若者の投票率、実はそんなに低くない!?成人の日なので過去の年代別投票率から調べてみました。

 おはようございます。ほづみゆうきです。地元へ帰るための交通費を惜しんで行かなかったので、成人式にまつわる思い出が何一つない陰キャです。本日は成人の日ということで、最近たまたま見ていたデータに関連して新しい成人の方に向けて書いておきたい内容があったので更新します。それは端的に言うと「ちゃんと選挙に行こうぜ」ということです。今年は4月に統一地方選挙地方自治体の首長と議員の選挙について、投票日などの期日を統一して全国一斉に行うもの)もありますし、7月には参議院議員選挙もあります。選挙は政治に対してまっとうに意見することのできる貴重な機会です。このせっかくの貴重な機会を活用していただきたいと考えています。といっても、頭ごなしに選挙行けと言っているわけではないのでご一読いただければと。

「若者の投票率が低い」は本当か?

 一般に「若者の投票率が低い」と言われています。そして、様々な調査でもそれは明らかになっています。例えば、以下のグラフは1967年から2017年までの衆議院議員総選挙での年代別投票率です*1。グラフを見ての通り、この50年の間、20代の投票率ほぼ常に最下位に位置しているというのが現状です(唯一の例外は1967年で、このときは「70歳以上」が最下位)。

f:id:ninofku:20190112223241p:plain

 これを見ると、たしかに若者の投票率は低いというのはもっともらしいように思われます。しかし、より詳細な年代別のデータを見てみると、少々違ったようにも見えてくるのです。

若ければ若いほど投票率が低いわけではない!

 これは東京都の選挙管理委員会が公開している年代別の投票行動調査結果です。データを見れば一目瞭然ですが、若ければ若いほど投票率が低いというわけではないのです。投票率は20歳のときはそこそこの値を示すのですが、その次の区分である「21〜24歳」で大きく落ち込んで全年齢区分の中で最低となるというのが共通した特徴となっているのです。

f:id:ninofku:20190112225250p:plain

10代の投票率はむしろ高い!

 もう1つの観点は10代の投票率です。公職選挙法が2016年6月に改正され、これ以降は18歳も投票できるようになりました。それでは、その後の10代の投票率はどうなっているでしょうか。これも東京都選挙管理委員会が公開している資料で傾向を掴むことができます。
 18歳、19歳の投票率はかなり高く、30代から40代のあたりの投票率とほぼ同じ程度です。タイトルに付けた「実は低くない!?」という部分はこの結果を指しています。けれども、その後に年齢を重ねるにつれて徐々に落ちていき「21〜24歳」で最下位となるという傾向は変わりません(これは東京都の結果ですが、東京都が極端に若年層の投票率が高いわけではありません。2017年10月の衆院選都道府県ごとの投票率で東京都は平均とほぼ同じでした*2)。 

f:id:ninofku:20190112232758p:plain

これらの結果の考察

 過去の選挙結果のデータから、若年層の投票率の詳細について見てみました。10歳区分などで大きく分類したときに若年層の投票率が他の年代と比較して低いことは最初のグラフでお示ししたとおりです。しかしながら、これらの年代には他の年代にはない大きな特徴があります。それは、最初から投票率が低いわけではなく(10代はむしろ高い)、その後にズルズルと落ち込んでいくという傾向にあるのです。上記で挙げたデータは東京都のデータですが、他に見つかった全国のデータでも傾向は変わりませんでした。以下のグラフは2016年の参議院議員選挙の際の年代別の投票率です

*3

。「20歳」の投票率のデータはありません(「20〜24歳」という形でまとまって表記)が、10代の投票率が高い、そして20代前半の投票率がもっとも低いという傾向は同じです。

f:id:ninofku:20190113090650p:plain

結果から導かれる仮説

 この特徴をどのように捉えるべきでしょうか。「20代」という括りで投票率が低いことについて言及する内容は山ほど見つかるのですが、「20歳」の投票率が20代の他の区分よりも高いという点に言及しているものは見つけられませんでした。18歳選挙権の導入にあわせて、初めて導入された参院選での18歳の投票率と翌年の衆院選の19歳投票率を比較した記事はNHKが出していますが、この記事でもそれ以前についての言及はありません*4

