「子ども子育て支援全国総合システム」の理想と現実と、次期システムについて調べてみました

壊れたパソコンのイラスト(コンピューター)
 おはようございます、ほづみゆうきです。前回*1は「オープンデータ官民ラウンドテーブル」という政府の会議に保育園などの施設に関するデータをオープンデータとして公開してほしいという要望を出したことについて書きました。今回の記事は、要望を出すにあたってのウラ事情というかその補足です。

 

 全国の保育園や幼稚園などの施設データがオープンデータとして公開されれれば保護者にとって非常に便利になるので公開してほしいとは前々から思っていたものの、これは結構難しい要望だと思っていました。なぜならば、そのデータそのものは全国1700程度の各自治体が保有しているデータで、中央省庁で把握しているものではないためです。過去のオープンデータ官民ラウンドテーブルのログを見ると自治体のみが把握しているようなデータを要望しているケースもありますが、その場合は「自治体にオープンデータ化を促す通知を発出」みたいな感じでお茶を濁されていて*2、要望を出したところで結果何も実現されないということになってしまうのではないかと考えていました。したがって、公開の要望を検討するにあたって施設のデータがオープンデータ化されれば絶対素晴らしいとは思いつつも、当初は今回のように提案を出すことにはそれほどポジティブではなかったのは事実です。

 しかしながら、今回の公開要望の件を受けて現在の保育や子育てに関するデータの公開状況などを改めて調べているうちに施設データの公開は「実現困難」であるどころか「今実現していないのがむしろおかしい」ということが分かり、今回の要望を行うに至ったのでした。今回はこの辺りの経緯について書いていきます。

内閣府は、全国の施設データを把握している(はずだった)

その名は「子ども子育て支援全国総合システム」

 時は平成27年(2015年)4月、「子ども・子育て支援法」が施行され「子ども・子育て支援新制度」がスタートしました。主要なポイントは以下のような点と言われています。

認定こども園、幼稚園、保育所を通じた共通の給付(「施設型給付」)及び小規模保育等への給付(「地域型保育給付」)の創設、

認定こども園制度の改善(幼保連携型認定こども園の改善等)、

③地域の実情に応じた子ども・子育て支援(利用者支援、地域子育て支援拠点、放課後児童クラブなどの「地域子ども・子育て支援事業」)の充実 

 要するに、今の保育園やこども園などの利用に関する制度の大きな枠組みができたタイミングということです。この制度のスタートと同時に、とあるシステムも稼働をはじめました。その名は「子ども子育て支援全国総合システム」。その名のとおり、新制度後の業務を円滑に行うための電子システムです。 

 発注者は内閣府、調達を落札したのは東芝ソリューション(現在は東芝デジタルソリューションズ、落札額は約3.5億円(349,224,480円)*3

さらに詳しく知りたい人はこちらも参考になる。

調達仕様書に対する意見招請結果内閣府のサイトのPDFにリンク)

調達計画書内閣府のサイトのPDFにリンク)

f:id:ninofku:20191220061449p:plain

「子ども子育て支援全国総合システム」の目的

 このシステムの構築目的は以下の3点とされています。

① 市町村等における施設の確認及び支給認定並びに給付費国庫負担金の交付等の新制度の実施に関する情報を総合システムに収集して、分析することにより、新制度の更なる充実等に活用するとともに、これらの情報の公表により国民に対する説明責任を果たすこと

② 全国の確認施設に関する最新の情報を総合システムに順次収集するとともに、都道府県において、これらを出力できるようにして、保護者に対して確認施設の選択に資する最新の情報をいち早く公表できるようにすること

③ 市町村等における給付費国庫負担金の交付申請等に関する事務を支援し、当該事務を効率的に行えるようにすることを通じて、市町村職員が一層効果的に子育て支援業務を行うことができるようにすること*4

 つまり、「新制度におけるデータの分析」「保護者の情報提供」「新制度にかかる自治体の業務支援」を目的としたシステムです。今回の議論に直接関わってくるのは2点目です。そう、このシステムの開発は2015年なので、この時点から「全国の施設に関する最新の情報」を収集し、「保護者に対して確認施設の選択に資する最新の情報をいち早く公表できるようにする」という壮大なコンセプトが掲げられているのです素晴らしい!! 

