結局のところ、保育園などの保育サービスの需要は今後減るのか増えるのか?今度は都道府県、基礎自治体のレベルで比較してみました。

 おはようございます。ほづみゆうきです。今回は前回に引き続き、保育サービスの需要の今後について掘り下げていきます。前回の記事*1では、将来の保育サービスの需要に関する主要な推計をそれぞれ挙げて、その妥当性について評価を行いました。これは日本全国を対象とした推計だったのですが、今回の記事では都道府県や自治体レベルでの需要推計について取り上げ、その現状と課題について指摘することとします。

 

都道府県、基礎自治体における保育サービスの現状と待機児童数

保育サービスの今後の推計

 まずは前回の記事のおさらいです。今後保育サービスの需要は増えるのか減るのかというと、未就学児童は今後徐々に減っていくものの、女性の就業率の向上を背景に日本総研が試算したとおり今後も保育サービスの需要は伸びていくだろう(少なくとも減りはしないだろう)というのがこれまでの推移と3つの推計をプロットした以下のグラフから読み取れる結果です。

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 しかしながら、何も考えずに保育園を作り続ければ良いというわけではありません。というのも、 日本全国という枠組で考えればすでに保育サービスの定員は余りつつあるためです。以下のグラフは全国の保育サービスの定員数と利用児童数の推移です。2018年度時点での全国での定員充足率は93.55%であり、定員に対して6.45%の空きがある状態なのですそして、それにもかかわらず、次のグラフが示すように待機児童数はそれほど減っていないのです(むしろ2018年が例外で、その前の2014年から2017年は増加傾向にありました)。

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待機児童数が減らない理由

 現時点で多数の待機児童が生まれている一方で、さらに今後も需要が広がるであろうにもかかわらず定員が埋まらないという現象はなぜなのでしょうか。このカラクリは、先に種明かしをしておくと地域によって今後の需要が大きく異なっており、それに沿った整備がなされていないためです。つまり、全国規模での定員数は増えているものの、待機児童が多く出ている自治体では増やした定員以上に利用希望者が増えているためです。以下のグラフは、2015年から2018年までの東京都と青森県の利用児童数、待機児童数の推移を示したものです(2015年を100とした推移) 。東京都の利用児童数は一貫して上昇しています。一方で、青森県の利用児童数はほとんど増えておらず、2016年から2017年にかけて大きく減少しています。ちなみに青森県は待機児童数は6年連続でゼロです。このように、都道府県単位で見ると日本全国という単位では見えなかった問題が浮き彫りになってきます

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 この傾向は今後もさらに拡大すると考えられます。先述の日本総研による試算方法(需要高位の場合)を用いて東京都と青森県の今後の保育サービスの需要の推移を推計したものが以下のグラフです(2020年を100とした推移) 。2020年から2040年までの間に東京都では40%ほど需要が上昇する見込みです。需要のピークアウトが近いとは言われていますが、東京都においてそんなことはないのです。他方、青森県はこの20年で需要が10%程度低下する見込みとなっています。 

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 さらに言うと、先ほどのグラフで今後大きく伸びる見込みである東京都の中でも自治体によって需要の増加の幅は様々です。こちらも同様に日本総研による試算方法を用いて東京23区と多摩地域の26市の今後20年での保育サービスの需要の推移を示したのが以下のグラフです 。どのグラフがどの自治体かということは線が多すぎて分からないですが、これほど東京都の中でも需要の伸びにばらつきがあるという点を理解していただけたらと思います。上昇率がもっとも高いのは千代田区中央区、港区などの都心であり、2020年時点から需要が60%近く増加する推計となっています。その他の自治体も全般的に上昇傾向にある一方で、福生市のように東京都の中でも例外的に需要が大きく落ち込む見込みである自治体もあります。

f:id:ninofku:20190214062447p:plain 港区で生まれた待機児童を福生市の保育園に登園させることは現実的ではありません。このような状況から分かるように、全国レベルだけでの定員数や需要数の議論を行う意味は薄れてきているというのが現状です。全国レベルよりも都道府県レベル、都道府県レベルよりも市区町村レベルでの需要の推計、そしてそれに基づく整備計画が策定・実行されていく必要があるのです