 また、18歳選挙が解禁になったときの問題点としてよく指摘されたと記憶しているのは多くの大学生が住民票を移していない点。たとえばYouthCreateの原田謙介さんの記事*5。実家を出て親と暮らしていない18歳、19歳のうち、住民票を現居住地に移している割合は3割を下回っているそうです。選挙は住民票のある場所で行うものなので現居住地では行えず、実家に戻って投票するか、不在者投票制度を利用する必要があります。この面倒によって18歳と19歳以降で大きく投票率が下がっているのだ、という意見です。

 大学生が住民票を移していないというのはたしかに「18歳」から「19歳」が大きく落ち込んでいる理由としてはあり得るのかもしれないですが、「19歳」から「20歳」、そしてさらにそこから「21〜24歳」まで投票率が落ち込む理由としては不十分です。「19歳」から「20歳」であれば浪人生は抜きにしてどちらも大学生ですので住民票云々の条件は変わりませんが、いずれの選挙でも「19歳」と比較して「20歳」の投票率は落ちています。また、大多数は22歳で就職しますが、就職してまで住民票を移さないという人は少数派でしょう。

 わたしの考える仮説

 この若年層の投票率の落ち込みについて、わたしの仮説は、もっとシンプルというか身も蓋もないものです。それは「最初に選挙権を持ったときの選挙は関心も意欲もあるので行くけれども、それ以降は結局変わらない世の中に失望して投票に行かなくなるのではないか」というものです。要するに大学進学などの若者世代の置かれている環境の問題ではなく、単純に過去に行ったかどうかの経験の問題なのではないかということです。

 厳密にこれを証明してやろうというまででもないのですが、こう考えるに至った根拠を一つお示ししておきます。以下の表は、直近10年の東京都における年代別の投票率です*6(2015年に統一地方選があったはずなのだが元のデータにはなかったので省略)。元のデータは全ての年代分ありますが、10代と20代のみを抽出しています。また、赤字部分がその年代での初めての選挙です。2016年7月までは20歳が初めての選挙で、これ以降は18歳が初めての選挙となります。 

 まず見ていただきたいのは黄色セル部分「20歳と21〜24歳とでの減少割合」です。この数値は個々の選挙における20歳と21〜24歳の投票率を比較して、どの程度異なるかを示したものです。2011年の都知事選から2016年の参院選まで、およそ20%前後の幅で21〜24歳の投票率の方が低いことが分かります(2013年参院選は例外)。

 この傾向に変化が訪れるのが2016年の7月の東京都知事選です。20歳と21〜24歳の投票率の減少の割合は12.8%と10%代前半と、減少の幅が緩やかになっていてこの傾向はその後も続いています。このタイミングで何が起こったかというと、18歳投票が始まってからその次の選挙なのです。つまり、このとき以降の20歳は、「20歳で初めての選挙を迎えない」世代で、この世代以降は20歳と21〜24歳の投票率の間での減少幅はこれまでと比較して相対的に縮まっているのです。

 一方で、これまでの20歳と21〜24歳の投票率の間で見られた極端な減少と類似の現象は18歳と19歳の間で見られるようになっています。これを示したのが上記の表のオレンジ色セル部分「18歳と19歳とでの減少割合」です。2016年7月の都知事選で15.78%の減少、翌年の2017年7月の都議選では30.65%の減少、そして2017年10月の21.09%の減少を記録しています。

 投票率の減少が大学進学などの若者世代の環境によるものであれば、18歳への選挙権付与を境に20歳の投票率にこのような変化が起こることは説明できません。最初に選挙権を持ったときの選挙は関心も意欲もあるので行くけれども、それ以降は結局変わらない世の中に失望して投票に行かなくなる、と考えた方が自然ではないかと思うのです。そして、この傾向は18歳選挙が始まってから生まれたものではなく、これまでの20歳選挙のときにも生じていた現象なのです。

若者の低投票率の責任と、それでも選挙に行くべき理由

若者の投票率が低い責任は誰にある?