「子ども子育て支援全国総合システム」の機能

 この目的は、システムの機能に現れています。以下の図は、子ども子育て支援全国総合システムの機能に関する概念図です。ここには総合システムの一部として「施設等管理システム」があること、そしてその中で保護者に向けて施設等の最新情報を公表するための機能があることを示しています。素晴らしい!! 

f:id:ninofku:20191218000130p:plain

「子ども子育て支援全国総合システム」の理想と現実

 ここまでを見ると「子ども子育て支援全国総合システム」素晴らしい!!!となるかと思います。事実、システムを開発していた2014年時点で今ほど何でもかんでもオープンにせよという外圧が社会はもちろんのこと政府の中でさえない中でこのような構想を描くというのは珍しいことで、よほど当時の担当者に思いがあったのではないかと推察します*5

 ただし、問題は結果的に計画倒れに終わってしまったということ。以下、施設等管理システムを中心にこのシステムの思い描いていた理想と現実について会計検査院の報告書から紹介します。

低調だった自治体の登録

 まず、このシステムは施設等のデータが登録されてこそ生きるシステムです。当たり前ですね、登録されていないデータは公表しようにもできません。そして、上記の概念図を見ても、全ての業務は市町村がデータを登録するところから始まっています。

 しかし、そこで大きく躓いてしまっているというのが現実です。会計検査院は20都府県と同都府県管内の173市区町にヒアリングを実施していますが、その際の登録状況をまとめたのが以下の円グラフです。

f:id:ninofku:20191218002552p:plain

 全ての施設情報を登録して、かつ全て最新に更新ができている市区町村はわずかに13.3%。全て登録はしているものの最新化できていないケース、一部のみ登録しているケースが合わせて78.1%。そして、全く情報を登録していないケースが8.6%。

 最新化できている情報がたった10%程度しかない状況では、情報源としての価値はほぼないに等しいです。ましてや現状分析に利用することは到底不可能でしょう。

自治体の登録しなかった理由

 会計検査院はなぜ登録していないのかについての理由も尋ねています。その多くの回答は「通常の業務で利用せず保有していないため」というもの。システムに登録が必要な情報の一部は通常業務で利用している項目だが、一部の項目は通常業務は把握できず、新たに情報収集を行う必要があるために登録できていない、ということのようです*6

 この点は単純に内閣府自治体の業務を理解していなかった、つまり「現場を知らない中央省庁が自治体にムチャなことを言う」というステレオタイプに当てはまるという話ではないところが非常に悩ましいところです。というのも、自治体側が「新たに情報収集を行う必要がある」として登録できていない項目として挙げられている項目は「各施設における過去3年間の退職職員数、研修の実施状況等」とされており、保護者にとっては非常に有益な情報であるためです。

 

 たとえば「退職職員数」の情報はその施設に勤めるスタッフの満足度に直結していますから、スタッフの仕事への向かい方やサービスの質に大きく影響しうるものです。近年、保育士の一斉退職や保育現場での事故のニュースが話題になることが多いですが、「退職職員数」はこれらの先行指標として活用可能だと思います

 

 内閣府はおそらく実際の保護者にヒアリングをするか、もしくは経験者が担当の職員としていたなどにより、どういった情報が保護者にとって必要かということを理想ベースで考えていたのでしょう。でなければ、既存の業務で得られない項目の公開を(自治体の反発を招くにもかかわらず)進めようとする理屈がありません。このシステムの目的のところでも触れましたが、内閣府の担当者には(実現性はさておき)高い理想があったことがここでも感じられます。

公表にあたっても使われず

 これまではシステムへのデータ登録の話ですが、保護者が情報を見られるようになるにはさらにデータの公開が必要です。この公開部分には問題がありました。想定されていた運用イメージは、総合システムから表データ(おそらくcsv形式)を出力して、そのデータを加工して各自治体で公表するというもの。システム単独で公表することはできない仕組みでした。

