なぜ中央区の待機児童は年々増えているのか?(過去5年のデータから振り返る)
こんにちは、ほづみゆうきです。今回も中央区の保育園ネタです。先月に東京都が公開している待機児童のデータを元に、東京23区の保育サービスの利用しやすさについての記事を書きました。
この記事を書いたことで初めて気付いたのは、わたしが在住している中央区は「保育サービスの利用しやすさ」のランキングでほぼ底辺をさまよっていることでした。直近の平成29年4月で21位、過去5年で見ても常に最下位圏にとどまっています(21位→16位→16位→19位→21位)。今回の記事では、なぜこういった状況になっているのかについてもう少し詳細に分析してみたいと思います。
過去の数値の推移の確認
区ごとの指数ランキング結果
まずは過去の記事で紹介したランキングを再掲します。各年度での区ごとの「保育サービス充足指数」を並べて順位付けした表です。「保育サービス充足指数」とは自治体間での保育サービスの利用しやすさ(保育園への入りやすさ)ををある程度正確に測るためにわたしが勝手に作った独自の指数です。求め方は以下のとおりです。
「保育サービス充足指数」
= 100 − ((待機児童数 ÷ (保育サービス利用児童数 + 待機児童数) × 500)
指数が90以上である年度は「入りやすい」と判断し、指数と順位の箇所を赤字にしています。一方、指数が70以下である年度は「入りにくい」と判断し、指数と順位の箇所を青字にしています。なお、指数のそれぞれの意味は以下のとおりです。あくまで入りやすさの指標であり、指数「100」以外は少なからず待機児童が出ていることに変わりはありませんのでご注意ください。
保育サービス充足指数が「90」以上である
→ 4月時点での待機児童の割合が希望者全体のうちの2%以下である
保育サービス充足指数が「75」以下である
→ 4月時点での待機児童の割合が希望者全体のうちの5%以上である
そして、過去5年間のこれらの指数の傾向を見て、入りやすいと判断した区は区名を赤字、入りにくいと判断した区は青字で記載しています。
データはこちらからも閲覧することができます。
東京23区の保育サービスの提供状況(Googleスプレッドシートが開きます)
中央区の状況
中央区の現状は見てのとおりです。ランキングとしては冒頭に書いたとおり21位→16位→16位→19位→21位で常に最下位圏。保育サービス充足指数の値としても60から70の間をさまよっている状況(希望者のうち、6〜7%が待機児童)で、東京23区の平均値から見ても常に低い値にとどまっています。以下は中央区と東京23区の平均値との保育サービス充足指数のグラフです。
平成26年度は例外的に80に近い値で平均にかなり近くなっていますが、それ以外の年度では平均にすら遠く及んでいません。このような結果を受けて、わたしは前回の記事で中央区を他のいくつかの区とあわせて「保育園に入りにくい区」として整理しました(以下、再掲)。
<保育園に入りにくい区>
・中央区(直近4年間で年々指数が悪化しており、改善傾向も見られず。今年度は後ろから2番目)
・台東区(直近3年で指数が悪化、60台の状態が続いている)
・目黒区(過去4年で常に底辺を維持、特に29年度は23区で唯一の指数50割れ)
・世田谷区(過去5年で常に最底辺クラス、ただし29年度には若干改善)
・渋谷区(継続して悪化傾向にあり、ただし29年度には若干改善)
・中野区(過去4年で常に底辺を維持、改善傾向も見られず)
中央区の待機児童が増え続ける理由
さて、これまでは過去5年間のデータから中央区の保育サービスの利用しやすさが東京23区の中でも極めて低い水準にあることを改めて整理してみました。それでは、次になぜこのような低い水準にとどまっているのか、そしていつになっても改善されないのでしょうか。この点について考えてみます。
なお、これからの議論では中央区の現状を分かりやすく示すために、東京23区の平均のデータと豊島区のデータを比較対象として用います。23区平均のデータは全体の平均でどの位置であるのかを示すためです。また、豊島区のデータを用いるのは良い事例(グッドプラクティス)との比較を行うためです。豊島区は平成25年度時点では保育サービス充足指数が東京23区で最低でしたが、年々数値を向上させており、ついに平成29年度には100、すなわち待機児童ゼロの状態を実現しています。過去5年間の待機児童の推移は以下のとおりです。面白いくらいに中央区と豊島区の待機児童数は対称的です。
それでは本題に入ります。なぜ、中央区では待機児童が増え続けているのでしょうか。結論から言うと、直接的な理由は極めて明確です。
