみたいと思います。

保育の無償化に関する議論について

今回の議論の経緯

 今回の議論が巻き起こったのは、自民党が元々公約として掲げていた内容を縮小してしまっているためです。元々の自民党の公約としては、以下のような記述がありました(強調、下線は引用者)。

  • ・幼児教育無償化を一気に加速します。2020年度までに、3歳から5歳までのすべての子供たちの幼稚園・保育園の費用を無償化します0歳から2歳児についても、所得の低い世帯に対して無償化します

 この記述を見る限り「認可外は対象外とする」といった制約を書いているわけではありません。にもかかわらず、実際に検討の段階でこのような話が湧いてきたので多くの批判が噴出しているというのが現状です。

保育の無償化の問題点

 今回の対応の問題点については多くの方が指摘されていますが、おそらくもっともシェアされているであろうフローレンスの駒崎弘樹さんのものを取り上げます。

news.yahoo.co.jp

 

 駒崎氏が問題点として挙げているのは以下の点です(結構意訳していますので、正確には上記の記事をご覧ください)。

1) 認可外保育園の位置付け

 認可外保育園を利用している家庭の大半は(小中高での私立志願のように)率先して選択しているわけではない。あくまで認可保育園に入れなかったから仕方なく選択している。したがって、結果として認可外を選択していることを挙げて無償化の対象外とするのは誤り。

2) 認可と認可外での費用負担格差の広がり

 現時点においても認可保育園は公的な補助が入っているので認可外と比較すると安価。この状況において、認可保育園だけを無償化するということは認可と認可外での費用負担の格差をさらに広げてしまうことになる。

3) 保育事業への参入インセンティブの低下

 「2)」に挙げた費用負担格差の広がりにより、認可保育園以外の保育サービスは相対的に高価なものになってしまうことから、民間企業の保育事業への参入インセンティブが低下する。

4) 所得格差の拡大

 認可外保育園が対象外となる一方で、認可保育園を利用している高所得者層の家庭の費用までもが無償化の対象となっている。認可保育園の保育料は現時点で所得に連動しているため、所得が高いほど無償化のメリットは大きくなる。結果として、無償化は所得格差の拡大させることになる。

 

 これらの点により現状以上に認可保育園に人気が集中することになり、記事のタイトルのとおり現状よりも激しい保活地獄となってしまうことを駒崎氏は主張されています。 そして、その上で以下の提案を為されています。

・3歳から5歳の全面無償化を低所得者層に絞ること

・認可に申し込んで結果的に認可外保育園に入った家庭には差額保育料を補助すること

・全面無償化撤回で得られた財源を待機児童対策に充てること

 

 現状の展開

 最近では、署名活動なども始まっています。「希望するみんなが保育園に入れる社会をめざす会」さんがchange.orgで行っているもので、本日時点でもうすぐ1万人を越えそうな勢いです。わたしも今回初めて登録してみました。

www.change.org


 このように各方面から意見が噴出したことから、政府も方針を改めるような報道が出てきました。昨日の報道です。

www.asahi.com

 記事タイトルにあるとおり、「認可外保育園も一部対象」ということになるようです。その選別の方法は「補助金額に上限を設けたり、対象施設を絞ったりすることも検討」ということで、まだ具体的に決定したわけではないようですが。

保育の無償化はどのようにあるべきか? 

 まずは認可外を完全に対象外とする当初の案が一旦ストップしたことは良いことだと思います。次の議論としては、どのような形での補助が行われるかという点です。ポイントは3点あると考えています。

1. 所得制限を設けるか

2. 無償化とするか、一定額を上限として補助するか

3. 対象を全ての認可外に広げるか、一部のみに留めるか 

1. 所得制限を設けるか

 まずは所得制限についてです。これを設けない理屈はおそらくないでしょう。財源が全ての保育園を対象とすることができるほど潤沢なのであれば別ですが、一部の保育園を対象外にしなければならないという状況であれば、所得制限を設けて低所得者層に対して広く補助を行うというのは当然です。

 また、認可保育園の保育料は所得に応じて支払う形式となっていますので、所得制限なしに無償化してしまうと高所得者層ほど無償化の恩恵を受けることになります。恩恵を受けるということはそれだけの税金が費やされるということであり、財源が一定であればその皺寄せは低所得者層に行くことになります。したがって、この意味でも所得制限は設けるべきでしょう。

