待機児童対策など子育て政策に予算が投じられないのは、若者・子育て世代が選挙に行かないから、なのかもしれない。

 おはようございます、ほづみゆうきです。2月が近くなり、すでにいくつかの自治体では保育園入園申込の結果が届き始めているようで、例年通りの悲喜こもごもが展開されています。Twitterなどで流れてくるのはもっぱら悲劇の方で、自分も過去の経験者であるだけに悲痛な声を聴くにつけ気が滅入ります。まったくいつまでこのようなことが続くのでしょう。

 保育園に入ることができない子どもが出てしまう、つまり待機児童が発生するということは、保育園へ入園したい家庭の需要に対して自治体がそれに足りる量の保育施設の定員を確保できなかったということです。保育施設を作って維持するためには相応の予算と労力(用地や保育士確保など)が必要となりますので、待機児童が減ってなかったり(むしろ増えたり)している自治体はそれだけの予算と労力を確保しなかった、要するに待機児童対策が自治体行政の中での優先順位が低くなっているということです

 待機児童の解消という問題が極めて切実であることは、わたし自身としても当事者としてよく理解しています。それにもかかわらず、なぜいつまで経ってもこの問題は解決しないのでしょうか。その一つの原因として考えられるのが投票率の問題です。前回の記事*1にも書きましたが、若者世代の投票率は決して高くありません。

 投票率が低いということは、その世代は政治家にとってはあまり旨味のない世代ということになってしまいます。その世代に受ける政策を実現したところで、自身への見返りとなる投票に結びつかないためです。予算が無尽蔵にあるのであれば話は別ですが、実際には予算には使える予算の額には限界があります。となれば、子育て支援の政策を実現した場合、他の世代、たとえば高齢者世代向けの政策の予算が減るということになりかねず、むしろ票が減るおそれすらあるのです。

 子育て支援の政策はコストではなく経済成長の手段だと主張する意見もあります。*2、眼の前の自身の選挙などという小事に囚われず、このような大局観に立って政治をしろというのはあまりにもまっとうな意見ではありますが、それだけにクソリアリズムの前には無力です。次の選挙で勝つということが主たる目的となっている現実主義者にとっては若者・子育て世代向けの政策はコスパが悪く、実際の問題として多くの自治体の待機児童問題は解消していないのです。

 投票率が低いことと子育て政策に予算が十分に割かれないことの因果関係を厳密に証明することはなかなか困難で、このブログの範疇を超えています。しかし、過去の選挙における投票率のデータを用いて、若者や子育て世代の投票率が低いことを示すことは可能です。今回は、わたしが住んでいる中央区の過去の中央区の区長選挙、区議会議員選挙のデータを用いて、この点について掘り下げて調べてみたいと思います。

事前準備

 まずは区長選挙、区議会議員選挙の年代別の投票率データを手に入れなければなりません。これは「選挙の記録」という冊子に書いてあります。この冊子はその名の通り選挙の内容を記録するもので、正式な位置づけまでは調べてないのですが選挙があれば大概作られているもののようです。

 この「選挙の記録」、自治体によって公開のやり方は様々です。東京23区をざざっと眺めてみたところ、Webに内容を公開しているのは新宿区、目黒区、大田区、世田谷区、中野区、杉並区、豊島区、板橋区江戸川区でした。23区の状況をざざっと調べた結果は以下のとおりです。URLや以降の記事で触れる時間帯別の投票率などの内容の有無も整理しています(あんまり時間かけてないので間違ってるかも。おかしな点があればコメントいただけますと幸いです)。

 

 Webに公開していない区でもおそらく自治体の情報公開窓口だったり図書館だったりには置いてあるのではないかと思われます。中央区の場合にも図書館に置いてあって、貸出も可能でした。

 この「選挙の記録」の中に年代別の投票率のデータがあります。中央区のものはこんな感じです。

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中央区の待機児童の現状

 中央区は東京23区で有数の、保育園に入りにくい区です。以下の図は、各年度での区ごとの「保育サービス充足指数」を並べて順位付けした表です。「保育サービス充足指数」とは自治体間での保育サービスの利用しやすさ(保育園への入りやすさ)ををある程度正確に測るためにわたしが独自に作った独自の指数です。求め方は以下のとおりです。

「保育サービス充足指数」
= 100 − ((待機児童数 ÷ (保育サービス利用児童数 + 待機児童数) × 500)

※ 「保育サービス利用児童数」は、認可保育所保育ママなどの種類を問わず保育サービスを利用している子どもの数。

 

 指数が90以上である年度は「入りやすい」と判断し、指数と順位の箇所を赤字にしています。一方、指数が70以下である年度は「入りにくい」と判断し、指数と順位の箇所を青字にしています。なお、指数のそれぞれの意味は以下のとおりです。

保育サービス充足指数が「90」以上である

 → 4月時点での待機児童の割合が希望者全体のうちの2%以下である

保育サービス充足指数が「75」以下である

 → 4月時点での待機児童の割合が希望者全体のうちの5%以上である

   そして、過去5年間のこれらの指数の傾向を見て、入りやすいと判断した区は区名を赤字、入りにくいと判断した区は青字で記載しています。

 

 中央区の現状は見てのとおりです。ランキングとしては冒頭に書いたとおり21位→16位→16位→19位→21位で常に最下位圏。保育サービス充足指数の値としても60から70の間をさまよっている状況(希望者のうち、6〜7%が待機児童)で、東京23区の平均値から見ても常に低い値にとどまっています。以下は中央区と東京23区の平均値との保育サービス充足指数のグラフです。平成26年度は例外的に80に近い値で平均にかなり近くなっていますが、それ以外の年度では平均にすら遠く及んでいません。このように、中央区は東京23区で保育園に入りにくい区なのです

