はじめに
どうも、ほづみゆうきです。今回は、わたしの考える日本の行政の最大の問題点について書いてみたいと思います。これはわたし自身の過去の行政機関での経験と、近年
自治体の行政に興味を持ったことによる関連書籍からの情報に基づいています。
具体的な話もあった方が分かりやすいかと思いますので、わたしが在住している
中央区を対象として書いていますが、多くの部分は他の
自治体にも当てはまるのではないかと思います。
わたしの考える最大の問題点
最初に結論から言うと、わたしの考える行政の最大の問題点は「
改善の仕組みが機能していない」点です。もう少し具体的に言うと「
実業務の実施にあたって明確な目標設定も進捗管理もなく、結果からの改善もない」という点です。
少子高齢化や財政悪化、過疎化など個別具体的な問題は山ほどありますが、これらの問題対処の主体である行政機関の仕組みの問題こそがもっとも致命的な問題であり、解決すべきものであるというのがわたしの考えです。なぜならば、この問題があらゆる個別の問題への対処に影響を及ぼすものであり、かつ実態として世間一般の水準に対して極めて低いクオリティであるためです。さらに言えば、海外には行政機関であっても改善の仕組みが機能している事例はあり、それは決して不可能なことではないと考えるためです。
一般的な改善の仕組み
行政に限らず、何を行うにしても最初から完璧にうまく行くことはまれです。計画していたものがすべて計画通りに進むとは限りません。製造業における商品開発そのものがそうでしょうし、それを販売する段階であっても同様です。例えば新型の炊飯器の開発を2年で完了するという計画があったとしても必ずしもその期間で作ることができるわけではなく、さらに年間に10万台売れる計画だったものが1万台しか売れないこともあるでしょう。
当然このような計画とのズレが生じると問題なので、こういったことが起こらないように対処しようとするというのが一般的でしょう。この手法としてもっとも有名であるのは
PDCAサイクルではないかと思います。
生産・品質などの管理を円滑に進めるための業務管理手法の一。(1)業務の計画(plan)を立て、(2)計画に基づいて業務を実行(do)し、(3)実行した業務を評価(check)し、(4)改善(act)が必要な部分はないか検討し、次の計画策定に役立てる。
kotobank.jp
Plan) 事前に綿密な計画を立てる
まずは計画そのものについてしっかりと検討することが挙げられます。何を目的として、いつまでに何を実現させるのか、そしてそれを実現させるための
経営資源(いわゆるヒトモノカネ)はどのように配分するのか。こういった内容を盛り込むことにより、実現性の高い計画となります。なお、計画には長期的なものもあれば短期的なものもあり、それぞれに求められる要素は異なります。
Do) 計画に基づいて実行する
次に、計画に基づいて実行する段階です。計画の進捗を定期的に確認することにより、計画の遅延などの問題発生それ自体を防ぐという手段があります。週次や月次で状況を確認することにより問題が大きくなる前に対処することができます。
Check,Action) 実施した内容を評価し、改善する
最後にこれまでの計画の実施がうまく行ったのか否かを評価する段階です。どれだけ周到に計画を管理したとしても、うまく行かない場合もあります。その場合にできることはその内容を評価して、そこから得られた知識を蓄積して必要があれば改善することでしょう。これにより、次の計画の成功率を向上させるとともに計画の精度を高めることが期待できます。
行政における改善の仕組みと実態
それでは行政の世界でこういったことはどのように扱われているでしょうか。それぞれのポイントに対して、一般的な仕組みの説明と、その具体例として中央区の情報について示します。
Plan) 事前に綿密な計画を立てる
自治体においては一般的に長期的な計画として「総合計画」が定められています(なお、元々は地方自治法により義務づけられていたものですが、2011年5月改正により義務づけが撤廃されました)。これに基づいて、「基本構想」と「基本計画」が作られていることが多いです。この他、短期的な計画としては毎年の予算が挙げられるでしょう。この意味でまったくの無計画で行政が行われているわけではありません。
中央区を例に取ると、
中央区のwebサイトには「区政運営のマネジメントサイクル」というページがあり、その中には以下の記述があります。
中央区をどんなまちにしていくのかという
基本構想を定め、それを実現するには何を、いつごろ行っていけばよいのかといった
基本計画をたてて施策を決めていきます。この計画をもとに、
行政評価を行い、計画の進ちょく状況を点検するとともに、施策を取り巻く環境の変化を踏まえ、
予算編成につなげていく「区政運営のマネジメント・サイクル」を構築しています。
計画全体の大枠としての「基本構想」*1がまずあって、その内容について何をいつまでにといった具体的な計画を盛り込んだ「基本計画」*2があることが分かります。これらの計画に基づいて「予算編成」があり、その進捗状況を点検するものとして「行政評価」があります。