2. 無償化とするか、一定額を上限として補助するか 

 次に、保育料を無償化とするのか、一定額を上限として補助を行うかです。認可外保育園は個々の保育園で保育料を設定しており、認可保育園のように一定ではありません。また、保育サービスの内容も認可保育園と必ずしも同じではありません。となると、国が補助するということになればどこまでを無償の対象とするのかという議論が出てくるでしょう。

 似たような話では小池都知事が掲げた東京都での私立高校の無償化の話があります。私立高校も認可外保育園と同様にそれぞれに授業料が異なっており、この場合には都内の私立高校の平均授業料である「44万2000円」を上限として支給され、これを超えた額は自己負担という扱いです。

mainichi.jp

 この仕組みは大阪の私立高校無償化でも同様です。大阪の場合には年額58万円という「標準授業料」というものが設定されていて、これを上回る部分は自己負担となっています(所得制限によって若干異なるのですがこの辺りは省略)。

大阪府/平成28年度以降に入学する皆さんへの授業料支援制度について

 認可も認可外も一律に現状のままでの無償化を目指そうとすると、単純に費やす税金が途方もなく増えることになります。また、この場合は現状の認可外のサービスの内容や料金設定も認可保育園の基準と合わせるという圧力がかかってくるでしょう。これらは個々の保育園の独自性やサービスの多様性を守る観点ではあまり望ましいことではありません。1点目の所得制限を設定した上で、何かしらの基準を設けて一定額を上限として補助、それを上回る部分は自己負担という形式が現実的なところかと思います

 一律に無償化を行う場合、利用者のモラルハザードが生じうる点も無視できません。保育サービスはあくまで就業等の理由で保育が行えない人向けのサービスという位置付けですが、無償化となった場合には「預けないとむしろ損」という考えから特段の必要性がなくても預けるということを助長しかねません。こうなると保育に必要となる予算は際限なく増え続けることになり、制度全体が破綻することにもなり得ます。この点からも、わたしは無償化ではなく(所得の多寡には十分考慮しつつ)応分の負担を個々の家庭に求めるべきと思います。

3. 対象を全ての認可外に広げるか、一部のみに留めるか

 そして最後に、無償化の対象とする保育園の範囲をどうするかという点です。全ての認可外を対象とすることが望ましいのは当然ですが、言うまでもなくその場合には費やす税金も膨大となります。

 他方、一部を対象とする場合にはその合理的な理屈を組み立てるのにそれなりの時間を要すると思われます。東京都独自の制度である「認証保育園」は国の基準では「認可外」で、ここで線引きをするという考えはありますが、今の世論の盛り上がり方を見ると理解は得ることは難しいでしょう。あくまで東京都独自の制度であり他の自治体には適用できないこと、また、認証保育園はすでに区で独自に補助制度を設けているものがあり費用負担はそれほど大きくないことなどが理由として挙げられます。

 たとえば中央区では認可保育園との差額分を区が補助金として支給しており、認可保育園の保育料+1万円程度で認証保育園を利用できるようになっています。

平成29年度認証保育所保育料の補助 中央区ホームページ

 しかし、認可外についてはこれらの補助は存在せず、非常に高額の保育料がかかってしまいます。認可外の場合には各園での料金設定になっていますので一概には言えませんが、おおよそ月額10万前後です。過去に調べたわたしが中央区の認可外保育園に関する情報を調べたリストのリンクを貼り付けておきます。

東京中央区の保育園情報(無認可)Googleスプレッドシートが開きます)

 

 これらを考慮すると、一部の認可外保育園のみを対象とするという方針はなかなか困難で、上記に挙げた所得制限の追加や補助の額の見直しによって支給の対象と金額は減らしつつ、補助対象とする保育園は制限を設けず全体に広げるというのが望ましいのではないかとわたしは考えます。

最後に

 わたしが最後に提案した方向性は、言うまでもなく無償化ではありません。認可外保育園は一般的に認可保育園よりも保育料が高いので、今より安くはなっても無償にはなりません。また、高所得者層は対象とならないので何の恩恵を受けることもありません。しかしながら、限られた財源の中でできる限り多くの家庭ができる限り不幸にならないやり方というのはこれではないでしょうか。政府には元々掲げた「無償化」というキーワードに固執することなく、現実的にベターな選択肢を採用することを期待します。

 一方で、国民の側も与党批判ありきではなく妥当な選択肢であれば受け入れるという姿勢も必要でしょう。というのも、政府の当初案は限られた財源の中で形ばかりの「無償化」を実現しようとした苦肉の策であろうからです。

 なお、あわせて議論されている待機児童対策については、また改めて書こうと思います。

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