年代別の投票率から見えるもの

 さて、それでは区長選挙における投票率を見ていきます。「選挙の記録」から抜き出してデータ化した年代別の投票率のグラフがこちらです(本当はGoogleスプレッドシートの埋め込みにしてしまいたいのですが、スマホで見ると見切れるので画像化しています)。傾向は東京都全体での年代別投票率のグラフとほぼ同じであることがよく分かります。つまり、20代がもっとも低く、そこから徐々に上がっていって70代で初めて下落するという傾向です。

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 投票率の元となっている当日有権者数と投票者数を示したのが以下のグラフです。中央区30代から40代にかけての子育て世代とされる年代がその後の年代と比較して多いというのが特徴です。

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若者・子育て世代との投票率の差異

 これだけでは分かりにくいので、これらのデータを若者・子育て世代とそれ以外という形に分けてみることにします。年代をどこで切るかは色々と議論があるところかとは思いますが、前者の「若者・子育て世代」は49歳までとして、50歳以上は「それ以外」としてみます。この考え方で改めて作成したのがこちらのグラフです。

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 このように見せると非常に分かりやすいのですが、以下の2点が特徴として挙げられます。

有権者の数としては「若者・子育て世代」の方が多い

 まず、中央区における有権者の数は、圧倒的に「若者・子育て世代」の方が多いのです。その数は「50歳以上」の約1.5倍。長年続けている人口増加のための施策のおかげでマンションが多く建っていて、そこに入ってくる住民の多くがこれらの世代であることが原因でしょう。

投票率が低いことによって、投票者数は「50歳以上」の方が多い

 にもかかわらず、数は多い「若者・子育て世代」が結局は投票者数では「50歳以上」に逆転されているというのがもう1つの特徴です。投票率の比較は以下のとおり。20%以上も「50歳以上」の方が高いという結果になっており、その結果として上記のように「若者・子育て世代」は投票者数としては逆転されてしまっているのです。

f:id:ninofku:20190127234258p:plain  この状況においては、冒頭に書いたとおり自身の当選を第一に考えるような政治家にとって、子育て支援政策はコスパが悪いことになります。対象者の数は多いものの、結局は高齢者ほど集票に役立たないためです。現実に待機児童などの問題に十分な予算が割かれないこととこの投票者数の逆転現象との因果関係を証明することは不可能ですが、十分に推測は可能です。

投票率がもし同じだった場合には?

 仮の話として、「若者・子育て世代」がそれ以上の年代と同等の投票率となった場合にはどうなるでしょうか。それを示したのが以下のグラフです。当日有権者は「若者・子育て世代」の方が多いのだから、投票率を同じにすれば当然ながら投票者数で「50歳以上」を大きく上回ることが分かります。その増分は、およそ15000票。

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 この15000票のインパクトが分かりにくいかと思いますので、前回の2015年の区長選挙における得票数の結果と組み合わせてみます。「増分」とあるのが上記で「若者・子育て世代」がそれ以上の年代と同等の投票率と仮定した場合に増える得票数です。

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 見てのとおり、「増分」の票が固まれば第2位の方は優に当選してしまいます(第3位の方はギリギリ届かないレベル)。15000票と聞いてもあまりピンときませんが、これだけの票が固まれば区長選挙の結果をひっくり返すことが可能なほどのインパクトなのです。
 ちなみに区議会議員選挙の場合は、1人あたりの得票数が少ないのでさらに大きな影響が及ぼすことが可能です。以下のグラフは15000票の1/10(丸々だと飛び抜けてしまう)を落選者に足してみたものです。2015年の区議選における最後の当選者の得票数は801票で、最低の得票者は40票。このような状況なので、1500票もあれば最下位の得票者を逆転当選させることだって可能なのです。「若者・子育て世代」が本気を出せば、選挙の結果は大きく変えられるのです。

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最後に

 今回は待機児童などの問題がいつになっても解消されない点について、投票率と関係あるんじゃないのということで中央区の過去の選挙のデータを用いて分析してみました。これはあくまで中央区の事例ですが、都心部ではおそらく似たような状況となるはずです。つまり、若者・子育て世代は有権者数としてはマジョリティだけれども、投票率が低いために投票者数としてはマイノリティになってしまうという状況です。

 どの世代が投票するか(しないか)によって本来行うべきことをやらないというのは政治家として当然あるまじきことではありますが、そのような理想的な政治家のみでないというのが現実です。となれば住民側でできることというのはただ一つ、選挙に行くということです。

 投票に行かない理由として、よく挙げられるのは「選挙のことなどよく分からない」だったり、「自分一人が投票してもしなくても変わらない」だったりといったものです。もちろん候補者の情報を十分吟味してから誰がもっとも良いか(もっともマシか)を考えた上で投票するのが本来のあるべき姿です。しかしながら、ものすごく極論を言うと、そんなことを考えずに投票するだけでも十分意味はあるのです。というのも、あなたが投票に行くことによってあなたの情報はその選挙の記録として残るためです。今回取り上げた「選挙の記録」という冊子には投票した人の性別や年代、時間帯など細かな情報が記録されています。「若者・子育て世代」の投票率が上がれば、そのデータを見た次の選挙の候補者たちはこれらの世代の思いを無視することはできなくなります。その結果、打ち出す政策が「若者・子育て世代」を配慮されたものとなる効果が期待できるのです。

 このような投票率向上なしに子育て環境の改善させるには、政治家の見識と情熱に任せるほかありません。果たしてそのような素晴らしい政治家がこの日本にどの程度いるでしょうか。その状況においては、選挙における数の力で彼らを縛るのが現実的ではないかと考えています。

*1:ninofku.hatenablog.com

*2:たとえば以下のようなもの。

子育て支援と経済成長 (朝日新書)

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