中央区は、ついに東京23区でもっとも認可保育園に入りにくい区に。その今後と対策について考えてみました。
おはようございます。ほづみゆうきです。先日、東京都で待機児童に関する報道発表がありました。東京都は例年7月末に4月時点での保育サービスの利用者数や待機児童数を公表しています。この中で、けっこうショッキングなニュースがありました。それはついに中央区が東京23区で「もっとも認可保育園に入りにくい区」になってしまったということです。
取り急ぎはこんなツイートをしてました。
【悲報】中央区が東京23区で最も認可保育園に入りにくい区に。
— ほづみゆうき@中央区から待機児童をなくすために活動中 (@ninofku) July 29, 2019
東京都から2019.4での #待機児童 数の発表。 #中央区 は単純な数ではワースト2だが、ワースト1の世田谷区は人口多いので比率では最下位。過去6年の調査で初。他区が改善する一方で、需要に供給が追いついてませんhttps://t.co/XycMuL7WQw pic.twitter.com/g183n3HFjF
しかし、もう少し詳細に書いておこうと思いますので、今回は東京都の現状を踏まえた上で中央区の現状について紹介し、今後のあるべき姿、これから子育てしようとしている人たちへのアドバイスについて書いていきます。
東京都での待機児童の状況
全体としては大きく減少している!
まずは東京都全体の状況を簡単に整理します。数年前と比較すると「待機児童」という問題は随分と認知度も上がってきており、各自治体で解消のための努力が行われています。東京都の発表を見ても、全体としては大きく減少しており、特に2017年を境に大きく減少していっていることが分かります。
その引き金になったと思われるのは「保育園落ちた日本死ね」の匿名ブログから始まるこの待機児童問題への社会の関心ではないかと思います*1。
このブログの投稿があったのは2016年2月。つまり、この時点あたりから「待機児童」という問題に対して世論の関心が大きく集まったことにより対策が加速して、その成果が2017年から出てきたことで待機児童数が大きく減少してきていると考えられるのです。
自治体によって取り組みへの真剣度は様々
これは東京都全体の数字ですので、各自治体の推移は様々です。良い例としては千代田区、港区、杉並区、豊島区が挙げられます。例外的に2019年度になって数人の待機児童が出ているもののほぼゼロの千代田区は別格*2として、その他の区は2013年時点では200人近くの待機児童が存在していました。にもかかわらず、この6年ほどでこれらの区は待機児童ゼロを成し遂げています。自治体が真剣に問題に取り組めば、待機児童ゼロは決して不可能なことではないのです。
中央区の現状
ほとんど待機児童が減らない中央区
全体としては大きく減少傾向にある東京都ですが、その中の数少ない悪い例として挙げられるのが中央区です。驚くほど安定して待機児童数が減っておらず、最新の数字でも197名。
23区平均のデータと比較したのがこちらのグラフ。全体の傾向としては直近の3年で大きく減少させているにもかかわらず、中央区は減少の幅は小さく、2019年に至ってはむしろ増えているという状況がわかります。
その結果として、待機児童数は東京都23区の中で2位(昨年は7位なので大きく順位を下げてます)。ちなみに、1位は東京都の中で待機児童が問題として挙げられる場合にいつも名指しされる世田谷区。
実は、世田谷区よりも保育園に入りにくい中央区
2位ということでも相当酷いのですが、実際には中央区の現状は世田谷区よりも酷いのです。なぜならば、単純に圧倒的に子どもの数は世田谷区の方が多いためです。以下のグラフのとおり、世田谷区の子どもの数は中央区の4倍以上もいるのです。
したがって、保育園などの保育サービスの利用を希望する人たちの中で待機児童になっている人の割合を見てみると、2016年から2017年に逆転され、直近3年の推移では中央区の方が利用できていない人の割合が多い(保育園に入りにくい)状況となっています。
世田谷区よりも酷いということで、これは東京23区でもっとも酷い状況です。わたしが毎年発表している東京23区での保育園に入りやすさのランキングにおいて中央区は年々順位が下がり続けて、2019年4月、つまり最新の結果ではついに最下位になりました*3。
なぜ中央区の待機児童は減らないのか?
