東京23区の保育園の申込状況と当落ラインに関する情報の開示レベルを比較してみました。
おはようございます、ほづみゆうきです。若干間が空いてしまいましたが、また保育園関係のネタを投下します。今回は、東京23区における、保育園の申込状況における情報公開のレベル(どの程度公開されているのか?)について整理してみます。
元々の発端は、わたしが過去から行っている中央区に対する開示請求です。わたしは2年前に0歳児枠で娘を預けようとしたのですが、あえなく全ての希望園で落ちてしまいました。結果としては仕方ないと思うものの、わたしがその時に納得が行かなかったのは入園に関する情報がほとんどWeb上などに公開されていないということでした。「どの保育園が人気なのか」、「だいたいどの程度の点数であれば保育園に受かるのか」といった内容は、保育園に申し込む全ての親が知りたいと思う情報でしょう。これらの情報が事前に十分に開示されないからこそ、必要以上に楽観したり悲観したりすることになるのです。例えば、明らかに認可に預けられないことが明らかなのであれば、早々に認証や認可外を目指すという戦略もあり得ます。にもかかわらず、中央区においてはこれらの情報がほとんど開示されていなかったのです。
当時のこの問題意識からわたしは何度かの開示請求を行い、その中で手に入った情報を元にいくつかの記事を書きました。1つ例を挙げると、以下の記事は歳児別の利用調整指数の分布と定員数を比較することによって、「だいたいどの程度の点数であれば保育園に受かるのか」を分析したものです。半年前に書いた記事ですが、今なお多くのアクセスがあります。
直近で開示請求をしている内容は、上記の記事の内容をさらに深掘りするものです。この記事で用いたのは平成27年度(2015年度)と平成28年度(2016年度)だけですが、今回要求しているのは平成25年度から平成29年度までの情報で、かつ調整指数の合計値だけではなくその内訳も求めています。
予想通りと言うべきか、11月初旬に不開示の通知があり、その後に速やかに審査請求の手続きを行いました。第2ラウンドのようなものです。そこから年末に弁明書が来ており、現状はその意見書を書いているところです。大まかなフローは以下のとおりです。
この意見書の付属資料として東京23区の他の区がどの程度これらに関する情報を開示しているかを整理して提出することを考えており、この情報は多少なりとも社会的価値があるだろうと思いましたので記事として公開することとしました。
保育園の申込状況における開示レベルの調査の内容と方法
調査の内容
この調査は、東京23区の各区について保育園の申込状況と当落ラインに関する情報の開示レベルを調べるものです。具体的には、Webサイト等で以下のような2つの観点から情報を公開しているかどうかについて調べてみました。
1) 保育園への申込状況
各区での保育園の利用調整に当たっての申込状況について公開しているかどうかです。申込者の歳児クラスごとの数字だけのところもあれば、個々の保育園レベルで公開しているところあります。
この情報を開示することによって、歳児クラスや保育園という単位でどの程度の申込者がいるのかどうかを掴むことができます。もちろん毎年ごとに状況は変わっているので昨年の情報が役に立つわけではありませんが、複数年度の情報があればおおよその方向性、増減の程度は見えてくるはずです。
2) 内定者の調整指数の下限
もう1点は、各区での保育園の利用調整に当たっての内定者の調整指数の下限、つまり当落ラインの点数について公開しているかどうかです。こちらも歳児クラスごとでの数字を出しているところもあれば、個々の保育園で公開しているところもあります。
この情報を開示することによって、どの程度の点数を取れば入園が可能であるのか(不可能であるのか)という目安を知ることができます。明らかに不可能であることが事前に分かっていれば、それに対して何らかの対処を行うことができます。例えば、認可保育園を諦めて認証・認可外に注力する、事前に点数を上げるための努力をする、極端に言えば他の地域に引っ越すということもあり得るでしょう。
調査の方法
調査方法としては、単純にそれぞれの区のWebサイトをそれぞれ開いて、必要となる情報を拾い上げました。なお、過去に何度か同様の調査をやっていますが、あくまで目視で行っているものなので抜け漏れ誤り等がある可能性があります。おかしな点がありましたら速やかに修正しますので、ご指摘ください。特に一部の区では保育園の募集案内の冊子PDFからわざわざ文字情報を削除していたり(中央区、葛飾区)、紙をスキャンしたものをわざわざWebに公開していたり(江東区)という状況なので、この辺りの区は特に情報が抜けている可能性があります。
