東京都の新規事業「認証保育園での学童クラブ待機児童の受け入れ」が素晴らしい

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 久々の更新です。今回は学童保育について書きます。時が経つのは早いもので、我が娘も4月から小学校に通うことになりました。自分も妻も働いているので現在は保育園に通っていて、4月からは学童保育のお世話になることに。幸いにして希望の学童クラブから決定のお知らせを受け取りまして「学童落ちた、日本死ね」とはならなかったのですが、あんまり手放しに喜べるものではありません。

 というのも、わたしが住んでいる中央区は学童の定員が極めて少なくて、1年生はなんとか希望すれば入れるものの、2年生になると大概追い出されるという構造になっているためです。保育園と違って一旦入れたらそのまま残れるわけではなく、年齢が上がればより優先順位の高い新1年生が入ってくるので、相対的に優先順位が下がり追い出されるという仕組み。SNSには新2年生のお子さんをお持ちの方の怨嗟の声が轟いており、明日は我が身と思っているわけです。

 中央区の事情でいうと、保育園については世間的に2016年あたりから盛り上がったこともあり定員も増えつつあります(それでも依然として中央区は日本有数の「入りにくい自治体」ですけどね)。一方で、学童保育についてはちっとも増えていないというのが現状です。保育園のニーズが増えればその後に順調に成長すれば学童保育のニーズも増えるなどというのはフツーに考えれば当然なわけですが、学童クラブの数は増えていませんし、増える計画も2024年までありません(正確に言うと、施設規模はそのままに定員を増やすというマジックはやってます。これについては過去の記事で書きました*1)。

 これは本当に腹立たしいのですが、最近になって一つの希望の光がありました。それは2022年4月からの東京都の新事業で「認証保育園で学童クラブの待機児童を受け入れる」という取り組みが始まる予定であること。つまり、保育園の空き定員枠を活用して学童保育のような機能を持たせようということです。これは非常に画期的なアイディアだと思ってまして、この事業について書いていきます。

東京都の新規事業とは

 今回取り上げる東京都の新規事業は、2022年2月に発表された予算案の資料に記載されています*2。全部で178ページもあるのでしんどいですが、こちらの104ページ。表題としては「認証保育所における学齢児の受入れ」、中身としては「学童クラブの待機児童の解消に寄与できるよう、小学生の放課後の居場所として、認証保育所を活用」とあります。予算規模は0.5億円。

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 事業のイメージはこんな感じになってます。

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 何となくイメージは付くかと思いますが、それぞれの保育園で設定されている定員が埋まっていない場合に、その空き枠を活用して小学生を受け入れようということです。

この新規事業の素晴らしい点

すぐに実現できる

 何よりも素晴らしいのは、すぐに定員増を実現できるであろうという点です。中央区はやや極端な状態ではあるものの、他の区も潤沢に定員があるというわけではありません。23区で見ると、多くの区で待機児童が出ていることが分かります。

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 まったくのゼロから新たな施設を作るということになれば、用地の確保から施設の建設、そして人の採用と随分な時間がかかってしまいます。一方で、あくまで既存の保育園の空きを利用するということであれば施設はもちろんそのまま使えます。足りていないという現状への対策として、すぐに機能するというのは大きなメリットです。

 人の採用についてどうなるのかは資料からは読み取れないですが、保育園での定員の考え方に沿えば年齢が上がるごとに職員1人あたりでの見られる子どもの数は増えるわけで、新たに採用するということは想定されてないのではないかと思います。

より良い選択肢が増える

 保育園と学童クラブであれば、保育園の方が数は多いです。数が多いということは選択肢が増えるということです。学童の利用でのひとつの懸念は移動の問題(小学校から学童、学童から自宅)ですが、たとえば家の近くにある保育園が利用できるのであればトータルでの移動距離は少なくなるので本人の負担も減りますし、交通事故等の心配も減ります*3

 

 中央区で学童と保育園をプロットするとこんな感じ。今回の東京都の事業での対象は認証保育園(オレンジ)のみとなっていますが、認可保育園(緑)まで含めるとさらに選択肢は増えることになります。

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懸念点

量の問題(そもそもどの程度定員が増えるのか?)

 一方での懸念点。まず、今回の事業によってどの程度定員増を見込むことができるのかという点です。先ほど書いたとおり、この事業の対象は認証保育園のみ。その場合に、果たして期待できるほどに定員が増えるのでしょうか。

 空き定員の情報は自治体によって異なるので一概には言えないのですが、都として取りまとめている情報としては2021年4月時点で認証保育園の定員は16,718人。一方で、その利用人数は13,645人なので、単純な差でいうと3,073人の空き定員があるということに*4

 一方の学童クラブの待機児童はどの程度かというと、3,361人*5*6

 この数字は東京都全体の数字なので、たとえば武蔵野市の保育園の空き定員に対して千代田区の子どもが通うわけには行かないでしょうからこれで全て解消、というわけには行かないのでしょうが、認証保育園だけでもそれなりの程度の待機児童解消が期待できるのではないでしょうか。

 

 ちなみに中央区の場合。2022年2月時点での認証保育園での空き定員は29(1歳児:3名、2歳児:16名、3-5歳児:10名)。一方での学童クラブの待機児童の数は209名ですので、全然これでは足りません。ちなみに認可保育園の定員の空きは全体で730。合計すると759であり、ここまで含めて同様の取り組みが行われれば、地域による受給のバランスを考慮したとしても劇的に解消することが期待できます。

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 なお、今回の事業は認証保育園のみとなっている点について。これはいわゆる認可保育園が厚生労働省管轄である一方で、認証保育園の方は東京都の独自事業だからこういった対応できるという話なのだろうと行政のリクツは分かりますが、そうすると対象の施設は限られてしまうのでぜひ認可保育園にも広げていただきたいところ。

 ちなみに、この点についてはわたしの勤め先でもある認定NPOフローレンスの駒崎代表が内閣府の子ども・子育て会議でばっちり要望してくれています*7

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質の問題(安全で安心な環境が提供できるのか?)