それぞれの位置づけは以下に示す「
中央区のマネジメントサイクル」という図が分かりやすいかと思います(「
平成28年度
中央区行政評価」より引用)。
個々の施策については年度ごとの計画があるわけではありませんが、主要なものについては「予算(案)の概要」なる資料に記載があります。これは予算のページにあります。以下は28年度の予算のものです。
上記の記載のとおりであれば、しっかりとしたマネジメントサイクルが構築されているように見えますが、実態としてはどうでしょうか。わたしの考えるPlan段階における問題点は大きく2点です。
問題点1:基本構想から個々の施策が導き出されていない
1点目は基本構想から個々の施策が導き出されていないという点です。上記のマネジメントサイクルから明らかであるように、基本構想がまずあって、それを具体的に何をどこまで、いつまでどのように実現するのかということが導かれるというのが本来のあるべき姿ですが、そうであるようには思えません。
なぜそう考えるのかというと、
基本構想が変わっても個々の施策の内容がほとんど変わっていないためです。現在の基本構想は18年前の1998年に策定されたもので、現在
中央区はこの改訂作業を行っているところです。今年の10月に新たな答申に関する中間まとめが出てその内容を見たところ、基本構想自体としては色々と新しいことが書いてあるものの、具体的な施策の指針となると思われる「施策のみちすじ」という項目になると現在の基本計画で実施している内容とほぼ変わらない項目が並んでいます。
詳細は上記のファイルをご覧いただきたいと思いますが、多少カテゴリの括りが変わってはいるものの、基本計画の内容と対応づけられる項目がほぼ全てでした。
結局のところ、現在実施している施策について何の検証を行うこともなく、これまでと同じことを同じように継続しようとしているようにしか思われません(新たな基本構想については
パブリックコメントに数点意見を提出したので、これは今後紹介します)。
問題点2:目標設定が曖昧である
2点目に「何をいつまでに実現するのか」といった目標設定が曖昧である点です。基本計画には「施策の達成状況の目標となる指標」という項目はあるものの、全てに設定されているわけではありません。また、設定されているものについてもその施策が順調に実施されているかどうかを測る物差しとして適当であるとは思えないものがいくつもあります。ちなみに一番酷いと思ったのは「『かしこい消費者』の育成」という施策に対する指標で、その指標は「消費生活センターホームページ閲覧数」です。つまり、「消費生活センターのホームページを閲覧する人が増えれば、賢い消費者が増える」というロジックであるわけです。とりあえず適当に数値化できるものを用意しておけば良いだろうという施策担当者のいい加減さに加えて、評価担当部署の妥当性を判断する機能のなさも露わになる興味深い指標です(参考までにリンクを貼っておきます)。
これらの結果として、目標は「
絶対に実現しなくてはならない」という位置づけではなく、おおよその方向性程度の意味合いしか持っていません。扱いもいい加減であり、次期の基本構想の策定においてもこれまでの目標の進捗がどの程度だったかといった評価は一切行われていません。現在
中央区では新たな基本構想を作るべく審議会を立ち上げていますが、その中身を一通り見てもこれまでの基本構想、基本計画で定められたことが実現したか否かについての記述はありません
*3。
Do) 進捗を管理して、問題発生を防ぐ
上に記載したとおり、Planの段階では一応しっかりとした形があるのに対して、
進捗管理はあまり重視されておらず、
住民が個々の施策の進捗状況を知る機会はほとんどないと言わざるを得ません。無理矢理当てはめるとすれば決算が該当するかと思われますが、これが公表されるのは大抵年度が終わって半年後あたりであり、もはや進捗の報告ではありません。また、報告の内容も何にどれだけ予算を費やしたかについての情報であり、個々の事業の概況を示すものではありません。
中央区では、直近3年の状況を見る限り決算の時期は翌年度の10月半ばあたりのようです。内容はカテゴリごとの予
算額と支出額の対比を示しているだけであり、個々の事業の成否を判断できるようなものではありません(参考に最新の27年度決算のリンクは貼りますが、ただの数字の羅列であり価値のある情報ではありません)。
かろうじて具体的な中身を把握できるのは「主要な施策の成果説明書」ですが、実施した内容を羅列しているだけであり、どういった計画に対してうまく行ったのか否かを判断できません。そして、これも公開されるのは年度が終了してから半年後であり、進捗を把握するためのものではありません。
このように、Do段階における問題点は、個々の施策の実施状況を実施期間中に知る手段がほぼ存在しないという点です。個々の施策の中で断片的に通知をしているということはまったくないわけではないにせよ、区として体系的に現在の進捗状況を報告するような営みは現状行われていません。
Check,Action) 実施した内容を評価し、改善する