子どもの数がメチャクチャ増えている
当然ここから湧き出てくる疑問は、なぜ中央区はこんなことになってしまっているのかという点です。1点には「子どもの数がメチャクチャ増えている」ことです。次のグラフは就学前児童数、つまり小学校前の子どもの数の推移を2013年時点の数を100として比較したものです。一見して分かるように、千代田区と中央区のみ極端な伸びを示しています。2013年時点から6年の間に、中央区の子どもの数(赤の太線)は約1.5倍(7,320人 → 10,853人)にもなっているのです(ちなみに千代田区はそれ以上に増えている)。
子どもの数が増えればその分だけ保育園を利用したい人も増えます。したがって、それだけの保育サービスを提供できなければ、これらの人は待機児童になってしまうのです。
保育サービスは増えているが需要は満たせておらず
一応弁護しておくと、中央区も一切何もやっていないわけではありません。2013年の数字から比較すると、年々保育園などの定員を増やしてはいるのです。その結果、他の自治体と同様に利用児童数、つまり保育園などの保育サービスを利用している子どもの数は順調に増えています。この伸びは、千代田区、港区に次ぐ3位につけているのです。
とはいえ、急拡大する需要をカバーするだけの数だけ増やすことができていないというのが現状で、その結果がこれまで紹介してきた待機児童の数に表れています。上記の2つのグラフを見ると分かるように、2019年に待機児童ゼロを成し遂げた港区は、中央区ほど子どもの数が増えていないにもかかわらず、保育サービスの数は中央区以上に増やしています。待機児童を解消するためには、港区のように子どもの数の上昇以上にサービスの供給量を増やしていく必要があります。
たとえば子どもの数がここ数年で急激に伸びたという話であれば、まだ理解できます。しかしながら、これまでのグラフで明らかであるように、この傾向は6年前から何も変わっていません。子どもの数は年々増え続けています。それにもかかわらず、いつまで経っても需要をカバーできるだけの対策をしようとしない中央区は待機児童対策に対して真剣に取り組んでいないと言わざるを得ない状況とわたしは考えます。
中央区はどのようなことをやるべきか?
それでは、どうすればこの問題を解決することができるのでしょうか。過去の記事に書いたことの再掲ですが、わたしの考える点は2つです。
① 保育サービスの必要量を把握する
まずは、正しく保育サービスの必要量を把握することです。つまり、どの程度の家庭が保育園を利用したいのかについて正確に把握するということです。現在も中央区では利用希望を推計して、その結果を受けて保育サービスを整備しているのですが、現状のとおり待機児童を解消するには至っていません。
この大きな理由は需要を過小に見積もっている点です。このグラフは、中央区の計画上での1〜2歳児の保育サービスの需要と実際の需要を比較したものです。
また、長期的な展望も不可欠です。日本全体で言えば少子化の影響で保育園の需要はあと数年で減るようになると言われていますが、都心部においては保育サービスのニーズは今後も増え続けます。わたしの推計では、中央区の保育ニーズは2020年時点から2040年までに68%も増加する見込みです*4。
2040年となると今から21年後ですので、今の子どもたちが家庭を築き始める時期かもしれません。想像してみてください、20年後にも「待機児童」という言葉が残り続け、あなたの子どもたちが産後間もない時期に「保活」というくだらない競争に駆り立てられることを。
したがって、眼の前のあと数年をどうやって乗り切るか、という考え方ではなく、今後20年は少なくとも続いていく問題という認識を持った上で、対策を行っていく必要があるのです。
② 必要とされる保育サービスを十分に供給する
正しく保育サービスの必要量が把握できたら、次はその必要量だけ保育園などのサービスを供給していくことです。現状は多くの待機児童を出しているとおり、不十分です。
様々な解決策が考えられますが、一つのアイディアは小規模保育事業を充実させることです。他の自治体と比較して中央区で特徴的なのは「小規模保育事業」の定員が少ない点です。小規模保育事業とは、0-3歳未満児を対象とした、定員が6人以上19人以下の少人数で行う保育です。
保育サービス全体の定員に占める小規模保育事業の割合を見ると、中央区では1%程度。他の自治体からすると低い水準です。
中央区における待機児童の年齢別での内訳は以下のとおりで、0歳児から2歳児までが大半を占めています。つまり、中央区が小規模保育事業を積極的に導入すれば、待機児童の問題は大きく改善する可能性があるのです。
中央区で子育てをしようとしている人へのアドバイス
