選挙の「当たり前」に全力で抗った過去について振り返ってみた


 統一地方選ってご存知でしょうか。日本中の多くの自治体で首長や議会議員の任期が切れて、全国あっちこっちでほぼ同じスケジュールで選挙が行われることです。次の統一地方選のタイミングは来年4月。この選挙に向けて、政治家の方々の発信が増えてくるのが今の時期。

 

 実は、わたしは前回2019年の統一地方選で住んでいる自治体の選挙に立候補していました。東京都中央区の区議会議員選挙で、定員30名に対して立候補者が44名のうち33位で落選。

 

中央区議会議員選挙開票結果(2019)

 結果からすると「はい、落ちましたー!」でしかないわけでありますが、わたしとしてはある程度納得の行く結果ではありました。それは、これまでの選挙の常識に対してことごとく抗った結果でのこの得票だったため

 

 いくつか例を挙げると「仕事も子育ての辞めない」「選挙前まで街頭活動一切なし」「お金もかけない」といったような感じ。下手するとただの泡沫候補で終わってもおかしくなかったにもかかわらず、当選をちょっと期待できる程度の票をいただくことができたというのは大きな成果でした(投票いただいた方には力及ばずで申し訳ないですが)。

 

 また、このようなやり方であってもそこそこに票が取れるかもしれないということは、政治家を目指そうと思い始めたけれども選挙の旧態依然さに打ちのめされている人たちにはちょっとした希望ではないかと思います。わたしの当時の取り組みも真剣に選挙に勝つという目的もありつつ、これに加えて昔ながらの当たり前が幅を利かせていて極めて参入障壁の高いこの選挙という伝統芸能を変えたい、そのためにこれまでの「常識」を徹底的に無視した選挙活動をしたらどの程度票が取れるのかという人体実験の側面もありました。

 

 そういうわけで、来年選挙に出ることを考えておられる方にも何かの役に立つかもしれないこと、そしてわたし自身が今後に向けて思い返すという意味もあり、3年前の選挙でどんなことをやってたのかについて書き連ねてみようかと思います。

 

どんな選挙をやってたの?

それでは、具体的に候補者としてどのような事前活動・選挙活動をやっていたのか、なぜそんなことをやっていたのかについていくつかポイントを挙げて書いていきます。

① 仕事も子育ても辞めない!

 まず、選挙期間が始まるまではそれまで通りに働いて普通に子育ても行うということ。選挙の始まる直前まで、しっかりフルタイムで働いていました。

 

 選挙期間中はさすがに休みましたが、有給休暇を5日間取得することで対応。したがって、仕事を特に辞めるというわけでもなく休職するわけでもなく、「ちょっと海外旅行に行ってきまーす!!」くらいのノリで選挙に出ていたということですね。終わった後は当然ながらまた勤務。カレンダーでいうとこんな感じでした。

選挙期間前後のスケジュール(2019年4月)

 また、子育ても選挙期間中まではそれまで通りに行っていました。当時は子どもが3歳、0歳だったので朝夕の保育園への送り迎えやお風呂、休日の子守りなどなど。なお、選挙期間中も保育園の送りだけはやってましたが、迎えやお迎え後の諸々の世話は妻にお願いしてました。

 

 こんな活動をやっていたのは、何よりも普通の人が普通に選挙に出られるモデルを作りたいということから。仕事を辞めて退路を絶った上で選挙に臨むというモデルしかないのであれば、よほどの覚悟を持った人しかそもそも選挙に参加することはできません。そうなってしまうと、一定以上の年齢だったり、男性だったり、自営業だったりといったような特定の層しか選択肢として選べないということになりかねません。そして、これは実際に目の前の多くの選挙で起こっていることでしょう。

 

 わざわざ仕事を辞めないでも、子育てをやりながらでも選挙に出られて、そして当選もできるということであれば、立候補することのハードルは下がります。多くの立候補者が出れば有権者としては選択肢も増え、結果としての政治家の性別や年齢、バックグラウンドなどの面での多様化も期待できるようになります。 

② 事前の街頭活動は一切やらない!

