オープンデータ官民ラウンドテーブルに、全国の保育園・幼稚園などのデータを要望してみました。
ブログでは大変ご無沙汰しております、ほづみゆうきです。保活のイベントやったり、男性産休義務化の講演やったりと色々と活動はやってるのですが、SNSだったりブログへの発信というところまで行き着いておらず、良くないなと反省しているところです。これらの活動で仕入れたネタは多々ある状況なので、順次放出していきたいと思っているところです。
久々に書く題材として取り上げるのは、オープンデータに関する記事です。オープンデータとは、ざっくり言うと国や行政の持つデータで誰でも許可なしに利用できるようにしたもののことを指します*1。本ブログは今となっては大半が保育園などの子育て関係の記事が占めるようになっていますが、当初はそこまでの配分にするつもりはなく、オープンデータのような「新しい行政のあり方とは何か」みたいなところについても書いていきたいと思っていました。そして、この視点は今年の4月に中央区の区議会議員選挙に出馬したときにも強く訴えていたところです。とはいえ、なかなか世間的な関心がそもそも低く、かつそのような低い関心を引きつけるような記事を書けてもおらずという状況でした。今回はこれまで幾度となく取り組んできた保育園などの子育ての問題に関連したオープンデータの話題ということで、心機一転改めて投稿してみようと思ったのでした。
ということで、今回はわたしが出してみたオープンデータ官民ラウンドテーブルの提出した内容とその経緯、背景などについて書いてみたいと思います。
- 結局、何をやったの?
- 提出に至る発端
- なぜ、このデータが必要?
- 保活に必要な情報はどこにある? 中央区の場合
- この保活という苦行に対して、今までやられてきたこと
- オープンデータ化のメリットと懸念点
- 最後に
結局、何をやったの?
まずは結論からですが、今回何をやったのかについて。
「オープンデータ官民ラウンドテーブル」という政府の会議の開示要望の募集に提案を投げてみました。「オープンデータ官民ラウンドテーブル」というのは内閣官房に設置されている会議の名前。国や自治体の資料を見ていて「グラフの元データ使って分析してみたいけど公開されてない!」とか「データはあるけどPDFかよ!」なんてものが山ほどあるわけですが、そんなイケてない行政のデータを公開しちゃおうぜ!という会議体です。
公開を要求したのは、全国の認定こども園、幼稚園及び保育所等の施設に係る開所時間、利用定員、面積、従業者等のデータ。要するに、保育園とかこども園とかの保育施設全般に係る情報をオープンに見えるようにしてほしい!という要望です。具体的にはこんな感じで書きました。思いついたもの全部って感じです。
保護者がこれらの施設を選択する際に必要となる、全国の認定こども園、幼稚園及び保育所(認可、認可外(認証や企業主導型を含む)すべて)等施設に係るデータ。
具体的には、推奨データセット「子育て施設一覧」をベースとしつつ、さらに以下のような情報
・設置者
・運営者
・メールアドレス(問い合わせフォームURLでも可)
・歳児クラス別の定員と定員の空き状況(月次単位)
・各クラスや遊戯室などの部屋ごとの面積
・役割のカテゴリごとの人数(保育士や調理師、用務員、看護師など)
・財務情報
・福祉サービス第三者評価の実施状況(年度ごと)と実施結果
・行政の立ち入り検査または文書による確認結果(都道府県、市区町村による結果ともに)
・事故報告件数・内容 など
提出に至る発端
発端は、Twitter上で「子育てなどのオープンデータの要望の募集をやってるよ」と友人から声掛けいただいたところからでした。わたしが行政のオープンデータについて関心があることをご存知で、教えていただいたのでした(大変ありがたいことです)。
前職で関わりがあったこともありオープンデータ官民ラウンドテーブルの存在自体は知っていたものの、オープンデータの議論自体が世間的な関心が正直低いので話題にもなっておらず、スルーするところでした。今回は幸いにして声掛けいただき、しかも内容が関心の高い子育てを含む分野であったことから、ぜひ何かしら出してみようと思ったわけです。
なぜ、このデータが必要?
保活の苦労の大きな要素である「情報収集」
保育園などの施設のデータを公開すべきと考える理由は、いわゆる保活(子どもを認可保育園等に入れるために保護者が行う活動)の大変さの一つの大きな要素として、これらの情報収集にかかる手間と労力があると考えるためです。
これはわたしの感覚だけではなく、厚労省が実施した「『保活』の実態に関する調査」を見ても明らかです*2。以下はその抜粋で保活にあたってどういった点が苦労や負担だったかについての設問です。
上位を占めるのは「市役所などを何度も訪問」と「情報収集」。市役所を何度も訪問するのも、必要な情報が存在しない、存在するかどうかも分からないために担当窓口に聞きに行かざるを得ないケースがあることを踏まえると結局は情報収集に関する問題です。
「情報収集」をさらに大変にする情報の散らばり
保育園なり幼稚園なりに我が子を預けようという親は最適な施設を選択するために様々な情報を集めようとするわけです。たとえば、ざっと思い当たるところでも以下のようなものが挙げられるでしょう。
① 所在地はどのあたりか?