 その結果、調査対象の20都府県のうちでこのシステムに登録されたデータを使って一部の施設の公表を行っていたのは10県のみ。管内の全市町村の全ての施設を公表していた都府県はゼロ。そもそも公開していないか、公開しているにしてもこのシステムに登録したデータとはまた違うものを公開しているということです。

総合システムのデータを公表に使わなかった理由

 ただし、ここでも内閣府自治体の間ですれ違いが生じていることが分かります。自治体へのヒアリングの内容を見ると、システムから出力されたデータを公開していない理由として173市区町のうち72.3%(125市区町)が「保護者が確認施設を選択するに当たって必要となる項目以上に詳細な項目を羅列しているなどしていて閲覧しづらく、保護者の確認施設の選択に資するものとは考えられない」と答えています。

 一方の内閣府がこの「網羅的な表データをシステムから出力して公開」という運用でイメージしていたのはオープンデータの考え方だったのではないかと推察します。できる限り生のデータを加工しやすい形で提供する、その上で加工を自治体がやるかそれとも第三者の有志がやるかはあれど、これにより施設に関する最新の情報がより分かりやすく保護者に提供されるようになるだろうという思惑があったのではないでしょうか。しかし、この思惑が自治体側に伝わることは残念ながらありませんでした。それがこのシステムを使って施設情報を公表している自治体がゼロという結果に如実に現れています。

まとめ

 これまで「子ども子育て支援全国総合システム」の理想と現実について整理してみました。このシステムが理想のとおりに運用ができていれば、各自治体が最新の情報をWebサイト等で公表していて、内閣府は全国の最新の施設データを把握できているという未来もあり得たのです。冒頭で「今実現していないのがむしろおかしい」と書いたのは、このためです。

 

 しかしながら、現実はそうではありませんでした。会計検査院はこれまで紹介してきた「システムにデータが登録されていないこと」、「データの公表にあたってシステムのデータが使われていないこと」などを理由に、運用への改善要望を出しています。要するに、失敗プロジェクトという烙印を押されたわけです。

これまでの運用の見直し

 実は、内閣府は総合システムの後継を現在構築中です。お役所システムにはよくあることで、だいたい5年間でサーバなどハードウェアのリース契約を結ぶので(今どきオンプレかよというツッコミはさておき)、その耐用年数が来ることによるものと思われます。内閣府の資料「子ども・子育て支援全国総合システムの見直しについて」によれば、2019年3月に次期の公表システムの構築業者が決まり、2020年度から新システムのサービスが開始されることになっています*7

f:id:ninofku:20191219234636p:plain

 この「現行システムを見直している最中であること」というのが今回オープンデータ官民ラウンドテーブルに要望を挙げようと思った一番の目的です。現行システムの顛末を見ていく中で、保護者の立場で保護者にとっての必要な情報について訴えるということの重要性を強烈に感じたためです。これは、システムを運営する内閣府と、データの登録と公表を行う自治体のそれぞれに対してあります。

 まず内閣府に対しては、現行のシステムの持つ高い理想を維持してもらうにあたって重要と考えます。計画倒れで終わったものの、現行システムは保護者の思いに寄り添い自治体が現状把握していない項目まで登録することを求めたり、表データを出力するなどオープンデータに近い構想も描いていました。現行システムの失敗に反省して、これらの理想を全て投げ捨てて、自治体側が登録しやすい(そして、保護者にとっては価値のない)公表データになる可能性は高いのです。ですから、このコンセプトは素晴らしかった、ぜひこの高い理想のままで今度は実現可能な形で運営してほしいと訴える必要があります

 

 一方の自治体に対しては、施設に関するデータの保護者にとっての必要性を理解してもらうためです。現行システムで自治体がデータを登録していなかった理由の一つは、「データを把握していない」というものでした。けれども、今手元にあるかどうかなどは本来関係のない話です。問題はそれが施設の利用を希望する保護者たちにとって必要な項目であるかどうかで、それが必要なものであれば収集する情報に加えるべきでしょう。