 ①に書いたとおり、わたしは選挙直前まで通常どおり働いてました。さらに仕事だけでなく子育て中でもあるので、朝はご飯を食べさせたり保育園に送ったり、夜も保育園の迎えやご飯、お風呂、寝かしつけがありますので、さらに可処分時間は限られます。

 時間が限られている、ということでこの限られた時間の中で何をどれだけやるべきかという点についてわりと真剣に考えました。その結果、選挙期間前の街頭活動は一切行いませんでした。

 

 一般的には、半年前くらいから駅などの人通りの多いところの朝夕に立って「ご挨拶」と称してビラを配ったり声掛けしたりするというのがセオリー。日々、路上で「頑張っている」姿を見てもらうことで認知度の向上と同情を誘うわけです。すでにそれらしき人を通勤時などに見ることも多いかと思います。現役の議員であれば日常の活動として行えますが、新人の候補者がそんな活動をすることは無理なので、仕事を辞めるか長期の休暇を取るといったのがよくあること。 

 

 わたしとしては単純にそんな余裕がなかったということもありますが、そこに意味を見いだせなかったという点の方が大きいです。限られた時間の中でどこかに立って挨拶しているよりは文献や行政データを見るなり記事を書くなりして既存の行政にどういった問題点があってどう変えていくべきかといった本質的な活動に注力するべきと考えていためです。

 

 ただし、それだけだと圧倒的にリアルでの知名度が足りないであろうという判断から、それまでの反動として有給休暇で1日フルで動ける選挙期間中はとにかくずっと街頭で区内の各地を自転車で巡ってひたすらビラを配っていました。

20時過ぎて、疲れ切って哀愁漂う背中

 事前の街頭活動は政治家の熱心さのバロメーターにされている部分もありますが、その風潮にははっきりと反対と言っておきます。理由の1つとしては、それが時間に余裕のある人しか選挙に出られないという参入障壁の大きな部分を占めているため。街頭での活動が選挙での当選という目的に対して価値を持ってしまうことになるといかに街頭での時間を増やすかというチキンレースが始まってしまい、そこに参加できない/参加することの難しい人はそもそも競争から追い出されてしまうことになります。

 

 もう1つの理由は、それが繰り返しになりますが政治家の本質的な活動ではないと考えるため。朝夕のご挨拶で費やされる時間は、たとえば他の自治体の先進事例の調査を行うなど議員としてより質の高い議会活動のためにも使いうる時間です。このように時間の使い道について様々な選択肢がある中で、ご挨拶マシーンになってる人を選んでしまうということは議員としての本質的な能力を軽んじてしまうことになります。これは結果として議員、そして議会の質にも影響することであり、住民の側からしても不幸ではないかと思います。

 

 一昔前まで長時間残業している人間は何か頑張ってるように扱われる雰囲気もありましたが、今では「ちょっと残念な人」という扱いになってきています。これと同様に、政治家の街頭活動も同じように扱われるべきで、ただのやってる感アピールをやってる人ではなくしっかりと住民のために真摯に活動している人が選ばれるようになるべきとわたしは思います。

 

 このような思いから作ったのが、最近作った議会の議事録を見えるようにするというサイトの思いだったりします。

③ どこにも属さない!

 立候補にあたっては、どこの政党や組織にも属せず完全に無所属でした。「無所属」と書いてても、実態としては政党がバックについてたりすることも結構あることから、わたしも選挙後に「どこかが後ろに付いてたんでしょ」的なことを言われることもありましたが思いっきり無所属でした。

 

 したがって、金銭面でもノウハウ面でもすべて自分でイチから調べる必要がありました。活動の体制としてはこれまでの友人や同僚、それと立候補を知って集ってくれた方たちで、のべ人数で22人。

 

 とはいえ皆さん忙しいので、実稼働では選挙期間の84時間(1日あたりで8時から20時までの12時間 x 7日間)に対してボランティアの方の稼働はトータルで163時間。期間全体で見るとだいたい1日あたり2名程度という小規模な体制でした。

 

 実態としては休日に参加するのはなかなか難しいので、休日に集中していたので実際の印象としてはもっと少なくなります。個人名はもちろん隠しますが人ごとの稼働状況を示したのがこちら。