実施内容の評価については「行政評価」という制度が存在しており、自治体においては必ずしも義務ではないものの、多くの自治体で実施されていることになっています。若干古いものの、2014年に総務省が「地方公共団体における行政評価の取組状況等に関する調査」を実施しており、この結果によれば調査対象全体では6割程度であるものの、都道府県レベルでは100%、指定都市では95%で実施されています。なお、東京23区では100%では実施されています。
中央区においても行政評価の取組は毎年行われており、この結果はWebサイトから閲覧することができます。
大まかには以下のようなスケジュールで進められています
(「平成28年度 中央区行政評価」より引用)。
上記のとおり、ある年度の業務が終了した以降にまずは各部局において評価を実施し、その内容を評価担当の部署とのやり取りの後に行政改革推進本部(本部長は区長)に報告されるという流れとなっています。そして、この内容は新年度の予算編成や今後の評価方法の改善に役立てられることになっています。
Plan段階と同様、上記の記載のとおりであれば綺麗なマネジメントサイクルが構築されているように見えますが、実態としてはどうでしょうか。わたしの考えるCheck,Action段階における問題点は大きく2点です。
問題点1:評価結果の基準が不明瞭である
1点目には
評価の基準が不明瞭である点です。
中央区の行政評価では個々の施策の評価シートに対して「順調」「概ね順調」「順調とはいえない」の3段階の判断結果が下されることになっていますが、何をもってそれぞれの結果になったのかが不明瞭です。
例えば最近各方面から注目を受けていて、わたしの家庭でも最大の関心事でもある保育園に関しては「保育・育成環境の充実」という施策が設定されており、指標は「
保育所入所待機児童数」で目標値は「0人」です
*4。
この目標に対して、25年度で193人、26年度で135人と減少傾向にはあるものの27年度の待機児童数は「119人」であり、明らかに「0人」という目標には満たない状況です。にもかかわらず、この施策の評価は3段階評価の真ん中である「概ね順調」という評価です。この点について
パブリックコメントで問いただしたところ、「評価にあたっては、指標値だけでなく、事業の実施状況や成果、これによる施策の達成状況や課題を明らかにし、総合的に判断しております。」との回答がありました。
具体的に何を「総合的に判断」してこうなったのかは依然として不明です(
平成28年度行政評価に対する
パブリックコメントにもいくつか意見を提出しているので、こちらもいつか紹介します)。
問題点2:評価結果の取り扱いが不明瞭である
もう1つの問題点は、それが実態として次のアクションを引き起こすものとして位置づけられているわけでもない点です。これは問題点1として挙げた基準が不明瞭であることと不可分でしょう。何かしら明確な基準で善し悪しの判断が行われない限り、その結果に基づいて何らかの決断を下すことは不公平感をもたらすであろうからです。
先に説明したとおり、行政評価は新年度の予算編成に役立てることになっています。しかしながら、
評価結果が予算編成に反映が為されているかどうかについて判別することは極めて困難です。なぜならば、予算書の中に行政評価の結果により予
算額を増やした(減らした)といった記述が明示的に見られるわけではないためです。
また、現在の制度上は評価結果を速やかに反映できる仕組みにはなっていないことも大きな問題です。例えば2015年度の評価結果を2016年度の予算に反映させることは不可能です。理由は簡単で、2015年度の行政評価の結果が固まるのは2016年の10月頃であり、その時点ではすでに2016年度の予算は固まっていて、さらに半年分はすでに執行している状態であるためです。そうするとどんなに頑張ろうとも反映できるのは2017年度となってしまいます。全体の大まかな流れを以下に示します(本ブログ作成)。
終わりに
中央区の実態を踏まえながら、行政における
PDCAサイクルの仕組みとその実態について紹介してきました。これらを総じて言うと、冒頭に書いたように「
業務の実施にあたって明確な目標設定も進捗管理もなく、結果からの改善もない」ということになります。これは多くの方が思い描くような典型的な役所仕事のイメージに合致するのではないでしょうか。これだから公務員はけしからんとお思いの方もいらっしゃるでしょう。ただし、わたしは
ステレオタイプな公務員批判でこれらの問題を片付けたいわけではありません。なぜならば、そういった批判をしたところで行政の果たすべき役割がなくなるわけでも何らかの改善が為されるものでもないためです。
わたしが考えたいのは「このような行政のあり方をどうすれば改善することができるのか」という点です。この点について掘り下げていくために、次回では「なぜ行政の改善サイクルは機能しないのか」という点についてわたしの意見を書きたいと思います。
2017/07/30追記)
この記事の続きは以下です。行政の改善サイクルの原因と改善への道筋について、さらに掘り下げています。こちらもぜひ、合わせてご覧ください。