 もう1つ挙げられる懸念としては、質の問題。元々想定していなかった場所で預かることで、学童保育の役割である「成長期にある子どもたちに安全で安心な生活を保障すること」は十分に果たせるのでしょうか*8

 保育園の施設をそのまま利用することになるのであれば設備やおもちゃ、本などは保育園に通う園児に特化したものであることから、小学生にはやや物足りないものになるのかもしれません。また、学年が進むと遊び方も色々激しくなることが想定されるので、相対的に小さい園児たちの安全性の面で懸念がありそうです。ただ、今の学童の利用者の低学年を保育園の方に積極的に移行させるということであれば、つまり1,2年生あたりが利用するということになるのであれば、それほど大きな問題にはならないのではないでしょうか。

最後に

 今回は、東京都が4月から実施予定の新規事業、「認証保育園での学童待機児童の受け入れ」について紹介してきました。この記事では利用者側の目線で、実際には今後の少子化で保育園ニーズが低下することによる施設の空きの有効活用という事業者、行政側の思惑もあるかとは思いますがその辺はカットしました。学童クラブの待機児童という眼の前の問題への有効な手立てとして、ぜひ実現してほしいですし、それぞれの自治体でしっかり導入されることに期待したいところです(中央区でやらない、なんてことになったら暴動モノです)。

 それともう1点、これは書いていく中で感じたのですが、この事業は待機児童対策という話だけに留まるものではないように思います。それは、子どもの心理的安全性にも寄与するのではないかということ。いわゆる「小1プロブレム」と言われる問題があります。「保育園や幼稚園を卒園した後に、子どもたちが小学校での生活や雰囲気になかなか馴染めず、落ち着かない状態が数カ月続く状態」とあります*9。「プロブレム」なんて言われてますが、子どもからすればぜんぜん違う環境に置かれることになるのだから無理からぬ話です。

 この問題について、今回のような事業が導入されることで、たとえば小学1年生は昼は小学校、夕方にはこれまで通っていた保育園に通って慣れ親しんだ先生・環境で過ごすことができるようにもなります。そうすると、いきなり4月から全然知らない2つの環境に晒されるのではなく、夕方からはこれまでの環境に戻ることができます。これを図示するとこんな感じ。

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 将来的にはもちろん保育園を離れて学童に移行することにはなるでしょうが、そのときにはある程度小学校にも慣れ親しんでいることでしょう。つまり、結果的に保育園から小学校への段階的な移行が実現できるようになります。これは現状の極端な環境の変化を緩やかにするという意味で、子どもの心理的安全性の面でメチャクチャ良くないですか?さらに言うと、妹弟が同じ園に居たりするとお迎えの面でも1箇所で済むという意味でもサイコーだったりします。こんな選択肢が生まれるのであれば、絶対に我が家は保育園にお願いしたいです。書いててホント理想的!と思っちゃってるので速やかに認可保育園を巻き込むところまでぜひ進めていただきたい。わたしもこの実現に何か貢献できないか、引き続き考えていきたいと思っております。

 

タイトル画像 Children illustrations by Storyset

 

*1:

これです。

ninofku.hatenablog.com

*2:令和4年度(2022年度)東京都予算案の概要令和4年度(2022年度)東京都予算案の概要https://www.zaimu.metro.tokyo.lg.jp/syukei1/zaisei/20220128_reiwa4nendo_tokyotoyosanangaiyou/4yosanangaiyou.pdf

*3:小学生低学年の交通事故は突出しています。

歩行中の交通事故、死傷者は小1突出 外歩きの経験浅く:朝日新聞デジタル

*4:都内の保育サービスの状況について 表1 保育サービス利用児童数の状況https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/hodohappyo/press/2021/07/28/documents/02_01.pdf

*5:保育園の待機児童のときと同様に諦めてそもそも申請していない層も一定程度ありそうなので、これが全てとは言えないですがひとまず

*6:東京都 放課後児童健全育成事業(学童クラブ事業)実施状況(令和3年5月1日現在)https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/kodomo/hoiku/gakudou_jidoukan/ichiran.files/r3gakudoujyoukyou.pdf

*7:子ども・子育て会議(第60回) 資料6 委員提出資料 

https://www8.cao.go.jp/shoushi/shinseido/meeting/kodomo_kosodate/k_60/pdf/ref6.pdf

*8:役割とか目標を調べてたらこういう資料があったのでここから引用しました。

https://www.mhlw.go.jp/shingi/2009/07/dl/s0728-8b_0001.pdf

*9:小1プロブレムとは?起こる原因と保育園でできる幼保小連携などの対策 | 保育士求人なら【保育士バンク!】

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