上に書いたような対策は根本的な対処方法ではありますが、それだけにすぐに実現できるようなものではありません。しかも、これまで自主的に前向きな対策ができてこなかった区なのですから、さらにハードルは高いでしょう(2019年4月に新しい区長に変わったのだから、ぜひ変わることを期待したいものですが)。そんな中で中央区で子育てをしようとされている方にいくつかアドバイスがあります。
1. 入れるかどうかを調べてみる
まずは、ご自身の状況を整理してみて、認可保育園に入れるかどうかを調べてみましょう。入園にあたって考慮される点数(利用調整指数)は、区が公開している「保育園のごあんない」という冊子を見れば簡単に計算することが可能です*5。
23区でもっとも入りにくい区であるとはいえ、まったく入れないわけではありません。子どもの年齢や空きの状況によっては、すんなり入ることができる場合もあります。過去の記事でおおよその当落ラインがどうなっているかについて記事にしていますので、良かったら眺めてみてください。
2. 認証、認可外の保育園を検討する
次に、認証、認可外を検討することです。点数が当落ラインギリギリもしくはその下の場合には認可保育園はあきらめて、できる限り早い段階で認証保育園、認可外保育園を目指すこと一つの現実的な選択肢ではないかと考えます。
認証保育園と認可外保育園は、それぞれの保育園に対して申込手続きを行います。これらの入園のための条件は明示されていないようですが、いくつかの情報を見る限りは早いもの勝ちであるところが多いようです。通常であれば認可保育園の結果を受けてから認証もしくは認可外に申し込むというのが一般的であるかと思いますが、当然そうなると他の落選者とともにまた競争しなければならないことになります。望みが薄いのであればこの競争に巻き込まれる前に認証保育園に目標をシフトして、他の落選者よりも早めに個別の認証、認可外保育園に申し込んだ方が望ましいかもしれません。
なお、中央区では認証保育園の利用者には一部補助が出て、だいたい認可保育園の保育料+1万円くらいで利用することができます。
3. 引っ越す
極端な話、認可保育園を希望していて、当落ラインギリギリということであれば、別の区に移るというのも一つの選択肢ではないかと思います。何となく自分は大丈夫だろうだとか、他の自治体も同じような状況だろうと考えるのは危険です(わたしは悠長にこんなことを考えていて、第1子のときに地獄を見ました*6)。これまで見てきたとおり、少なくとも待機児童という点については東京23区の中でもっと積極的に取り組んでいる区が多くあります。リスクを避けるのであれば、他に引っ越すというのも有効な選択肢です。
最後に
この記事を書いている途中にたまたま見た記事で、「本当に魅力ある市区町村ランキング」というものがありました。その中で中央区は東京都の中で1位、全国でも1位という結果でした*7。
講評には以下のようなことが書いてありました。
中央区は生活基盤、教育の分野で全国のトップ3に入り、コミュニティ、住民・福祉の分野でも上位となっている。さらに、女性の活躍の分野も高い評価となっている。
今回紹介してきたような状況にもかかわらず「福祉の分野でも上位」「女性の活躍の分野も高い」というのはどういうことかと複雑な気持ちではありましたが、とはいえ中央区が極めて魅力的な街であるという点についてはまったく同意です。東京のど真ん中であり、たいていの職場との物理的な距離は短く、路線も山ほどあるのでいざというときにはすぐに子どもを迎えに行くことができますし、通勤のストレスもありません。銀座や日本橋のような商業地域もあれば、浜離宮や隅田川沿いのテラスなど、落ち着いて子どもを遊ばせるようなスペースも多々あります。これらの環境は特に仕事と家庭をどちらも充実させたいファミリー層にとって素晴らしい場所です。であればこそ、今回取り上げた待機児童のような問題を早く解消して、そのような層が今以上に集まってくれるような場所になるべきではないかと考えます。
*1:話題となったブログはこちら。
保育園落ちた日本死ね!!! https://anond.hatelabo.jp/20160215171759
*2:千代田区はカウント方法が特殊であるという指摘もありますので鵜呑みにはできません。
*3:ざっくり言うと、保育サービスを利用したい人がどの程度利用できているかを割合で示したものです。ランキングの詳細についてはこちらの記事をご覧ください。 要するに、中央区はもっとも認可保育園に入りにくい区だということです。
*4:国立社会保障・人口問題研究所の人口推計、日本総研の推計による今後の女性の就業率のデータを用いた推計
*5:資料はこちらからPDFをダウンロードすることができます。この他、区役所の窓口に行けばもらえるはずです。
*6:詳細についてはこちらの記事をご覧ください。
*7:こちらの記事です。