スタッフの稼働状況

 稼働状況を公表しているのを見た記憶がないので比較のしようもありませんが、おそらくかなり少ない部類に入るのではないかと思います。


 どの政党にも属しなかったというのはそもそも立候補の表明が遅かったということもありますが、どこかに属することで今後の活動が何かしらの形で制約されるということを恐れたという部分もあります。政党に属することで選挙にあたってのノウハウや人員を支援してくれるとは聞きますが、それは何も善意でやってくれるわけではなく結局はその後の別の選挙での協力など、何らかの見返りを求められているものであるからです。

 

 選挙のときにはちゃっかり政党の支援に乗っかって、選挙が終わった後になんだかんだと理屈をつけて政党を離れるというハートの強い方も結構たくさんおられますが、それは自身の信義則に反することからやりたくもありませんでした。

 

 完全無所属だってちゃんと選挙は出られるということは言っておきたいところ。必要な書類などは選挙管理委員会が事前に説明会をやってくれたりしますし、都度聞けば教えてもらえます。悩みやすいポイントとしてあるのは公職選挙法の解釈(事前にどこまで活動して良いのか、何をやると違反になるのか)みたいな部分だと思いますが、そういった内容も選挙管理委員会に聞けばたいていは教えてくれます。この法律は正直言って解釈の幅が非常に広くて、選管だとかなり安全側に倒した回答しかくれませんが、少なくともそれに従っておけば違反をすることはありません。

④ お金をかけない!

 次に、お金をできる限りかけないということ。選挙カーも事務所もなし。Webサイトは自作、ポスター、ビラ、選挙公報、タスキなどの制作物はすべて自分でIllustratorで四苦八苦しながらデザインして印刷のみを外注。

証紙ビラ。ノリと勢いで作ったのですがわりと評判良かったです。

タスキ、になる前の布切れ。イラレ入稿で布地に印刷してくれるサービスがあるのです。

 主要なところの経費についての一般的な相場と比較するとこんな感じ(この辺りの詳細は本気で立候補を目指している人には関心のある内容かとは思いますが細かくなりすぎてしまうので、また別記事でも書きます)。

印刷物  :   90万円程度 →   6万円
Webサイト:   30万円程度 →   1万円
事務所  :   60万円程度 →   3万円 ※
選挙カー :   30万円程度 →   0円
(合計)   :  210万円程度 → 10万円

 デザイン部分が要らないわけなので印刷物(ポスター、ビラ)はプリントパックなどの大手ネット業者に発注できることから圧倒的に安かったです。Webサイトも単純にサーバ維持の費用とドメイン登録くらいだけ。選挙カーは一切使ってないので0円。

 

 事務所なしと書いてましたが、実際には3万円くらいかかっています。これは実際の事務所機能としては不要だったのですが、ポスターなどへ掲載が必要な住所を自宅以外にするため、その費用。

 

 そもそもの話として、立候補の際には住所の登録と公開が求められます。妻子どもと同居している立場上実家の住所を晒すのは防犯上ヤバいよね、ということで別の場所を考える必要がありました。住所だけを貸してくれる安いバーチャルオフィスを利用すれば良いかなーと安直に考えてたのですが大体のサービスは政治利用NGが規約に書いてあって断られまくりでなかなかに苦労しました(これは、立候補するにあたって女性や家庭持ちには隠れたハードルかもしれません)。わたしの場合、さんざん調べた結果、近所のアトリエがスペースを借りれば住所も貸してくれる、選挙事務所という体裁でもOKということでその一角を借りました。こんなの。

ベニヤ板に仕切られ、申し訳程度の椅子1脚しかない前衛的過ぎる事務所。
せめてポスターくらい貼るべきだったか。

 お金をかけない、という点への思いは選挙に出ることへの参入障壁を低くすることと、落選リスクを減らすこと。当選するか落選するか分からないものに対して数百万円もかかるというのでは、そこに参加するハードルは極めて高くなってしまいます。加えて、仕事も辞めてしまっていたりするとさらに大変。仕事を続けながら10万円程度の支出であれば、ちょっと金のかかる趣味程度で済みます。

⑤ 迷惑にならない!