なお、今回いくつかの区では該当する情報を見つけることができませんでした。この場合には表中に「(発見できず)」と記載しています。これらについても今後情報があれば追加・修正を行っていきますので是非情報提供いただければとおもいます。
調査の結果
調査の結果を取りまとめた一覧は以下のとおりです。例のごとく、Googleスプレッドシートに公開しています。なお、個々の項目の意味が分かりにくいかと思いますので、以下のとおり定義を示しておきます。詳細については以降に書いていきます。
<補足事項>
指数優先:
利用調整において、希望園の順位よりも調整指数の順位が優先される方式
希望園優先:利用調整において、調整指数の順位よりも希望園の順位が優先される方式
希望上限:申込書に記載できる最大の希望保育園数
状況(歳児別):歳児別の申込状況の情報を開示している場合に〇
状況(園別):保育園別の申込状況の情報を開示している場合に〇
希望1位表示:申込者の希望園1位だけの申込状況の情報を開示している場合に〇
最低指数(歳児別):歳児別で内定した最低の調整指数の情報を開示している場合に〇
最低指数(園別):保育園別で内定した最低の調整指数の情報を開示している場合に〇
同一指数:同一の調整指数で合否が分かれた場合に何らかの識別できる情報を開示している場合に〇
保育料階層:内定者の保育料階層を開示している場合に〇
分布(歳児別):歳児別での調整指数の分布を開示している場合に〇
分布(園別):保育園別での調整指数の分布を開示している場合に〇
「申込状況の開示」に関する考察
総評
申込状況については、23区中16の区が何らかの情報を公開していました。この内、「保育園別」の情報を公開していたのが13区。一方で、「歳児別」の情報しか公開していないのは3区。それぞれある程度自明ではあるかと思いますが補足しておくと、「保育園別」というのは以下のように保育園ごとにそれぞれの歳児別での申込者数を公開していることを意味します(以下は文京区のWebサイトから引用)。保育園ごとの申込者が明らかにされることによって、冒頭にも書いたようにそれぞれの保育園がどの程度人気なのかについておおよその傾向を掴むことができます。
「歳児別」の情報のみを公開しているというのは、以下のように歳児ごとの申込者の情報しか公開していないということです(以下は中央区のWebサイトから引用)。これでは個々の保育園でどの程度申込があるのかという点は一切分かりません。どちらが望ましいかと言えば、間違いなく「保育園別」の方が望ましいです。このような公開を行っているのは、千代田区、中央区です。
特徴的な取り組み
一部の区で見られる特徴的な取り組みとして挙げておきたいのは、申込の状況の中で、第1希望の申込者数と第2希望以下での申込者数を併記していることです。やり方は区によって若干異なっていますが、7つの区で実施されています。以下のような形式で、例えば「大久保第一保育園」の0歳クラスは第1希望で希望した申込者は6人、第2希望以下で希望した申込者は43名です(以下は新宿区のWebサイトから引用)。
これは保育園ごとの人気をより正確に測る上で非常に有用な情報です。というのも、申込者は複数の保育園を希望することが一般的で、第1希望に書こうが第10希望に書こうが、単に申込者数としてまとめてしまうとどちらも「1」としてしかカウントされないためです。
第1希望の情報だけをピックアップして公開することによって、個々の家庭が「本当にどこの保育園に入れたいと思っているのか」 といったことが分かるようになります。そして、この人気が分かれば、例えばあまり調整指数の高くない人であれば相対的に人気のないところを第1希望に選ぶことで他の申込者との競争を避けるといった戦略も取ることができるようにもなります。
中央区の位置付け
中央区は上記のとおり、「歳児別」の申込状況しか公開していません。「保育園別」の情報は公開されておらず、ましてや第1希望の申込者数が公開されていることもありません。一部の区ではこれらに関する情報をそもそも見つけることができなかったものの、少なくとも見つかった中では最低の情報公開レベルです。