② 定員や空きの状況はどうなっているか?
③ 保育士や調理師などのスタッフはどれくらいいるのか?
④ 教室や園庭、遊戯室などの面積や設備は十分か?
⑤ 運営体制に問題はないか?
⑥ 過去に死亡事故など重大な事故を起こしていないか?
⑦ 利用者の感想、口コミ
しかし、これらの情報を収集するのはメチャクチャ大変です。自治体のWebサイトに大抵はあるにしてもあっちこっちに分散しており、中にはないものもあったりします。自治体のサイト上にないとなるとGoogleなどの検索エンジンを使ってWeb上で延々と拾い集める作業をせざるを得なくなります。ご存知のとおりWeb上の情報は玉石混交ですから必ずしも信用できるわけでもありません。情報があったとしても、今度はそのひとつひとつが正しいか間違っているのかを判断をする必要があります。
保活に必要な情報はどこにある? 中央区の場合
上記に挙げたようなデータを具体的に調べてみるとどうなるかを、わたしが住んでいる中央区でシミュレーションしてみましょう。
基礎的な情報
まず、①、②、③、④のような基礎的な情報は中央区ではひとまとまりになってPDFとして公開されています(以下はサンプル)*3。
定員の空き状況
③のうち、クラスごとの定員空き状況はこちらではなくて別のページにあります*4。相互にリンクがあるわけではありません。
運営体制に関する情報
⑤の運営体制に関する資料としては「第三者評価」というものがあるのですが、これはまた別のサイトに行く必要があります。公益財団法人東京都福祉保険財団が運営する「福ナビ とうきょう福祉ナビゲーション」というサイトです*5。もちろん、相互リンクがあるわけではありません。
重大事故に関する情報
⑥のような重大事故は、大切なわが子を預ける立場からすると何よりも把握しておきたい情報でしょう。中央区で言うと直近10年でわたしが確認した範囲では4件の死亡事故(保育ママ3件、認可外施設1件)が起きています。
事故が起こっているのであれば、それがどこで起きたのかを知りたいのは自然な感覚ですが、区のWebサイトでは見つけることができません。今回改めて検索をかけてみましたが見つかったのは直近に起こった事故のプレスリリースくらい*6で、具体的な氏名・施設名はもちろんのこと、事後検証の結果についても見つけることはできませんでした。
ちなみに「中央区 保育園 死亡事故」でGoogle検索しても、具体名はなかなか見つかりません。数ページ後ろに行くと、事故のあった認可外保育施設の名称は出てきます。とはいえ、多くの方は気になっているであろうことは「中央区 保育園 死亡 どこ」などの関連キーワードからは読み取れます。
利用者の感想、口コミ
感想や口コミの類いは言うまでもなく自治体Webサイトにはありません。となるとFacebookやTwitterなどのSNS、最近増えてきている地域SNS(PIAZZA、マチマチなど)でひたすら自治体や園の名前を検索して彷徨うくらいしか手段はありません。
やっぱり苦痛な情報収集
このように、そもそも存在しない情報は一部あるものの、探せばそれなりに情報は出てきます。しかしながら、問題はこれらの情報がバラバラに存在していてそれぞれの情報がリンクしているわけではないことです。したがって、たとえば「XXXX保育園」が良さそう!と思っても、「XXXX保育園」に関する情報をそれぞれに探し回らなければならないというのが現状です。また、特に都市圏であれば待機児童の問題が深刻ですから第一希望の園に行けるとは限らず10以上希望を書くというのもザラです。検討対象の園が10個あれば、その分だけ情報収集の対象は増えることになります。こんな作業が苦痛でなくて何なのでしょう。
さらに言うと、これまた待機児童に起因する問題なのですが、1歳児で預けるよりも0歳児で入園希望する方が相対的に入りやすいことから0歳児での入園が増える傾向にあります。この場合、保活を行うタイミングは出産直前だったり子どもが生後間もない時期にならざるを得ません。この大変な時期にこれらの情報収集を行わなければならないことが、この苦行にさらに拍車をかけているのです。
この保活という苦行に対して、今までやられてきたこと
過去のいくつかの事例
このような問題は今に始まったものではありません。当然前々からありました。そして、この不毛な作業を少しでも便利にするために一部の有志の方が散らばった情報を整理しようという取り組みがなかったわけではありません。たとえば保育園の位置情報と基礎的な情報を分かりやすく示すものとして、保育園マップを作るという動きがいくつかありました。たとえば、以下のようなものです。
東京23区保育園マップ ~自宅から通える範囲の保育園を探せる!~ https://23kids.tokyo/