① 他の区と比較して、圧倒的に子どもの数が増えている
② 子どもの数の増加に対して、保育サービスの拡充が不十分
① 他の区と比較して、圧倒的に子どもの数が増えている
1点目としては、他の区と比較して圧倒的に子どもの数が増えていることが挙げられます。中央区では過去5年間で子どもの数が急速に増えています。以下のグラフは、平成25年度の値を100として、その後4年間の就学前児童数の伸び率を表したものです。
ご覧のとおり、中央区の伸び率は東京23区の平均を圧倒しています。23区平均ではだいたい+6%程度の伸びですが、中央区に至っては+32%。平均と比較すると5倍以上の伸び率です。豊島区は平均よりも増えているものの、それでも+10%程度です。
② 子どもの数の増加に対して、保育サービスの拡充が不十分
子どもの数が増えれば当然保育サービスの利用を希望する人も増えます。 したがって、この子どもの数の伸びに対応するだけの保育サービスを拡充していなければ、待機児童数は増え続けてしまうことになります。これがまさに中央区が陥っている状況です。子どもの数の増加に対して、保育サービスの拡充が不十分なのです。
以下のグラフは、平成25年度の値を100として、その後4年間の保育サービス利用児童数の伸び率を表したものです。利用児童数とは何らかの保育サービスを利用している子どもの数で、区での保育サービスの供給量と考えていただいて構いません。
いずれの区においても保育サービスの供給量は増えています。そして、中央区は23区平均に対しても豊島区に対しても供給量の伸びは上であることが分かります。つまり、他の区よりも保育サービスの供給量は増えているのです。しかしながら、供給量の伸びは先ほどの子どもの数の伸びほどでありません。東京23区平均での伸び率は+29%に対して中央区では+54%であり、平均と比較して2倍弱といったところです。これでは5倍以上の伸びを示している子どもの数の増加に太刀打ちできるわけもありません。
ちなみに、豊島区は中央区よりも子どもの数の伸びが緩やかであるにもかかわらず、23区平均よりも供給量を増やしています。その平均との乖離は年々増しており直近の平成29年度には+45%の伸びとなっており、この供給量の増加により待機児童ゼロを実現しています。
結論と今後の展望
結論です。記事タイトルの問い、すなわち「なぜ中央区の待機児童が年々増えているのか」という問いへの答えは、子どもの数の増加ほどに保育サービスの供給が増えていないため、ということになります。正直なところ、この状況を簡単に改善することはできないでしょう。まずは子どもの数の増に歯止めがかかると思えません。今も中央区の人口は増え続けており、その傾向は今後も続くだろうと思われるためです。わたしの住んでいるマンションの近くでもいくつか新たなマンションが建設中ですし、2020年の東京オリンピック・パラリンピックの選手村は開催後にマンションとして供給されるなどという話もあります。
一方で保育サービスの供給量を急に増やすことは困難です。よく言われているのは保育士の不足です。東京都での保育士の有効求人倍率は1.93倍(2015年10月)です。また、保育士資格を保有している人が保育所に就職する割合は半数にとどまるというデータもあり、単に人材を養成すれば良いというわけでもなく現在の処遇の改善も考えなければならないところに問題の根深さがあります。この他、保育園を作るにあたってのコストが高いという問題もあります。長期的な展望では子どもの数は減っていくため、将来的に不要となる施設をどこまで作るべきかという議論もあります。さらに、作るにあたっては用地の確保や周囲の住民からの了解を得る必要もあります。
これらの問題に対しての一つの有効な選択肢としては、フローレンスの駒崎弘樹さんが進めておられる小規模保育の拡充があるのではないかと考えています。
全国で見ると、小規模保育事業は大幅に拡大してきており、2016年度では前年度比46%の成長率を誇っているとのことです。
また、中央区を省みると小規模保育事業などの保育園以外の保育サービスの供給量は少ないと思われるのです。中央区で小規模保育事業を行っているのは2箇所だけです。
この他、保育ママ(家庭的保育事業)を行っている人も3名のみです。
現在これらのサービスの東京23区での比較表を作成中ですが、他の区と比較しても中央区はこれらの供給量が低いように感じています。今後も増え続ける保育サービスへの需要への対応のためには、これらの保育園以外の保育サービスの供給増も不可欠であろうとわたしは考えています。このあたりの今後の展望についてはもう少し調べた後に改めて記事を書きます。