自治体による推計・計画の妥当性の問題 

 各自治体の保育サービスの需要の推計は、それぞれの自治体が独自に行う必要があります。そこで課題となるのが自治体における推計とそれに基づく整備計画の妥当性、そして整備計画の進捗状況です。各自治体による整備計画はすでに存在しており、厚生労働省では「待機児童解消加速化プラン」及び「子育て安心プラン」による自治体の取組状況を毎年取りまとめています。しかし、この計画の数字と実態を比較すると、正確に需要を推計できているとは言えないし、さらにはその推計のとおり整備が行えているわけでもないというのが現状です。東京23区のデータをもとに解説していきます。

計画と実際の需要との乖離

 以下のグラフは、東京23区を対象に2016年から2018年までの「待機児童解消加速化プラン」及び「子育て安心プラン」における計画上の整備量と実際の保育サービスの需要の乖離との割合を示したものです。

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 0%に近いほど計画と実際の需要が一致しており、プラスである場合には計画上の整備量が実際の需要を上回っていること(必要以上に作りすぎている)、マイナスである場合には計画上の整備量が実際の需要を下回っていること(定員が足りない)を表している。例えば2018年の中央区では計画上での整備量は4859人であるのに対して実際の需要は5017人であり、3%程度のマイナスの乖離となります。増減の幅はそれぞれでありますが、多くの自治体で計画と実際の需要は大きく乖離しており、正確に需要を推計できていないことが分かります

計画と実際の進捗の乖離

 問題はさらに深刻です。需要が正確に推計できていないことに加えて、多くの自治体は自身で計画した保育サービスの整備量すら整備できていないというのが現状なのです。以下のグラフは、東京23区を対象に2016年と2017年での「待機児童解消加速化プラン」における計画上の整備量と実際の整備量との乖離割合を示したものです。

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 0%に近いほど計画と実際の整備量が一致しており、プラスである場合には計画した以上に整備量を増やすことができたこと、マイナスである場合には計画よりも整備量が下回ったことを表している。例えば2018年の墨田区では計画上での整備量は6992に対して実際の整備量は6254であり、10%程度のマイナスの乖離となっています。一部にプラスとなっている区もありますが、大半は計画よりも整備量が下回っており、0%からマイナス5%あたりで推移している区が多い状況です。

さらなる大きな課題、隠れ待機児童 

 上記の分析において「需要」として整理したのは「利用児童数 + 待機児童数」にとどめています。この「待機児童数」というのが結構な曲者で、保育園に希望して入所できなかった人をすべて待機児童として扱うようになっているわけではありません。保育サービスを受けられていないにも関わらず待機児童としてカウントもさもされない、いわゆる「隠れ待機児童」という存在があります。「① 求職活動休止」「② 自治体補助サービス利用」「③ 特定施設のみ希望」「④ 育児休業中」の4つのいずれかに該当するものとされていますが、その定義は自治体によって様々です。1枚だけ貼っておきますが、詳細は過去の記事をご覧ください*2

 この定義の不統一は、自治体ごとの計画や実績を比較して善し悪しを評価する際の障壁となっています。有名どころでは、横浜市*3千代田区*4などが「待機児童」の定義を狭めることで実際の数字を過小に見せるという手法を取り入れています。日本全国での2018年4月時点での待機児童数は19,895人ですが、この「隠れ待機児童」は67,899人となっており、その内訳と推移は以下の図のとおりです 。

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 この隠れ待機児童のどこまでを本来の待機児童として含めるかについては議論が分かれるところですが、確実に言えることはこの数字は待機児童数の上振れ要因でしかないという点です待機児童数が示す以上に、保育園に入りたくても入れない家庭は多く存在するのです。 

最後に

 今回は、前回に引き続き保育サービスの需要について考察してみました。前回は日本全体の推計であったのに対して、今回は都道府県、そして自治体レベルでの推計を行い、都道府県レベルでも、そして基礎自治体レベルにおいても需要は大きく異なることを示してきました。さらには、この基礎自治体レベルでの保育サービスの需要を推計するための計画が正確に本当の需要を推計できているとは言えないし、さらには推計に基づく計画のとおりに整備が行えているわけでもないということを明らかにしました。

 全国レベルでの需要量がいくらであるかという議論はすでに価値を失っています。全国という規模で言えばすでに保育園の定員は余っているためです。あくまで個々の自治体において需要の推計が行われ、それに基づいて整備の計画が策定・実行されていく必要があります。しかしながら、今回の記事で述べたとおり、実際の計画は自治体任せにされて極めていい加減な計画であるとしか言えない状況です。

 この点をより詳細に明らかにするために、次回ではわたしが在住している中央区の計画である「中央区子ども・子育て支援事業計画」*5を用いて、より具体的な問題点について指摘することとします。

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