Tokyo保育園マップβ版 by Code for Tokyo http://hoikuenmap.codefor.tokyo/
ちば保育園マップ by Code for Chiba(通年版) http://papamama.code4chiba.org/
しかし、データの収集に極めて労力がかかる作業であることからか、定期的に更新されているものはほぼ存在しないのが現状です。上記の例で言うと、「Tokyo保育園マップβ版 by Code for Tokyo 」は2016年に作成されて、その後は(おそらく)一切メンテナンスされていないようです。「東京23区保育園マップ」は毎年更新されている形跡はあるものの、中央区のいくつかの保育園を見てみたところ更新日は2019年5月で次年度の入園申込への対応はできていないようです。
例外なのは「ちば保育園マップ by Code for Chiba(通年版)」で、こちらは千葉市から元データをオープンデータとして提供されていることから、定期的にアップデートされているようです。特に素晴らしいのは、各園の空き状況、入所・待機の状況が毎月更新されている(であろう)点。最近見たところ、2019年12月1日時点の状況を閲覧することができました。
わたしが中央区でやってきたこと
なお、手前味噌ながら、わたしが代表を務める(というと響きは良いが、メンバいないので現状は個人活動ですが)Code for Chuoとしては中央区のWebサイトにある情報を集めて毎年保育園マップをGoogleマップの機能を利用して作成・公表しています(今年で3年目)*7。
このようなものを作った経緯は何より自分自身が情報収集に苦労して、同じような苦労を今後の人たちに味合わせるのは実にバカバカしいと思ったためです。
他と比較してのウリは、保育士や調理師などのスタッフの数、教室や園庭、遊戯室などの面積が情報に含まれている点。これらのデータは上に紹介した区のWebサイトにあるPDFを延々とコピペしてきたもの。
定員の空き状況、第三者評価などについては反映できていない状態です。
保育園マップの比較表
勝手な比較表も作ってみました。
※ 東京都が運営している「こぽる」*8も比較表に追加しては、という声をいただき追加しました。このサービスも保育園マップのようなもので、東京都運営なだけあって、圧倒的な情報量が魅力です(その分、ごちゃごちゃしてわかりにくいという印象はあるのですが)。また、東京都全域をカバーしていることも一つのウリです。小笠原諸島の父島の保育園とかも調べられます。
この取組自体は素晴らしいものの、個人的にはこのデータをどこかオープンな形で提供されていたらもっと良いのではないかと思います。データを活用して、もっと素晴らしいサービスが生まれる可能性もあるであろうからです。
オープンデータ化のメリットと懸念点
オープンデータ化によるメリット
これまでは現状の保活における情報収集の手助けになるものとして、保育園マップの取り組みのいくつかの例をあげて紹介してきました。それぞれに有志のプロジェクトであることから、扱っている内容はさまざまで、かつデータの取得方法も千葉市のように市からすでにオープンデータを提供されているケースもあれば、わたしが作成した中央区のように、区のサイトからコピペしてきた場合もあります。
言うまでもなく、これはオープンデータ化されることが望ましいです。そして、今回の提案では、紹介した千葉市のような形で保活に必要となる様々な情報が各自治体においてオープンデータとして公開されることを要望しています。メリットはいろいろあると思いますがとりあえず2点挙げておきます。
マップなどのサービスを作成するハードルが下がる
まずは、保育園マップなどデータを活用したサービスを立ち上げるハードルが下がるでしょう。単純に言って、用いるデータを自分で作らないといけないとなると必要な作業は「データの作成」と「サービスの作成」の2つです。すでにオープンデータの形式でデータがあるのであれば「サービスの作成」だけをやれば良いのです*9。
価値のある情報が加工しやすい形式で公開されることによって、有志や民間企業によってマップなど、よりわかりやすい形でのサービス提供が行われることになり、情報を収集しようとする保護者にとっての利便性の向上が期待できます。
データが正確である
次に、信頼のおける正しいデータが提供できるという点があります。間違いがないように何度か確認するということを心がけてはいるものの、人力でコピー&ペーストをやっていればどこかで誤りは出てきてしまいます。ましてや手入力などをやりだすと間違いがない方がおかしいです。
オープンデータとして提供されたデータをそのまま利用できるようになれば、加工する手間が減るのでその分誤りが起こる可能性は確実に減らすことができるようになります。