「当落ライン」に関する考察
総評
次に、当落ラインに関する調査です。こちらについては、23区中15の区が何らかの情報を公開をしていました。この内、「保育園別」の情報を公開していたのが14区。一方で、「歳児別」の情報しか公開していないのは1区。補足しておくと、「保育園別」というのは以下のように保育園ごとにそれぞれの歳児別での内定者の下限の点数を公開していることを意味します(以下は中野区のWebサイトから引用)。例えば「南台」保育園の1歳児クラスの内定者の下限の点数は「42」であったということです。
保育園ごとの下限の点数が明らかにされることによって、それぞれの保育園でどの程度の点数であれば入園できるのかについての大まかな目安を知ることができます。
他方で「歳児別」の情報のみを公開しているというのは、以下のように歳児ごとの申込者の情報しか公開していないということです(以下は中央区のWebサイトから引用)。悲しいことに、今回調査をした中でこのような中途半端な公開をしているのは中央区だけでした。これによって、例えば3歳児クラスで申込をするのであれば「32点あればどこかの保育園に入ることができた」ということは分かるものの、その人が内定した保育園がどこなのか、自分の希望する保育園なのかどうかということは分かりません。
特徴的な取り組み
当落ラインに関する情報の公開に関しては、いくつもの特徴的な取り組みがありましたので、それぞれ例を挙げながら紹介します。ごく一部の区でしか実現されていないものばかりですが、ぜひ他の区、ひいては全国の自治体に広まるべき素晴らしい取り組みであると思います。
① 同一点数での決定時の注記
1点目は同一点数での決定時の注記です。保育園の利用調整にあたっては基本的に必要性を点数化した調整指数で行いますが、これだけでは同じ点数に大量の申込者が固まることになります。この場合、同じ点数での人を全て合格にするわけにも不合格にするわけにも行かないため、当落ライン上に同じ点数の申込者がいるにはその中での優先順位を決める必要があります。優先順位の設定は区によって様々ですが、よくあるのは年収の低い方だったり、自治体への居住年数の長い方といった基準があります。
この、「調整指数ではなく優先順位で決まった」という点を示してくれているのが江東区の以下の表です。同点者がいた場合には点数の横に「(優)」というマークを表示させています。例えば「うぃず清澄白河駅前」は0歳児から3歳児まで、いずれも調整指数が同点の申込者がいて、優先順位で合否が決まったことが分かります。
表示の方法は区によって異なりますが、江東区、大田区、北区はこの情報を公開しています。
この情報も極めて重要です。というのも、1歳児クラスのような激戦区には大量の申込者が殺到することになることから、単純に調整指数の下限に達しているだけでは安心できないためです。以下は、過去に調べた平成28年度4月の中央区の歳児クラス別の利用調整指数の分布です。1歳児の申込においては、40点(両親ともフルタイムで追加の点数なし)の申込者が395人も固まっていました(詳細はこちらの記事をご覧ください)。他のクラス、他の指数を見れば、この集中具合が異常であることが分かるでしょう。このような状況で、たとえば下限の点数が40点とあったとしても、現実的には内定は困難なのです。
② 保育料の階層
2点目は、保育料の階層の情報です。これは正直、そこまで公開するかとも思いましたが、個々の保育園の内定者の保育料の階層の下限を公開しています。この情報を公開しているのは品川区だけです。保育料の階層は申込者の世帯の所得税の額によりますので、この情報までを公開しているということです。「一本橋」保育園の1歳児クラスでは「D22」という記載があります。
この「D22」という値は保育料の算定に使われるもので、以下の対照表を見ると、この保育園に内定した人は「市町村民税665,000円以上、772,600円未満の世帯」であることを示しています。
③ 調整指数の分布
3点目からは調整指数の分布です。こちらも歳児別に公開している区と、保育園別に公開している区で分かれています。歳児別での分布は以下のとおり、歳児ごとの調整指数の分布を示しているものです(以下は目黒区のWebサイトから引用)。調整指数の分布を歳児別で公開しているのは目黒区だけでした。これを見ると、0歳児クラスでは41点までの人は大半が内定していて、40点が当落のボーダーラインとなっていることが一目瞭然です。ただし、保育園ごとの情報ではないことからそれぞれの保育園でのボーダーラインまでは分かりません。以下の表のとおり、42点であっても不承諾となっている方が1名いることから、この方は人気のある園に希望したのであろうことが推測されます。