 最初の投票以降に失望して投票率が下がると仮定したときに、その責任は誰に帰属すべきでしょうか。もちろん選挙権を認められたということであれば、それを行使するのが本人の責任であるのは言うまでもありません。しかしながら、今回見てきたように、これまでの傾向として初めて選挙権を得たときの投票率は決して低くないわけです。それが、次の選挙では大幅に低下するという現状を見て、多くの若者に失望させている政治や政治家にまったく責任がないというわけには行かないのではないでしょうか

 選挙の前には耳障りの良いことばかりを並べ立て、街頭で演説をするなどして有権者と積極的に関わりを持とうとする方が多いですが、いざ選挙が終わったら、どこで何をやっているのか、そもそも仕事をしているのかすら分からない人が大多数です。特に酷いのが若者がもっとも目にする可能性の高いWebの世界だと思っていて、選挙後にぱったりと更新が止まっている政治家のサイトはざらにあります。更新されているものであっても何の価値もない食べ歩きレポだったり、地元で神輿を担ぎましたとか餅をつきましたといったような地元への顔売りのPR活動ばかりで、その方自身の政治家としての活動の中身が分かるようなものは極めて稀です。このような状況で、若者に政治に対して失望するなと言う方が難しいのではないでしょうか。

それでも選挙に行くべき理由

 さて、冒頭の話に戻ります。「ちゃんと選挙に行こうぜ」という話です。これは単純に「君たち若者は投票率が低いんだから行こうぜ」ということではありません。「過去に投票して政治に失望しているだろうけど、その政治を変えるためにはあなたの1票が必要なんだから行こうぜ」ということです。今年成人式を迎える方々はすでに18歳(もしくは19歳)時点ですでに投票の経験がある人たちです。その投票の結果、多くの失望を抱えていることでしょう。そして、これまでのデータからすれば前回投票した人たちの多くは今回投票しなくなるのでしょう。

 しかし、投票には行くべきです。多数の候補者の情報をかき分けて、誰がもっとも優れているかを十分に吟味した上で1票を投じてください。あなたの投票はあなただけの投票ではありません。今回データで示したとおり、選挙における投票結果は年代別に集計されてずっと残ることになります。あなたの投票行動は「20歳」だったり「20代」の投票行動の一部となるのです。そして、20代の投票率が今後も低調なままである限り、政治家にとって20代は票の獲得が期待できないものとして軽く扱われてしまいます(その結果として、「シルバー民主主義」と言われるような、高齢者層など投票率の高い世代にとって都合の良い近視眼的なバラマキ政策がはびこることになるのです)。あなたの失望した政治を変えるために、あなたの投票が必要になるのです

最後に

 今回はたまたま見ていたデータに関連して、成人に向けたメッセージということで書いてみました。今回取り上げた「20歳の投票率は低くないがそれ以降で落ち込む」という現象はわたしの中では結構驚きでした。若者世代は最初から関心がないのだろうと思ったら、そういうわけでもないのです。そして、その傾向は18歳からの選挙参加になっても変わっていないのです。

 このような認識に立ったとき、若者にこのような失望を与えている今の政治の罪は極めて重いと感じます。Twitterなどを見ていると4月の統一地方選を前に街頭演説をやりましたというようなつぶやきが多く流れてくるようになりました。それが「頑張ってるアピール」で票の獲得にあたってのRPGで言うところの「稼ぎプレイ」としては理解しますが、街頭演説をやりました以上の情報がなく、かつそれではその人のWebサイトはどうだろうと思ったらそもそもないか、あっても数行のテンプレからの引用ぽいものだったりして、その方々が一体なぜ政治家を目指しているのか、政治家になって何をやりたいのかが判然としない人があまりにも多いように感じます。このような方々が当選したにしても、新たな失望を生むだけになりはしないかと今から気がかりでなりません(なお、組織票ガチガチでSNSなどを活用できない高齢の候補者の方が圧倒的な多数派ではありますが、若者がこの手の政治家に希望を持つことは考えられないので良くも悪くも失望は生まないでしょう)。

 

Copyright © 2016-2018 東京の中央区で、子育てしながら行政について行政について考える行政について考えるブログ All rights reserved.