オープンデータ化について懸念しておくべきこと
一方で、現在のオープンデータの状況を見たときに若干の懸念があり、今回の公開要望で考慮した点があります。それは、情報の網羅性です。再掲しますが、公開要望では以下のとおり提供してほしい内容を極めて具体的に依頼しました。
保護者がこれらの施設を選択する際に必要となる、全国の認定こども園、幼稚園及び保育所(認可、認可外(認証や企業主導型を含む)すべて)等施設に係るデータ。
具体的には、推奨データセット「子育て施設一覧」をベースとしつつ、さらに以下のような情報
・設置者
・運営者
・メールアドレス(問い合わせフォームURLでも可)
・歳児クラス別の定員と定員の空き状況(月次単位)
・各クラスや遊戯室などの部屋ごとの面積
・役割のカテゴリごとの人数(保育士や調理師、用務員、看護師など)
・財務情報
・福祉サービス第三者評価の実施状況(年度ごと)と実施結果
・行政の立ち入り検査または文書による確認結果(都道府県、市区町村による結果ともに)
・事故報告件数・内容 など
この意図は、自治体都合で公開するデータの項目を減らされてしまうことへの牽制です。単に「保育園等の施設に係るデータ」としてしまうと、オープンデータとして公開されるにしても施設の名称と住所だけといった正直あまり意味の無いデータが出てきてしまう危険性があります。
これは現在のオープンデータで実際に生じていることです。政府の働きかけによってオープンデータの取り組みは徐々に自治体レベルでも進みつつありますが、自治体が「出せるデータを単に公開しているだけ」の事例が大半という印象です。データを活用する側の声が反映されていなければ、その活用も進まないでしょう。この意味で、今回紹介した千葉市の事例は極めて稀有な例と言えます。
最後に
今回は、オープンデータ官民ラウンドテーブルに提出したことについて書いてきました。ちなみに今回の要望の提出者は、わたしがメンバとして関わっている「みらい子育て全国ネットワーク」とわたしが一応代表の「Code for Chuo」名義。個人名で出すのもアリかとは思いましたが、名だたる企業が並ぶ中で個人名だと胡散臭そうなので。今後の展開としては、会議のネタとして採用されればIT室の方から連絡をいただき、2020年1月か2月頃に開催される会議に呼ばれるという運びになっているようです*10。
最後の最後に。今回の記事を書いている途中であまりにも千葉市の保育園マップに感動したのでその件についてツイートしたところ、このようなコメントをいただきました。
はよ全国各地実装して
— はちこで㌃(👦9m) (@815_hachiko) 2019年12月10日
なんで非公開なのかホント分からんから
別に個人情報じゃないしはよ開示してくれ https://t.co/3alpalynjf
まったくもって、そのとおりだなと思います。公開して誰かが困る情報ではないわけです。また、今回見たように大半の情報はどこかしらにはすでに公開されているものであるわけです。 一方で、これらを情報の受け手目線で分かりやすく公開してほしいというニーズは極めて強いのです。ぜひ今回の要望をきっかけに、全国で一気にオープンデータ化の動きが始まることを期待しています。そして、それが実現するよう、わたしとしてはできる限りその意義について訴えていきたいと思います(会議に呼ばれても、呼ばれなくても)。
*1:定義や意義などについては総務省のWebサイトに詳しいので関心があればご覧ください
総務省|ICT利活用の促進|地方公共団体のオープンデータの推進
*2:調査結果のリンクはこちら
*3:認可保育園の場合はこちら。
この他、認定こども園、認証保育園などそれぞれに別ページになるが同等の情報あり。
*4:認可保育園の空き状況はこちら。
この他、認定こども園、認証保育園などそれぞれに別ページになるが同等の情報あり。
*5:以下の中央区Webサイトのページのリンクから福ナビのページに飛びます。
*6:該当のプレスリリースはこちら。
家庭的保育事業利用児の死亡に伴う事後検証について 8月3日 中央区ホームページ
*8:リンクはこちら。
*9:ちなみにわたしは中央区の保育園データの作成からゴリゴリやってますがこれは奇特な例であり、小さい自治体であるからなんとかできていることです。
*10:ちなみに、採用されない場合は何の声掛けもしてくれないらしい。寂しい。
選定させていただいた要望者の方には、本募集期間終了後、12月中を目途に、事務局よりご連絡いたします。(その他の要望者の方には、特段のご連絡・ご回答をいたしませんので、何卒ご了承ください。)
第5回オープンデータ官民ラウンドテーブル開催に向けた府省庁等が保有するデータの公開要望の募集について(「健康・医療・介護・子育て」分野)