 また、データの公表にあたっても、多くの自治体がデータを公表しないのは「保護者の確認施設の選択に資するものとは考えられない」という理由からでした。これは勝手な思い込みです。それが役に立つかどうかは自治体が考えるべきことではありません。データが公開されることで、自治体が考えもしなかったサービスがそこで生まれる可能性だってあるのです。 

最後に

 今回は、「子ども子育て支援全国総合システム」の理想と現実について会計検査院の報告書をベースに紹介することで、なぜ今回オープンデータ官民ラウンドテーブルにデータの公開要望を出したのかについての経緯について書いてみました。

 これまで書いてきたとおり、わたしは一方的に内閣府を糾弾するというスタンスではありません。結果としてほとんど使われないシステムになってしまい、その状況に対して数年を要しても改善させることができなかった内閣府に非があることは間違いありません。とはいえ、丁寧に見ていくと自治体側に内閣府の描いていたシステムの構想への不理解と既存業務への執着がこの結果を招いているという面もあり、一概に内閣府を悪者にするのはフェアではないとわたしは思います

 であればこそ、次期のシステムには高い期待を持っています。現行のシステムの反省を活かし、今度こそは素晴らしいシステムができて、全国の保育園や幼稚園などの施設のデータが公表され、かつオープンデータとしても利用できるようになる未来が今そこにまで来ているのだと信じています。

 したがって、今回オープンデータ官民ラウンドテーブルに公開要望を出しはしたものの、「すでにシステム開発中で、運用開始の2020年4月にはすでに公開されますよ」という回答が出てくるのが最高のストーリーです。そんな答えを待ってますよ、内閣府さん。

*1:前回の記事はこちら。

ninofku.hatenablog.com

*2:具体的には以下URLの「オープンデータ官民ラウンドテーブルフォローアップ表」のNo.28「ハザードマップ 地震

オープンデータワーキンググループ 議事次第

*3:調達結果のPDFファイルはこちら

https://www.kantei.go.jp/jp/kanbou/27tyoutatu/rakusatu/4_computer/pdf/007.pdf

*4:引用は、会計検査院の検査結果報告より。以下同じ。

検査結果「子ども・子育て支援全国総合システムの運用状況について」会計検査院法第36条の規定による意見表示(29年10月24日報道発表) | 検査結果 | 検査関係 | 公表資料 | 会計検査院 Board of Audit of Japan

*5:マニアックな話ですが、今のオープンデータの方向性を決めている文書の類いは以下のようなものですが、これらは2015年以降に出されたものです。こういうものが出てない時点ですでに類似する取り組みを実践しようとしているので、先見性が見られるのです。

・「新たなオープンデータの展開に向けて」(平成27年(2015年)6月30日 高度情報通信ネットワーク社会推進本部決定)
・「オープンデータ 2.0」(平成28年(2016年)5月20日 高度情報通信ネットワーク社会推進本部決定)
・「オープンデータ基本指針」平成29年(2017年)5月30日高度情報通信ネットワーク社会推進本部決定)

*6:以下のような記述あり。

確認施設に関する情報について、登録が未完了の150市区町(173市区 町に対する割合86.7%)に登録していない理由を確認したところ、52市区町(登 録が未完了の市区町に対する割合34.6%)は、登録情報の中には、給付費の算定のために収集している情報等、通常の業務で使用している情報もあるが、各施設 における過去3年間の退職職員数、研修の実施状況等、市町村が通常の業務では使 用しないため、確認施設から別途聞き取らなければ把握することができない情報もあることから、そのような情報を登録するためには新たな情報収集を行う必要 があることによるとしていた。

*7:ちなみに、システムとして構築するのは公表部分のみで、交付金管理や支給認定状況管理の業務についてはツールの提供という方向性に変わった模様。

https://www8.cao.go.jp/shoushi/shinseido/administer/setsumeikai/h310218/pdf/2_s5.pdf

Copyright © 2016-2018 東京の中央区で、子育てしながら行政について行政について考える行政について考えるブログ All rights reserved.