 最後に、ちょっと毛色が変わりますが迷惑にならないということ。1つの分かりやすい例として、選挙カーって迷惑じゃないですか?子どもを昼寝で寝かしつけようとして、やっと寝たかなーくらいのタイミングで爆音での演説が聞こえてきて子どもが起きたという経験はないでしょうか。わたしはあります。路上でのスピーカーの演説も同様です。

 

 しかも、ここで発信している内容というのは結局のところ名前の連呼だったりするわけです。選挙カーはもちろんのこと、街頭の演説であっても道を行く人たちに対しても長々と喋っても聞いてもらえないので、やってることは名前の連呼。話の合間合間に自分の名前を出してインプットしてもらうというのが定石です。

 

 有権者としての立場からしても、こんな活動には何の意味も見いだせなかったことから、選挙カーはもちろん使わずマイク演説も一切やってませんでした。何をやっていたかというと、ひたすらチラシを配って、もらってくれた人に熱心に話し込むということをずーっと区内のあっちこっちでやってました(ちなみに、その日にどこにいるかを知らせるためにリアルタイムでの位置情報をwebに発信してました)。選挙期間中に配ることのできるビラは数が決まっていて中央区だと4000枚だったのですが、期間中にきっちり配りきりました。

 

 選挙は目立ってナンボの商売で、これが結局のところ勝つためには効果的な手段であるということを言う人もいますが、これには賛成しかねます。選挙カーなどはたまたま今の法律で許容されているだけであって、そのルールに沿っていれば世の中に害悪なことでもやるし、やって良いと考えるという倫理観の持ち主であるということの意思表明でしかないと思います。

まとめ

 ざっと、どんな選挙をやっていたのか、それに対してはどのような思いでやってきたのかについて書いてきました。まとめると、大きな課題意識としては現状の選挙が極めて狭い範囲の人間しか選挙に参加できない、できにくい状態になっているということです。この状況を打破したい、という思いから、現状の選挙のあり方でわたしがおかしいと思う点について自分が思うようにやってみたというのが前回のチャレンジでした。

 

 例えば、事前の街頭活動をやらなくても勝てるのであれば仕事や子育てで忙しい人であっても立候補しやすくなる、だったら止めてみよう!、お金があんまりかからなければもっと落選のリスクが下がるから立候補しやすくなる、だったら金かけずにやってみよう!といったノリです。

 

 その人体実験の結果がわたしの選挙結果。これで当選!となってたらカッコ良かったのですが微妙に届かず。したがって、この経験を踏まえた上で次の方たちが「さすがにもうちょいお金をかけてみよう」とか「演説くらいはやってみよう」とか、わたしの実践を一例として別のやり方の工夫を続けていっていただけたらと考えています。

最後に

 今回は、過去の選挙について今さらながらあれこれ書いてみました。有権者の皆さんからすると多分あまり伝わってなくて「なんか地味な候補者いたなー」くらいの認識かと思いますが、一応あれこれ考えて行動していたのです。

 

 これらの突飛な行動を青臭い理想主義、現実は甘くないと一笑に付すことはカンタンです。しかしながら、今の選挙の構造とそこでの当たり前が候補者になることを狭めていることは確実であって、この部分でのブレイクスルーがなければ抜本的に今の政治家の大勢は変わりようがない、そうするとその結果として政治も変わらないとわたしは考えます。

 

 さすがに国の選挙の規模でこんなことをやるのは不可能ですが、より小規模な地方の選挙からこういった取組みの成功事例を増やしていくことが、今後求められていることと感じます。

 

 現実問題として街頭活動をしなければ露出が減って認知度が下がるということが起こりますが、これをむしろブランディングとしてもうまく活用できないかなんてことも考えています。近年、ファッションや食べ物などの分野で「エシカル」というモノの見方が広まってきてまして、この視点は政治の世界にも転用できるのではないかと密かに考えています。改めて説明しだすとさらに長くなるので、これについては以下の記事をご覧ください。

 最後に。記事中に書いたとおり、政治家の多様性を高めていくためには多くの人が選挙にチャレンジできる環境が必要です。この記事がこれから立候補をするかどうかを考えている人にとって何らかの助けになることを願っています。「よくわかんねーよ」とか「ここはどうだったのか」などがありましたらお気軽にコメントくださいませ。

 

 

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