次に保育園別の調整指数の分布です。こちらはさらに詳細な情報で、調整指数の分布を保育園ごとに公開しています(以下は杉並区のWebサイトから引用)。このような形で公開しているのは杉並区と足立区です。以下の表は杉並区の「杉並」保育園における歳児別の調整指数の分布です。これと同等の表が保育園ごとに存在していて、それぞれの保育園の歳児別でどのような調整指数の方が申込を行ったのかについて公開してくれています。
この情報によって、どの点数であれば安全圏なのか、どの点数であればギリギリなのか、といったことも分かるようになります。
④ 調整指数の内訳
最後に、調整指数の内訳です。おそらく、これはこれ以上ない公開レベルではないかと思います。どういった情報かは、実際に公開されている情報を見てもらうのが早いでしょう(以下は足立区のWebサイトから引用)。保育園ごと、歳児クラスごとの調整指数の分布に加えて、申込者ごとの調整指数の内訳(母側、父側の基準指数と、プラスアルファの調整指数のそれぞれの点数)までを公開しています。この形式で情報を公開しているのは足立区だけです。素晴らしい!
以下の表では、「千住保育園」の「1歳児」クラスにおいて最大の点数で内定した人は母側の基準指数が「23」、父側の基準指数が「23」、調整指数が「7」で、合計「53」になっていることが分かります。また、合計点数48点がボーダーラインとなっていることも分かります。
これによって、個別の保育園の人気やボーダーラインはもちろんのこと、他の申込者がどういったところでどの程度の点数を獲得しているのかといった点まで把握することが可能になります。
中央区の位置付け
上記に挙げた特徴的な取り組みを見た後に中央区の利用調整の結果を見ると、そのシンプルさに驚くばかりです。中央区は上記のとおり、「歳児別」の申込状況しか公開していません。「保育園別」の情報は公開されていません。申込状況と同じく、調整指数の下限に関しても見つかった中では最低の情報公開レベルです。これでもって、開示請求されて不開示を貫くのだから筋金入りです。
最後に
今回は東京23区の保育園の申込状況と当落ラインに関する情報の開示レベルを比較してみました。冒頭の繰り返しになりますが、元々の発端は、わたしの保育園に落とされたという過去の経験からで、そのときに感じた入園に関する情報がほとんどWeb上などに公開されていないという問題意識からでした。
もちろん、情報公開というのは二の次であることは言うまでもありません。希望する家庭の全てに対して保育サービスを割り当てられるようになることこそが達成するべき目標です。しかしながら、サービスの需要が右肩上がりに伸びていく一方で、供給はすぐに増やすわけにも行かず、待機児童の問題が早々に解決に向かうとは残念ながら思えません。この状況において、自治体として少なくともできるであろうことは十分な情報開示であるとわたしは考えます。事前に十分な情報を提供されることによって、前もって(必要以上に楽観するのでもなく悲観するのでもなく)適切な危機感を持って、自身の保活の戦略を組み立てていくことができます。
今回見てきたように、情報の公開のやり方は思った以上に区によって様々です。ある区では当たり前のように公開されている情報が、別の区では一切公開されていないというものもあります。したがって、杉並区の保育園ごとの調整指数の分布や足立区の調整指数の内訳の公開など、一部の区のグッドプラクティス、良い事例を横展開させるだけでも相当に情報の開示レベルは向上されます。そして、これはすでに他の区で実現しているものですから、実現可能性を検証する必要はありません。また、導入して外部から文句を言われるにしても「他の区にならった」という言い訳が可能です(役所的には結構重要な要素です)。
わたし自身としては、今回の調査によって改めて自身の住んでいる中央区の公開レベルが酷いレベルであることを再認識できたので、これらの情報を整理した上で審査請求における意見書の作成に励みたいと思います。近い将来に、この中央区がせめて他の区と肩を並べられる程度に情報が公開されるようになるよう、今後とも活動を続けていきます。